第17話 ギルマスの部屋
さて、こちらは自分を巡って、とんでもない騒動が起こっているとは夢にも思わぬネッド・ライザー。
魔石を使った機能付加職人の友人アスティと、カフェ「ポラルゾ」で有意義な歓談を楽しんでいた。
「じゃ、そろそろ出ようか」
ネッドが奢ったミレッズオレンジのパイを、ペロリと平らげたアスティが提案する。二人は会計を済ませると、喫茶店を出た。
「さぁってと、じゃぁ店に戻るとするか……」
アスティと別れたネッドが呟くと、後の方から彼を呼ぶ声が聞こえる。
「ネッド! なんだ、こんな所にいたのか」
ネッドを呼び止めたのは、ギルドマスターであり、彼の伯父のガントであった。メルがいつまでたっても戻って来ないので、様子を見に表に出て来ていたのである。
「あぁ、ギルマス。何ですか。こんな所って?」
何故、伯父が往来に出て声をかけてきたのか、まるで分らないネッドが尋ねる。
「メルは、メルはどうしたんだ。お前を呼びに行ったはずなんだが……」
伯父の言葉に、行き違いに気が付いたネッドは事情を説明した。
「そうか、まぁメルも、おいおい帰ってくるだろう。ところで、メルをやったのは他でもない。お前に少し大切な話があるんだ。今度の探索に関連してな」
何だろうとは思ったものの、ネッドは大人しくガントのあとについて、ギルド館に再び入っていく。ロビーには既に冒険者の姿はまばらで、ライルたちパーティーの姿も既にない。ガントがスタッフに申し込みの状況を尋ねると、どうしても外せない依頼がある者以外の大半が、彼の要請に応じたようであった。
一方、ネッドと別れたアスティは、友人と楽しく過ごした余韻に浸りながら、家路についていた。だが彼の行く手に、思いもよらない災難が待ち受ける。
「よぉ、そこの魔石職人」
ドスの効いた低い声が、突如としてアスティの後ろから響く。彼が振り向くと、そこには人相の悪い、似通った顔の二人組の男が立っていた。
表でそんな事が起こっているとは想像だにしないネッドは今、ギルド館の奥にあるギルマス専用のオフィスにいた。てっきり、会議室辺りに通されると思っていたネッドは怪訝な顔をする。
探索に関する打ち合わせなら、わざわざ余人を排するようなギルマスの部屋へ来る必要はない。何か個人的な話なのかな、とネッドは考える。ま、まさかメルとの結婚話……!?
何を切り出されるか不安でたまらないネッドであったが、勧められるまま、高級そうなソファーに伯父と差し向かいで腰を下す。
「えぇっと……、話というのは何でしょうか」
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