病院編 大学日本拳法で学ぶ問題解決の思想  V.3.1

@MasatoHiraguri

第1話 生と死の別れ路

***文中の「妻」とは、10年前に離婚しております。***


10月のある晩、義理の親父が夕食(の酒の肴)でスルメを食べ、腹痛(便秘)で苦しんでいる、と妻が隣りの実家から駆け込んできました。

親父はその当時80歳近くで、歯が全部なかったのですが、「カネがもったいない」という理由で入れ歯を作らず、歯無しで生活していたのです。スルメのような固いものでも、30分もしゃぶっていれば柔らかくなるそうで、あとは歯茎の筋肉だけで咀嚼していたようでした。私たちが5分で噛んで飲み込むものを1時間かけて味わうとは、「豊かな生活感覚」で生きている、と言えるかもしれません。

まあ、ご隠居さんですから、「起きたけど、寝るまで特に用はなし」時間はいくらでもあるんです。

ところが、この晩は食い合わせが悪かったのか、23時頃になって急に腹痛が始まり、昔気質の人間で辛抱強い親父も、脂汗をかくほど激痛のようでした。

観光地で、いつもは車の多い家の前の鎌倉街道も、深夜ということもあり閑散としています。そこで、救急車を呼んで待っているよりも、手っ取り早く家の車で(病院へ)という判断で、助手席に親父、後ろの座席に妻とその妹、留守番は母親、という危機管理態勢が取られました。

出発して数分で、あるT字路にさしかかり、信号待ちとなったのですが、ここが思案の思案橋。

そのまままっすぐ行けば、当時まだ徳田虎雄という聖人のようなお医者さんが元気いっぱいに運営していた「徳洲会湘南鎌倉病院」、右へ行くと横浜市の公立病院。どちらも、そこからの所要時間は同じです。私個人としては断然(当時の)「徳洲会」だったのですが、女というのは、どうしてこうも浅はかなのか、妻は「やっぱり公立よ」なんて主張する。彼女の父親ですから、議論もせず、ハンドルを右へ切りました。

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