萌黄色は鮮明に

Renon

揺れる木の葉

 初夏。緑豊かな森林に囲まれた有名なバーベキュー場。大学のサークルでの親睦会と銘打って開かれたそれは、真新しい学生生活への期待を過度に増幅させる。

「柊斗ー! なぁ、お前料理得意だよなー!」

 そう向こうで俺を呼ぶあいつも、同じように期待に胸を躍らせている一員だと理解するのは容易だった。照りつける日差し。初対面での浮ついた会話。押し付けられる準備作業。それらは次第に疲弊感を色濃くしていく。

 本来ならば、人脈を作り学生生活を充実させる為の第一歩としてこの場を活用すべきなのだろう。実際、周りの人は皆、出身校はどこだとか、学部はどこだとか、他愛もない話に花を咲かせている。そんな光景を横目に、俺はただ人気のない方へと足を進めた。

「あの、永井 柊斗くん、、だよね?」

 肩を叩かれた感覚と共に聞こえた少し高く甘い声の元へ視線を移す。

「向こうで一緒に準備しない?」

 少し首を傾けつつ俺を見つめた彼女と目が合う。見知らぬ顔だった。彼女が指差す方を見れば、さっき俺を呼んでいたあいつが大きく手を振ってこちらを見ている。

「あの人に聞いたの。料理得意だって。」

「得意って程でもないですよ。」

「あら、謙遜?」

「そんなまさか。ただの事実です。」

「ふふっ、私、前から柊斗くんのこと、かっこいいなぁって思って見てたんだけど、料理してるとこも見てみたいなぁ。」

 少し照れ笑いを含んだ彼女。世間的に “あざとい系女子“ と言われるタイプなのだろうと、恋愛に馴染みのない俺でもわかるほどだった。しかしながら、女性が苦手な俺の瞳に魅力的には映らない。

「ごめんなさい。ちょっと別の用が。」

 そう濁して足早にその場を去った。


 このバーベキュー場は、山と言っても良いほどには高台に位置している。その頂上付近にある展望デッキは隠れた絶景スポットだと、ここに来る道中自慢げに先輩が教えてくれた。今でこそ緑葉が広がる夏の姿だが、秋には紅葉、冬には雪景色と、季節によって大きく姿を変えるらしい。

 準備にはまだしばらくかかりそうだと予想を立て、その姿を一目見ようと俺は木々の中へと足を踏み入れた。

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