第4話 お得意様

「オマケって?」


ライルが食いついてきた。


「今度は、剣にサラマンダーの魂石を使った機能付加をするとします。その剣は当然ながら、モンスターが吐く炎を打ち払う事が出来ます。これは防御効果ですね。


だけどそれに加えて、その剣は火の属性を持っていますから、氷や水系のモンスターに対して大きな攻撃効果をもたらすんですよ。


ま、一石二鳥ってとこですか」


「それって、魔石じゃ出来ないの?」


興味で目を爛々と輝かせながら冒険者が問う。


「出来る事は出来ますが、一つのアイテムに二つ以上の機能を付けるのはレベルの高い付加職人にでなければ難しいですし、魔石もその分多く必要です。でも魂石なら最低限の量で可能なわけですよ」


「よっ、ネッド。鼻高々だねぇ」


ライルにからかわれ、自分の解説に酔い始めていたネッドが赤面する。


「ほらほら、若い職人さんをからかっちゃダメでしょ」


突然、ライルの後ろから、彼と同年代の女性魔法使いが声をかけてきた。


「なんだ、マルチェナ。遅いお着きだな」


ライルが振り返る。


話に夢中になっていたネッドは、彼女が入って来た事にまるで気がつかなかった。


「なに言ってんのよ。あんたが私を置いて先に行っちゃったんでしょう?」


この魔法使いは、何やらご立腹のご様子だ。


「いや、気持ち良さそうに寝ていたからさ。起こすの面倒くさ……、いや悪いと思って一人で来たんだよ。っていうか、そもそもお前は冷やかしだろ?」


戦士は遠慮ない口をきく。


「はぁ? ふつう起こすでしょ、ふつう! だいたい……」


そこまで言いかけたところで、白いローブをつけた魔法使いは、幼さの残る店主がキョトンとしているのに気がついた。


「あら、ごめんなさい。このバカがあんまり酷いこと言うもんでつい……。初めまして、私はコイツと腐れ縁でパーティを組んでるマルチェナといいます。


昨日の仕事で、ライルが珍しい鎧を付けてたんで気にはなってたんですけど、聞けば魂石で機能付加したっていうじゃない。それでちょっと興味が湧いて、今日一緒にここへ来る約束だったのに、このバカが……」


しとやかな喋りの中にも、険のある言葉が散りばめられる。


「寝坊するお前が悪いんじゃねぇか。文句を垂れるな」


バツが悪そうに頭をかくライル。


「あぁ、はじめまして。ネッド・ライザーと申します。ライルさんには色々と良くしてもらって……」


「気にしないで、単に珍しがり屋なのよ」


マルチェナの言葉に、ネッドは複雑な気持になった。


確かに魂石を使う付加職人は珍しく、付加職人の別名であるアディショナーの中でも特に”スピリッツァー”と呼ばれる存在だ。しかしこれは希少な存在というよりも、絶滅寸前の少数派という意味合いの方が強い。


「そうなんだよな。魂石を使う付加職人なんて、話でしか聞いた事なかったんでよ。興味津々で、試しに機能付加してもらったってわけさ。


そしたらレザーアーマーなのに、使い方次第ではプレートアーマーに匹敵する活用が出来そうな代物が出来上がったって寸法だ」


ライルが自慢げに顎を突き上げる。


「それで私も興味が湧いて、一度お店を覗いてみたくなったわけ。それを……」


魔法使いの言葉にネッドは心弾む。こういった繋がりでお客が増えれば、それは店の安定経営につながるからだ。


「ところでライル。あんまりノンビリできないわよ。ほら、ギルドから話のあった”半強制”の依頼の件、レクチャーの時間に間に合わなくなっちゃう」


”どうせ忘れてるんでしょう?”とでもいいたげな目でマルチェナが相棒を睨む。


「おっと、そうだった。ま、今日は良い品を作ってくれた礼に、チョット寄っただけだからさ。じゃぁ、またな。っていうか、あんたもレクチャーに来るんだろ?」


「えっ、え~とネッドさんでしたっけ。あなたもレクチャーに来るの?」


ライルの意外な言葉に、魔法使いが不審な表情を見せる。


「えぇ、僕もギルドに冒険者登録してるんですよ。この辺には、既に精製された魂石を扱う業者はいませんから、自分でモンスターを狩って魂石に精製する事が多いんです。


あ、もちろんスライムとか、弱いモンスターが相手なんですけどね。中級以上のモンスターの場合は、他のパーティーに加えてもらってメンバーの方が倒したその場で魂石に精製するとか、ギルドに持ち込まれてきた獲物を譲ってもらうとかして、魂石を手に入れてるんです。


で、その為にはギルドに所属していた方が色々と便利なんですよ」


「そぉ、スピリッツァーも大変なのね」


マルチェナは物珍しそうに頷いた。


「あら、お客さん?」


店での賑わいを聞きつけ、シャミーが店に顔を出す。


「あらまぁ、可愛いらしいお嬢さんだこと。こちらは……?」


マルチェナの顔がほころぶ。


「彼女は店主の妹君、シャミーちゃんで15歳。健気に店を手伝ってるんだよな。俺とはもうすっかり仲良しだ」


ライルが親指で自分を指さした。


そう、確かに仲良しだ。でも彼がシャミーの表の顔、いや”商売顔”というべきか、それにまんまと騙されているのを知っているネッドは心の中で苦笑する。


「いつも兄がお世話になっています。開店間もないこの店が成り立っているのも、ライルさんの様なお客様がいるおかげです」


もう接客の悪魔としか言いようのない、満面の笑みで冒険者たちに愛想を振りまく妹を見て、あぁ、こいつが妹でよかった。さもなきゃボクの方が騙される立場だったろうよとネッドは思った。

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