第2話
放課後、俊敏な優津に捕まった俺は少し肌寒い廊下を歩いていた。
「つまるとこまず率直に、演劇部を当たろーぜ」
例によって校則違反常習犯優津は、黒猫の柄が入った白いネクタイを締め直して息巻いた。
「まあ、妥当だろうな」
優津の旋毛に返事をして、俺は窓に目を向けた。
大正に創設された学舎は、そこかしこに凝った装飾が施されている。
モダンというべきなんだろうけど、どの窓枠にも煤けた金と椿と波模様の細工が入った金属でガラスをはめ込んでいる。
伝統ある学舎、由緒正しく真面目な男子が通う私立神宮高校。
育ちの良い坊ちゃんが通う、清く正しく漢らしく、正々堂々威風堂々を校訓にしている。
悪くはないんだが、少々時代遅れな学校だ。
建物自体、近年改築して現代の技術を常備しているが、デザインは当時のまま。
時折しゃれて磨りガラスだったり、多目的室のドアノブがライオンだったりと、そこかしこの大正モダンには未だに慣れない。
あと小中高あるので、上がり組にもなじめない。
本館から別館に繋がる廊下の床は何故か椿柄のタイル張り。
優津は小躍りするようにそれらを踏んでいく。
「演劇部ぅー演劇部ー」
演劇部の部室は別館半地下一階しかも一番奥にある。
体育館と武道館と講堂そして部室、それらの施設を複合したのが別館だ。
移動が面倒な上に迷子になる奴も少なくない。
考えてみたら辟易することが多い母校になる学舎だ。
まあ建造物として一番辟易するポイントがあるけどな。
「つきましてはたねうま君、そこの上のでっぱりにご注意」
「え?っつ痛っ……」
目から火花が飛び出た。
避け損なってぶつけた左側の額から、血が出てると錯覚させるくらい痛みが滲み出る。
「注意っつーたじゃん」
見上げ眼は痛そう、と同情の色。
「ここら辺来たことないから油断した…」
左手でしたたかに打った場所を押さえ、右手で天井の梁を確認する。
冷たい梁に、思わず熱を持った箇所を直接ひっつけた。
初めて来る場所は油断ならない。
だいたいからしてこの校舎で安心出来るのは体育館と講堂ぐらいなもんだ。
「うお、届くんかい」
「ぶつけたら届くだろ…」
もう人ごとの優津は殆ど梁に向かってしゃべる俺を尻目に、
「あ、演劇ぶっちょさん発見したっ確保してくるぜー」
暢気に狩りに出かけて行った。
「うお優津、なんだよ、急に演劇部入りたいとか言うなよな」
「言うか、それよりきびきびだんご」
「誰がきびだんごだ、丹後だって言って……あれ、何?」
ひんやり気持ちの良い梁に落ち着いていた俺は、演劇部部長丹後さんが発見したであろう発言で、我に返った。
「首無し高校生」
「都市伝説にするな」
頭を下げて梁を越え、一階が半地下になっている別館に階段を下って辿り着く。
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