そう呼ばれたかったけど諦めて農業始めました

狐照

第1話

飯が上手く炊けた。

それだけで十分だ。

甘い匂い。

腹が鳴る。


川に戻ってきた魚と、回復した森で採った茸を網の上で焼く。

味付けはシンプルに塩。

胡椒は後でお好みで。

タレは好みじゃないんで作ってない。

醤油と味噌は作ったけどな。


「味噌汁の具、野菜だけでもいいか?」


今夜の山菜の味噌汁は俺の自信作だ。

やっぱり味噌汁は毎食飲みたい。

味噌とダシ、作ってよかった。


「…あの、えっと…」


返事のような戸惑いに苦笑しつつ、俺は味噌汁の鍋を掻き混ぜる。

良い匂いだ。

涎出る。


「あの…」


「うん?」


一応味を見ておこう。

俺はもとい、こいつはまだ若いから、少し濃い味のほうがいいだろう。

ちょっと塩を足す。


「…わたしは、あなたを連れ戻しに来たのです。…その…食事を提供して頂くわけには…」


もじもじしながら言われて、俺はあっそって思った。


「じゃあ帰っていーぜ」


そう冷たく言うとにしゅんと肩を落として小さくなる。

犬みたいだ。

変わらない。

頭を撫でてしまいたくなったが、今はそいう間柄じゃない。


「何度御言葉頂戴しようとも、俺は帝国軍に戻るつもりはございません。微塵の欠片もございません。そもそも俺を追放したのは、俺を貶め陥れ蹴落とそうと、俺を亡き者にしようと、していたのは其方さんじゃあございませんか」


「そ、それはっ!!!」


足をもつれさせながら立ち上がる。

掘り炬燵から上手く抜け出せなくて藻掻いてる。

可愛いな、お前は、昔から。


そんなさ、泣きそうな顔で見てくれるな。

お前は知らなかっただろう。

お前以外は知ってたぞ?

そして加担していた。

俺でも理解出来たぞ?


俺は、邪魔者だった。

異物だった。

目の上のたんこぶだった。


頑張ったのにさ。

頑張れば、頑張った分だけ除け者だ。

かなしいなぁ。

今思ってもかなしい。

むなしい。

あんなに実にならないこと我慢して繰り返したのに。

むくわれない。

みとめられない。

褒めてももらえない。


だから止めたのだ。

大勝利確定だったから。

もう限界だったから。

俺が滅ぼした敵国、全部無くした敵地を褒美に頂戴して辞めた。

なんか階級は返還になった。

別にどうでもよかった。

帝国軍のなんか特攻隊長みたいな階級な。

覚えてない。

うん。

興味がなかったし、どんな階級階位意味はなかった。

どんなに武勲あげても難癖付けられまくったから。


虚しい日々の反芻は飯マズなのでやめておこう。


「俺は、俺が駄目にした大地を浄化して取り戻す贖罪に夢中なんだよ。ほおっておいてくれまいか」


俺は色んな大地を駄目にした。

焼いた。

汚した。

犯した。


だから自然を取り戻すのは贖罪だ。

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