有明さんとでぇとする
狐照
第1話
ここはつきばみ町、月を喰らう神様が
神様は本当に居るのだと、御爺さんは幼い俺に何度も語った。
都会じゃあ神様は社会にすっかり溶け込んでしまっているから見分けることが難しくなっているようだが、この辺りじゃ月喰山の神様は御身顕現、お山を歩いておられる。
くれぐれもお山で罰当たりなことはすんなよ。
御爺さんはいつも俺にそう言い聞かせた。
お母さんはあまり信じていないようだった。
俺もあまり信じていなかった。
けれどお父さんは信じていた。
お父さんの田舎だからだろう。
俺はよくある地元の言い伝えだと、ずっとそう思っていた。
それに、簡単に行ける距離にないお山になんて興味が無かった。
お父さんとお母さんを事故で失った俺は、お父さんの実家で生活していくことになった。
御爺さんは最初からうちに来ればいいって言ってくれていた。
けれどお母さん側の親戚がちょっと五月蠅かった。
最初は都会で暮らしたいなとは思った。
けれどお母さん側の親戚は事故死した両親の保険金が目当てのようだった。
良心から俺を引き取りたいと、そう言ってくれたのは御爺さんだけだと理解した俺は、なーんにもない田舎へ引っ越した。
引っ越しした当初は不便だしなにもないし、何より悲しくて塞ぎ込んでいた。
けれど俺は出会ったんだ。
まるで月明りのように、俺の暗闇を照らしてくれる存在に。
月喰山の登り口から伸びる長い石段の上に建てられた神社にて、関係者だけで行われる祭事がある。
俺はつきばみ町に来て初めての年、そのお手伝いをした。
夏の、一番暑い日だった。
蝉がわんわん鳴いて、木陰に居ても熱くてクラクラした。
普段お山は涼しいのに、こうも熱いのはやはり神様がご立腹なのだろう。
御爺さんは祭事の参加者とそんなことを話していた。
どうして怒っているの?と訊ねると、
「神様のお住まいや聖地を荒らす馬鹿が最近多くてな」
「動画撮影だと許可を取りに来る連中はまだいい」
「無許可でお山に登って、神様に天罰喰らう奴が後を絶たんのだ」
そう説明され、最近流行りの動画サイトの所為だと理解した。
「立て看板をしてもそれすら壊す奴も居てなぁ」
準備をしながら対策をうんうん考案している姿に、俺は本当に神様が存在してるって信じているんだな、と思った。
俺は神様の存在を信じていなかった。
けれど御爺さんから神様を敬う気持ちを教えられていたので、隣人のように存在しているとは思っていないが、無礼な行いに対して怒る信仰心は持ち合わせていた。
だからなにか対策出来ないかな、と一緒になって考えることは出来た。
祭事は恙なく進んだ。
とても暑かったけどなんとか終了した。
俺があまりにもフラフラしているから、御爺さんは先に帰ってていいぞって言ってくれた。
本当はお山で一晩明かさないといけないのだが、途中で倒れるのは迷惑になってしまう。
俺はお言葉に甘えることにした。
関係者各位に頭を下げると、皆さん良いから早く帰って休みなさいって言ってくれた。
回復したらお酒の御摘まみを差し入れしなければ、とその場を後にした。
夕暮れにはまだ早い。
だから太陽の日差しは強くきつく、明るい熱い。
家からお山までは車で来ていた。
車の運転、出来るかな。
ついこの間免許を取得したばかり。
体調も相まって、不安になりながら石段を下りる。
世界が、ぐらあって、なった。
それに対して焦る。
けど、身体がいうことをきいてくれない。
倒れる転ぶ落っこちる。
「おっと、危ない危ない」
悲惨な結末に身構えていた。
なのに斜めになって止まってる。
綺麗な声だった。
低いのによく通る。
「キミ、大丈夫?」
優しい問いかけに俺は答えることはできなかった。
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