世紀末の廃棄物は残酷な生き物を好む(仮)

狐照

1.山茶始めて開く日*

変若水おちみず家とは美容業界、医療業界、全業界全世界を激震させた、アムリタを開発した一族である。




年の瀬は末棄すえきのなだらかな額に深い皺を刻みつける悪しきもの。

ただし血肉の通った正体にあらず排除不可能。

そう結論付けた強化人間酷こくは通常通り、膨大な仕事に押しつぶされてしまいそうな末棄の身を守る事に徹した。

目に見えない怪物、年の瀬押し迫る手前の日々。


値段だけは高いタイヤがアスファルトの僅かな歪みに乗り上げた。

その度車体が揺れる。

この感覚に慣れない間、酷は何度も末棄の足に縋りついた。

くすぐったい邪魔すんな別のとこ潜れ。

そう末棄は形の整った唇で言ったが、酷が聞く耳を持っているはずもなく。

末棄が座る助手席の足元にある僅かな隙間を動かない。


ここに構えて居れば、あらゆる方向から攻撃されても末棄は守れる。

末棄の身の安全最優先の酷は、狭かろうが蹴られようが構うことなくそこに潜み続けた。

それを知ってか知らずか、末棄はいよいよ移動車を改造した。


元々上品なシルバーに女性を思わせる滑らかなフォルムが売りの外国車は、見た目は麗しくとも乗り心地は三流。

首藤すどうが選んだだけあって、欠陥が多すぎて文句以外出てこない、とは末棄の台詞。

末棄自信気にいってなかったこともあり、フレームは装甲車並。

ガラスはすべてミサイル砲弾さえ止める防弾ガラス。

その上戦闘機並みのエンジンを搭載、とやりたい放題改造した。

酷が潜り込むに十分な隙間も、ついでとばかりに助手席の足元に作った。

ただ、乗り心地だけは改善できなかったようで、食後の長距離は気分を悪くすることしばし。


そうして末棄は強化人間酷を足元に、首都高速を二百キロオーバーで走るよう運転手その他右に命じ、端末を三つも四つも携帯も操作し端から見たらあっちゃこっちゃ。

湧き出る苛々を指先から液晶やキーに染みこませていた。


そんな末棄を酷は車での定位置、足元から見つめ続けた。

数時間前。

およそ利口とは呼べない質の悪い商談相手を、酷は始末した。

容姿はえらく肥大した巨漢をぶよぶよ。

アムリタを欲するに相応しい醜男だった。

こんな漫画や映画でよくいそうな頭の中武装薬金女でっせ全開禿金時と商談しましょうそうしましょうと、判断した末棄の実兄首藤の無能っぷりはいつものこと。

おまけに本人はそんな失態失敗気にもせず、恋人一位ちゃんだか二位ちゃんだかに電話中。

胸焼けしそうな甘い言葉を、空っぽの頭からひねり出し囁いている。

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