時と想いとボトルメール

一花カナウ・ただふみ

時と想いとボトルメール

 自分の言葉が相手に瞬時に届いてしまう、こんなご時世だからこそ、なのだ。

 僕は想いを綴り、ガラス瓶に封じた。

 ペットボトルだとゴミの不法投棄だと思われてすぐに回収されてしまいそうだし、うまいこと漂っていても朽ちてマイクロプラスチックなんかになってほかの生物たちの迷惑にはなりたくない。ガラス瓶が特別によいというわけではないが、僕はシーグラスを集める趣味もあったから、つまりはそういうことだ。

 この浜の海の色を模したガラス瓶を波の中に放るとすぐに紛れてわからなくなった。

 いつか瓶が割れて、紙に書かれた言葉は海にとけていくのかもしれない。誰かのもとに届いて、彼の心の中にしみていくのかもしれない。僕にとってはどちらでも構わない。

 僕にはこの儀式が必要だったのだ。


「終わったか?」

「うん」

「この浜、ちゃんと外に続いているのか?」

「そこは抜かりなく調査済み。遠洋に潮の流れは続いてる」

「そうか」


 兄は遠くに目をやった。水平線が映っている。


「ってか、遠くまで流れが続いていなかったら、父さんも母さんも見つかるはずだろう?」

「……そうだな」


 両親は災害で海に流されてしまった。たくさんの人が探してくれたけれど、遺留品さえ出て来なかった。

 あれから三年になる。


「どこかで欠片でもいいから見つかればいいのに」

「両親が確かに存在したってことは、俺たちが証明してるじゃないか」


 そう返して、兄は僕の頭を撫でた。

 今日は母の日と父の日の間の日。僕の綴った言葉が海に消えた二人に届きますようにと密かに願った。


《終わり》

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