届かないのは頭一つ分

狐照

第1話

俺よりも頭一つ分そいつは背が高い。

髪は茶髪で、猫みたいな緑色の瞳。

飄々とした性格に身軽な生活態度は、まるで野生の猫ようで。

憎まれず愛される、簡単な話人気者って奴だ。


無駄なく整った面構えで、悪霊も足を見せて誘惑し従順になるって噂がある、まあ本当だろうし。

男からも女からも、言い寄られて上手に遊んでいるようだし。

学校の先生やどっかのお偉いさんも虜になってるって話だし。

だからと言ってそれが俺になんの関係があるってんだ。

とんでもない高校一年生ってやつだ。

まあには俺は関係ない。

そう、興味ない話だ。


だのに、突然声を掛けられた。

違うクラスだってのに教室にやってきたそいつは、俺の前の席にさも当然と座り、


「お前付き合ってる奴居る?」


いきなりそんなことをのたまった。

こいついきなりなんだ。

緑色の綺麗な猫目に色っぽく見つめられるが、答える義理はまったくないので無視することにした。

視線を外しそっぽを向いた先に顔が追ってきたのには驚いたが。

それ以来、どれだけ無視してシカトしても、そいつは俺の隣に居続けた。

そして俺を好きだと言い続けた。


「お前って、好みなんだよ」


ふざけんな。

死ね。

いくらお前がでかいからって、妖怪もなんとか人間のふりして手籠めにしてもらおうと画策するくらいの男前だからって。

俺を女扱いしようとすんじゃねぇ。

冗談にも程がある。

ブチ切れも通り超し、静かに怒りながらあしらい続けていた。


なんで顔が毎度赤くなって、まともに視線を合わせられなくなるのか、分からないのにも苛々するし。

心臓が激しく脈打つのもわけ分かんねぇし。

ああもう、とにかく忌々しく、突き放す。

それに限ると踏んでいた。


ある日、


「好きだ」


真面目な顔でそう言われた。

名前を囁かれきつく抱き締められ、抵抗する前にキスされた。

唇にそっと重ねるだけの、触れるだけのキスだった。

脳みそが噴火して耳からマグマになって飛び出るんじゃないかと思った。

焦点をどこに合わせるべきか、混乱し驚愕し唖然とする俺に、猫目眼の男は不抜けた笑顔を浮かべやがった。

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