窓がこわい
晴れ時々雨
🪟
霊感があるなんて言うつもりはありません。学生の頃、クラスメイトがそんなようなことで騒いでいたときも、まったく分からなかったし。でも窓が怖いんです。他人の家の前を通ったりすると、ふと窓を見ることがあるじゃないですか、何気なく、無意識に。そこに人がいるんです。たぶん、いるはずのない人。
あれは私が幼稚園の頃だったと思います。お迎えに来た母と家路に着く途中、母が隣の家のおばさんと家の前で世間話を始めました。私もそばにいて、お隣には室内飼いの猫が窓際にいることがあったのでその位置から見える窓を全部見渡して探していました。猫は2階の、たぶんおばさんの寝室の窓にいました。するとその窓に並ぶ同じ作りの窓のところに女の人が立ってこちらを見下ろしていました。今の感覚でいうと、年齢は大体30代くらいでしょうか。その人は私と視線が合っているようなのに何の反応もみせず身動きもしないでただこちらを見ています。
「おばさん、あれだーれ?お客さま?」
何か異様なものを感じた私は母たちの間に割り込んでおばさんに訊ねました。
私の指差す方向をみたおばさんは怪訝な顔をしました。すぐに母に窘められ、そのまま引きずられるようにして我が家へ帰ったんです。どうやら大人二人には見えていないようでした。
お客さんかと問うたのはおばさんちの家族ではないと思ったからでした。その家には私より少し上の男の子がおり、女の人が立っていたのはその男の子の部屋だったのを後で知りました。
それから、お隣の窓を見るたびに誰かしら見かけるようになりました。もちろんご家族以外の人です。見始めるようになると、その見知らぬ人を見かけるという現象がおもしろくなって、他の家の窓も注意して見るようになりました。すると、視えるのです。私が見る窓に必ず人が立っている。色んな人。全員違う人たち。今まで気づかなかっただけでずっとそこにいたのだろうか、なんて楽しくなりました。どの人もこちらを見ているようなのに無反応。
そして小学校に上がり、また窓に人を見つけたある日、私はその不思議な人に手を振ってみようと思いつきました。どうせその家の人ではないんだから、こっちが一方的に叱られることはないだろうと思ったんです。
今までは離れた窓越しに姿を確認するだけでしたが、このときになり初めて表情を読み取れるくらい注視しました。
振ろうとしてあげかけた手が、体ごと硬直しました。窓の中の人の眼球がくるくると激しく動いていたのが判りました。おもちゃか人形のようでした。今までは絶対に生きた人間だと思っていました。でもこの時から全てがわからなくなりました。
男の人女の人、子供からお年寄りまでありとあらゆる人影を見てきて、今それが作り物だったかもしれないとわかった。だから何の反応も示さなかったんだ、と思いました。ぐるぐると上下する黒目がスロットのように延々と回り続けています。急に、これ以上見てはいけないと閃きました。回る目が止まり、今度こそ本当に視線が合ったりしたら大変なことになる。そして慌てて家に帰りました。
それからも人はみえます。気のせいかそうでないかわかりませんが私にはみえるのです。あれは生きている人間ではない。いいえ、それすら自信を持って言えないのです。わからない。誰にも言えません。だってどうせ私にしかみえていないのですから。
窓がこわい 晴れ時々雨 @rio11ruiagent
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます