第8話
「…もしかして、その塀との間にあるスペースに入り口があるとでも…?」
広げているのを上から覗き込んで言ってみる。
「むー後で行ってみようじぇ」
後、ここ早く出よう、と小声で付け加えて来る。
どうやら小さい声で話すのに疲れてきているようだ。
普通逆だろ。
「…まあ、不向きだと思うけど…」
俺はにっちもさっちも行かず居心地が悪いともぞもぞする優津のために、さくっと気になるページだけ見て、パンフレットを閉じることにした。
図書室を出た途端、居苦しいはぼけぇ!と暴言を吐く優津。
本当にもう二度と利用できないかもしれない。
「さ、次は職員室じゃー」
いよいよ元気になってきた小柄なそれには、どんなエンジンが搭載されているのか。
歩き疲れた俺はとぼとぼ付いていくしかなかった。
そして、職員室で頂いた答えも、分からない。
鍵もない。
だった。
あまりの完璧な隠蔽というか、強固な感じに、優津はついつい俺たちの担任猪野瀬先生にケンカを売り始めた。
ちょっと意味が分からない。
大事なネジが飛んだ優津を止めるのには体力が居るので、俺は廊下に顔を出してある人物を捜す事にした。
多分この時間に職員室に寄るはずの人物を。
背後で優津が独身貴族ばんざーいってゆえーと暴走苛烈を極めているが、先生たちの間でも彼は触らぬ優津に害はなし。
嫌われ者ではないが、避けられている割と頭は良い方の優津くん。
これで成績も悪かったら、出来の悪い不良生徒より人として駄目だろ。
それでも俺にとっては友人変わりはなさそうだけど。
なんか具合悪くなってきた。
そろそろ帰りたいなと思っていたら、探していた人物が廊下の奥の方からやって来てくれた。
いのせっちゃんは、熟女がね好きすぎなんだよ!と、優津がどこかで得た情報を暴露し、猪野瀬先生の悲痛な叫びが木霊した。
もう少しの辛抱です、熟女キラー猪野瀬先生。
「…美島さーん」
訴えかけるように呼ぶと、美島さんはすぐ俺だと気づき足取りを速めてくれた。
「やあ有馬、相変わらずでかいな」
おっとりとした見た目のくせに割と毒舌な風紀員の美島さん。
「…身長は風紀の乱れに違反するんですか…」
「ははは、ごめんな」
定例のやりとりの後、美島さんは優しい笑顔を作り、
「で、奴はこの中に?」
めらめら、闘志的なものを身体から放ちだす。
「…担任に絡んでるので…」
しばしの沈黙、息をひとつ吐き、
「まかせとけ」
優津の超天敵、美島さんは厳しい声で失礼しますと一例して、戦場に躍り出た。
もちろん俺はそれと入れ替わるようにして、職員室から出て。
いつも通りの阿鼻叫喚を背後に、疲れた身体を休めたくてしゃがみ込んだ。
たいして小さくもならないけれど。
そうして少し、考える。
西洋貴婦人のことを。
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