バリキャリの皮を被った子供部屋お姉さんのお世話を頼まれたが、同居するとは聞いてないっ【第2回「G’sこえけん」音声化短編コンテスト ASMR部門】

椎名富比路@ツクールゲーム原案コン大賞

第1話 片付けられない依子お姉さん

 久しぶりだねえ。上がって上がって。

 そう。一人暮らし始めたの。いつまでも、お母さんの家事手伝いばっかりしていられないから。仕事だって、ちゃんとしてるんだから。

 ちゃんと片付いているでしょ? もう、片付けられない女じゃないの。炊事だってほらあ。やっている痕跡があるでしょ? お料理も作ってみたの。牛肉の赤ワイン煮? をやってみたの。いいでしょ? 食べてみて。


 おいしい? よかったあ! そんなにおいしい? 


「お店で買ってきたみたい」だって?


 う……まあ、それくらい。私だって腕を上げたのよ。

 

 ワインは何を使ったのかって? かなり高そうだけど、っと言われてもなあ。わかんない。市販のワインでも、なかなかいけるでしょ?

 なにを握り潰したのかって? テーブルにあった白い紙を見せろ? 

 やだなあ。男の子が、そんなの詮索しないのー。嫌われちゃうんだから。


 田舎にいた頃は、いつもキミに作ってもらっていたよね?

 歳下なのに、弟みたいに面倒を見てもらってさ。


 サキは元気? 

 私さ、ずーっと、あの子がうらやましかった。キミみたいな弟がいてさあ。

 最高じゃん。かわいくて、家事ができて。最&高だよ。一人っ子の私からすればさ。

 年上の男性と、サキは結婚したんだっけ? もう。あの子、キミの魅力を一つも理解していないじゃーん。

 そうだったんだ。キミがいたから、年上にあこがれを抱いちゃったと。

 ないものねだりじゃーん。そんなのー。


 さっきから、押し入れが気になるの?

 普段から片付けられない女なのに、そんなに変わるわけないって? 


 やだ。

 女は変わるのよー。私は変わったの。都会に出て、しっかりもので通すんだから。


 だったら、見せられるだろって? 

 ちょ、ちょっと待って。ウェイウェイウェイト。


 話しましょう。

 今はまだ慌てる時間じゃないから。

 ととと! 


 あーっ。



(大量に、ゲーム機やソフトが落ちる音)


……うううううう。



 うええええ。


 そうですよー。相変わらず片付けられない女ですー。私はー。

 このお料理だって、コンビニで買ってきて……知ってた?

 ああ、「雪平鍋がキレイだったから、パウチを茹でただけだろう」と推理したと。

 アンタ、天才なん?

 家事やっていたら、普通わかるって? さいですか。

 はいはい。どうせ私は、このお鍋が「雪平」っていう種類だってことも知りませんでしたよーだ。


 まあ、名探偵にバレてしまったら仕方ない。


 ごらんの通り、私は都会に出てからもこんな調子でーす。

 はあ。

 幻滅したよね? 「私は仕事に生きる!」ってカッコつけて、都会に出てきて。

 実際は、家事もロクにできない女のまま。

 情けないったら、ありゃしない。


 え? 私のお母さんから頼まれたって? 私のお世話役を?


 ん、お手紙があるんだね?


依子よりこへ。


 あなたは仕事と家事のマルチタスクなんて、できっこないでしょう。

 よって、家事のプロフェッショナルを派遣します。

 ただし、お金は出しません。あなたの給料から出しなさい。

 あと、一緒に住むことになるから、紳士用のスペースも確保すること。


                                母より』

 

 

 そうなんだ。



 わあ。うれしいなぁ。同時に、全然信用されていないってわかったー。


 この間から、忙しくてさ。どれくらい忙しいかと言うと、ゲームできないフラストレーションでゲームを買うってループに入ってたくらいだわー。


 キミが来てくれたら、私も仕事に専念できるってもんだし。


 お金のことは、心配いらないからね。こう見えて、高給取りなので!


 てなわけで、キミの部屋を確保しないと。

 あー。でも、散乱したゲームの下敷きになってるね。

 ごめん。すぐ片付けるから。


 ん? そんなのやっておくから、風呂入ってこいって?


 いや、さすがにお客さんだからさ。そんなこと。


 あー。もう家事係は始まっている、と。


 なら、お言葉に甘えていい?


 ありがとう。


 じゃあさ、私がお風呂に上がったら、ゲームしよっ。アイスでも食べながらさ。


 なんなら一緒に……って、おい作業に夢中になんなっ。

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