第24話 マスクウェルside2



「君にファビオラは渡すつもりはない。僕は諦めるつもりはないから、君に可能性はないよ?」


そう言って牽制したものの、ファビオラに気付いてもらうにはどうすればいいかわからない。


(どうしたらファビオラに僕の気持ちをわかってもらえる?なにが彼女をそうさせるんだ?)


いくらファビオラの心内はわからない。

焦りだけがマスクウェルを蝕んでいく。


ドレスを贈ったのもファビオラに愛されていると、気にかけていると思って欲しい、そう願って送った。

ドレスのサイズはファビオラの侍女、エマが教えてくれた。

彼女はファビオラと婚約者になった時から二人の関係をサポートをしてくれていた。


マスクウェルが今までファビオラを諦めずにいたのは彼女の言葉があったからだ。

『ファビオラ様を幸せにできるのはマスクウェル殿下だけです』

『どうかファビオラ様を諦めないでください』

マスクウェルはその言葉を信じてこの婚約関係を続けていた。


しかし、ファビオラのドレスに合わせる髪飾りを買い忘れたことに気づいて街に出ると、そこにはファビオラとトレイヴォンの姿があった。

仲良さげに会話して触れ合う二人を見て、何かが音を立てて崩れ去る。


(……何故)


ファビオラは以前よりもずっと美しくなっていた。

トレイヴォンの髪を結う彼女の指と屈託のない笑顔を見て、マスクウェルはグッと手を握り込んだ。

そのまま髪飾りを買うことなく、城へと戻る。

モヤモヤとした気持ちは膨らんでいくばかりだ。

彼女の心からの笑顔を向けられたい……しかしファビオラを拒絶しようとしていた自分にその資格はないのかもしれない。複雑な想いは募っていく。


そしてパーティーの日を迎えた。

ファビオラを迎えにいくために馬車に揺られながら考えていた。


(僕は……彼女に相応しいのだろうか)


そんな考えを掻き消すように、いつものように笑みを浮かべる。

すると屋敷から出てきたのは想像を絶するほどに美しいファビオラの姿だった。

照れたように俯くファビオラに見惚れていたが後ろにいるエマは力強く頷いた。

久しぶりにファビオラの触れた瞬間、このまま自分だけのものにしてしまいたいと強くそう思った。


マスクウェルは馬車の中でファビオラの赤らんでいる頬を見て窓を開けた。

髪が風に揺れるたびに甘い香りが漂ってくる。

愛おしさだけが募っていく。


ファビオラにドレスが似合っているかどうかを聞かれて、以前ならば恥ずかしくて誤魔化すように冷たいことをいっていた。



「とても……とてもよく似合ってる」



久しぶりに会ったからか素直な言葉がこぼれ出た。

ファビオラは手を合わせて喜んでいる。

マスクウェルのために頑張ってくれたのだとわかった瞬間に彼女を抱きしめたくてたまらなくなる。


その後もファビオラを独占したい、誰にも見せたくないと思っていた。

会場に着いてからもファビオラに見惚れる令息達を笑顔の裏で睨みつけていた。


ファビオラとダンスをしている時はまさに夢心地だった。

この幸せがずっと続けばいい、そう思っていたのにファビオラの頬からは涙が溢れ落ちる。


そのままファビオラが泣き出してしまう。

一体、何がそうさせるのかはわからない。


(ファビオラの笑顔を守りたいのに……!)


『ビオラ』という愛称を呼びながらこちらに駆け寄ってきたのはトレイヴォンだった。

ファビオラの涙が見えないように隠したのだろう。


ファビオラが他の男に連れて行かれてしまう。

そう思った瞬間、何かがプツリと音を立てて切れたような気がした。


マスクウェルはトレイヴォンの腕を引き留めるようにして掴んだ。



「待て」


「……!」


「ファビオラは僕が連れて行く」


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