第3話

別館も本館同様の構造にがっくりくる。

まあ丹後さんの捉えようのない表情にもがっくり来るけど。


「こいつたねうま、なにかとビッグな俺のだち」


「有馬だって、本当すみません…一年二組の有馬です、優津が多分迷惑かけてます…」


下ネタな流れに気付いていませんように。

品の良さそうな丹後さんに伝わってませんように。


「初めまして…二年一組丹後です…でかいな、君」


さばさばした印象通り率直なご意見が出る。

目立たず騒がずが功を奏しているようで、俺の存在に気付いてない先輩はまだまだいるようだ。

現に部室棟にいる俺を見る周囲の目は驚きに満ちていた。

目の前の丹後さんもまた然り。

小柄な優津と比べたらでかいです、いえ比べなくてもでかいですごめんなさい。


「そ、何かとビ」


「…そんなことより聞きたいことがあるだろ憂鬱」


下ネタであろう台詞を遮って俺は先へ促す。

本来の目的を忘れて日和っても良かったが、背に腹は代えられない。


「あ、そだったそだった。なな、『西洋貴婦人』についてなんだけどさ」


「え、お前らも調べてんの?」


何か知りませんかと続ける前に、お前らも、と言われてしまった。

驚きというより呆れる、という方が正しい顔をする丹後さん。


「…お前らも、と言うのは?」


「毎年居るんだよ。『西洋貴婦人』は誰だったんですか、って聞く奴。今年も結構聞かれたなぁ」


「なっなにぃっっまじでかっ!」


アニメの世界だったら効果音はガーン、と付けられそうな位優津は肩を落とした。

自分が初めての発案者だと思っていたのだろう。


「…今年も…俺たちは何人目ですか?」


「うーん…すまんな数はちょっと覚えないな。なにせ何人も聞いてくるし探し回ってるし…まあ流行の時期はとうに過ぎてるしなぁ…」


優津はうなだれたままぴくりともしない。

このまま諦めて欲しいとこだ。


「先に言っとくけど、伝統だからうちの部員じゃないぜ。俺たちだって知りたいくらいだ」


『西洋貴婦人』は誰が演じているのか分からない。

この学校の生徒であることには間違いない。

毎年配られるパンフレットに、いつも記載されている事実だ。

ただ少し気になるのは、


「…正体、見破ったって話し聞きますか?」


学園祭は11月。

今はもう2月。

全校生徒が固唾を呑んで魅入る劇だっていうのに、そんな噂を耳にしたことは一度だってない。


「いや、それが聞いたことないんだよなぁ」


その返答に優津がガバっと息を吹き返し顔を上げる。

不死身のゾンビみたいな動きだ。


「つまりは、誰もまだ解明したことがないってことじゃん?」


きらきらぎらぎら優津が再燃して目を輝かせ、丹後さん俺を交互に見る。


「いやっふぅ!たねうまぁ、絶対解明おれたちん!」


両手を天に掲げ、足ははじたばたを繰り返す。

奇妙な踊りと怒濤の盛り上がり方に、俺は無言で丹後さんに謝罪した。

周囲の目は本館でも同じ、触らぬ優津に害はなし。

目の前の小さな生き物は無視して、俺は丹後さんが知っていることを聞き出すことにした。

さしあたって『西洋貴婦人の部屋』のことを。

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