宇宙保険

ユッピー

一話完結

ある日、カルマ氏の家に営業マンが訪れた。

 「失礼いたします。私、保険会社のものです。早速ではございますが、現在、『隕石保険』の方には入っておられますでしょうか」

「『隕石保険』とは聞いたこともない」実際、カルマ氏は『隕石保険』なるものを聞いたことがなかった。全く、この保険マンはおかしなことを言うものだ。私を騙そうとでもしているのではあるまいな。

「さようでございましたか。では弊社の『隕石保険』について簡単に説明させていただきます。

昨今、この母なる地球には年間に5から10の隕石が降ってきております。10年では少なくとも50、100年の間には少なくとも500もの隕石が降ってきております。隕石が落ちた時の威力は強力で、時には地形を変えてしまうほどのものも含まれます。想像してみてください。そのような隕石が近所に、いやはやご自宅に直撃するとどうでしょうか。ええ、家だけでなくお客様の命まで危機に晒されるでしょう。

 そこで登場したのが弊社の『隕石保険』でございます。来たる隕石による被害のための保険でございます。現在、特別価格で提供しておりますが、この機会に加入してみてはいかがでしょうか」

 カルマ氏は少し思案したが加入することに決めた。

 「ありがとうございます。わが社が、隕石の被害から、誠心誠意をもって守らせていただきます。

 ところでではございますが、この度、『隕石保険』に加入していただきましたお客様には、特別に『太陽保険』への加入を勧めさせていただいております」

 「それは一体何だね」

 「ご存知ではありませんでしたか。それでは、それについても説明させていただきます。

 太陽の表面は超高温で、人類が近づこうものなら、人類は決して生きてはいられません。また、太陽はとてつもない質量があるため、その引力は凄まじいものです。では、考えてみてください。我らの地球が太陽に引っ張られるとどうなるでしょうか。地球上の全人類はその高温の耐えられるはずもなく、跡形もなく滅んでしまうことでしょう。

 そこで登場しましたのが『太陽保険』でございます。弊社がお客様を守らせていただきますが、どうでしょうか」

 カルマ氏は加入を即決した。

 その後も『火星保険』、『ブラックホール保険』、『ビッグバン保険』が紹介され、カルマ氏は迷うことなく加入した。

 

 それから50年後。太陽が地球に接近し、数えきれないほどの隕石が地表に降り注いだ。有り余るほどの隕石はカルマ氏の自宅にも落ち、カルマ氏は慌てて例の保険会社に電話をかけた。

 「はい。こちらOO保険会社でございます。本日はどうされましたでしょうか」

 「もしもし。こちら、50年前にそちらの『隕石保険』に加入した者だが。私の家に隕石が落ちたのだ。早く保険金をくれないか。このままでは私の命に関わるのだ」

 「さようでございましたか。では、すぐそちらにお金を送付いたします」

 「そうだ。早くしてくれ」

 数時間後、カルマ氏はこれまで目にしたこともないほどの大金を手に入れた。しめしめ、これほどの大金があればなんだって買えるではないか。まずは手始めに家でも買おうか。スポーツカーもいいな。いや、世界旅行とやらもしてみたいものだ。

 カルマ氏の夢は限りなく広がった。

 数時間後、今度は太陽がさらに接近したために、もはや地表の温度は60度までに上昇した。カルマ氏は暑さに苦しみながらもなんとか例の保険会社に電話をかけた。

 「こちらOO保険会社でございます。本日はどうされましたでしょうか」

 「もしもし。こちら、50年前にそちらの『太陽保険』に加入した者だが。今、暑くて暑くて仕方がないのだ。早く保険金をこちらに送ってくれ」

 「さようでございましたか。すぐにお金を送付いたします」

 カルマ氏は今か今かと、お金が送られてくるのを待った。やがて、カルマ氏のもとには、さらなる大金が届いた。カルマ氏は暑さで朦朧とする頭を必死に起こしながらも、お金に困らない夢のような生活を想像した。まるで夢のようだった。

 カルマ氏はまもなくしてから、灼熱のために意識を失った。カルマ氏の夢は、太陽の衝突とともに、叶うことのない夢となった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

宇宙保険 ユッピー @yuppy_toishi

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ