第23話 マスクウェルside

グッと手を握ったマスクウェルは悔しさを噛み締めていた。


(あとどのくらい努力すれば、ファビオラを手に入れられる?)


この半年、ファビオラのことばかり考えている自分がいた。

顔を合わせないと手紙をもらった時、どれだけショックを受けたかなどファビオラは知らないはずだ。


最初は母の言うことに反発していた。


アリスとは恋愛感情はないが、婚約者として大切に思っていた。

ファビオラ・ブラックの噂は知っていた。

傍若無人でわがままばかり言って、散財しては威張り散らしている。

実際にパーティーで偉そうに踏ん反り返っていた姿を思い出す。

貴族としての気品もなく、ブラック伯爵家で働く者たちをいじめて楽しんでいる。

そう聞いていたため、悪いイメージしかなかった。


しかしファビオラとの顔合わせで彼女の雰囲気は大きく違っていることに気づく。


自分を貶める罠かと思ったが、どうも違う。

二度目では派手な容姿になっていたが、明らかに無理をしているように見える。

拒否しても嬉しそうにしている彼女に我慢ができずに本音が漏れ出てしまう。


元々、あまり人の機嫌を窺えるような人間ではなかったマスクウェルだったが、ファビオラはその態度すらいいという。


(馬鹿じゃないか……こんなこと)


全てを受け入れられる。

懐かしいようなむず痒い感覚になった。

だけど、彼女に会うたびに心惹かれている自分がいた。


(好きになるはずがないと思っていただけなのに……)


プレゼントを持っていっても好意を伝えようとしても、最初の態度が悪かったのか、自分に嫌われてると思っている。

ファビオラはマスクウェルと別れる前提で話を進めていると気づいて愕然とした。

それには焦って挽回しようと名前を呼んでみるものの、紅茶を拭いて倒れてしまう。

慌てて言い訳するファビオラが可愛いと思った。


やはり自分の気持ちをちゃんと伝えようとしていた時に、ファビオラからとんでもない事実を口にする。

そしてマスクウェルがファビオラとの婚約を破棄して捨てられたらアリスの幼馴染であり、ダイヤ公爵の次男、トレイヴォン・ダイヤと結婚するというものだった。


マスクウェルが侍女ではないと気付いたのか、呆然としていたファビオラからはさりげない告白。



(僕を好きと言いながらトレイヴォンの手を取るのか?何故だっ)


怒りで頭がおかしくなりそうだったマスクウェルはどう返事をすればいいかわからなかった。

マスクウェルは生まれて初めて強烈な嫉妬を覚えた。


そしてファビオラに何を言えばいいか考えているうちに彼女から半年間会わないようにするという手紙が届く。

それから自分が今までファビオラにしてきた対応を後悔していた。


(もっと早く彼女に想いを伝えていればこんなことにはならなかったかもしれない)


半年間、マスクウェルはファビオラに会えない間に死にものぐるいで努力していた。

ファビオラに釣り合うように、少しでも好きになってもらえるようにだ。

母も感心するほどだった。

マスクウェルはファビオラと結婚したい、彼女を幸せにしたいと本気でそう思っていた。

うまく気持ちを伝えなければ……学園に入る前のこのパーティーで想いを伝えよう。


そんな時、トレイヴォンが護衛となることが母から伝えられる。

彼からは前々から敵意を感じていた。


「なぜ、もっとファビオラ嬢を大切にしないのですか?」


トレイヴォンにそう問われて、手のひらを思いきり握り込んだ。

大切にしようとすればするほどに、彼女の勘違いはひどくなる。

マスクウェルにもファビオラの行動は読めないままだ。

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