ワラワラ〜笑われてもいい、笑かせたい〜
@yu_takanashi
第1話 大スベリから始まる新生活
永遠のように長い静寂が、全校生徒を集めた体育館を包み込む。皆一様に困惑の顔をしている。
「見るな!そんな目で俺を見るな!早く舞台から下ろしてくれ!」そんな俺の切実な願いは叶えられることはなく、静寂の中心で佇むことしかできない。
あまりの静けさに耐えかねたのか、それとも女神のように優しい心がそうさせたのか、私の隣いた若手女性教師が蚊の鳴くような声で拍手を始めた。その拍手はやがて大きくなり、体育館全体を包み込む。ことはなく、小さな拍手のまま尻すぼんでいった。
俺の教師としての初仕事は、見るも無惨な形で失敗に終わった。
桜の花は散り始め、冬の寒さもまだ残る4月頭。今年から俺は春日高校の教師となった。とはいえ、教師になりたかったかといえば、そんなことはない。学生時代に潰しが効くよからと取った教員免許が役に立つときがきたというだけだ。この春から心機一転、人生をリスタートして新しい環境で頑張ろうと思っていた。のに。
教師として初めて生徒と向き合う就任式。今年から新たに学校に赴任した先生が一様に自己紹介をする儀式。俺はこの自己紹介が嫌いだ。どうせみんな、名前と担当教科とどこかのサイトのコピペのような当たり障りのないヒトコトことしか言わない。自己紹介を聞く生徒も似たようなコメントでは、飽きるだろう。それに肝心な顔と名前を覚えるという作業ができないだろう。
五十音順で1番だからという理由で、自己紹介は私から始まるらしい。なんで学校というのは、五十音順で順番を決めたがるのだろう?おかげで俺はいつも自己紹介はトップバッターだ。普通に自己紹介するぞと思いながらも、昔からの癖なのか口は勝手に動き出す!
「エントリーナンバー1番。大阪から来ました相川祐です。担当教科は英語です。特技はポ○ットモンスターが全部言えることです。皆さん、これこら一緒に英語とポ○モンの勉強をガンバリボン!!」
そして冒頭に戻る。
わかっている。まだ緊張感の残る環境、笑う空気が出来ていない状況でふざけたところで、笑い声なんて返ってこないことは。それでもマイクを渡されたら何かボケようと思ってしまう。。。そして失敗に終わる。
1人目が変な空気にしてしまったこともあってか、就任式は最後まで微妙な空気で終わってしまった。同僚の先生方本当に申し訳ございませんでした!!
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