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長い廊下を走ること数分。
太陽の光が廊下を照らし、通るたびに暖かく包まれる。
「ぐぇ?!」
突然首元を掴まれ、蛙が潰れたような声を漏らす。
「捕まえた♪」
「ぐぬぬぬぬぬぬ!」
頭上では師匠の勝ち誇ったような明るい声が聞こえてきた。唇を噛み締め、師匠に向かって叫んだ。
「師匠のイケズ!!」
「何とでも言いなさい」
「良いんですか?! こうなったら
「じゃあ、君を十字架に吊し上げたあと聖水かけないとね。君に取り憑く邪心を師匠であるボクが祓ってあげなくちゃ」
「それほぼ悪魔祓いじゃないですか!!」
「あれ? 違った‥?」
「違いますよ! 人を悪魔呼ばわりして、悪魔はむしろ師匠の方でしょ‥」
「何?」
「い、いい、いいえ?! 師匠は大天使のような慈悲深い心を持つ素晴らしい方です!!」
いきなり頬を掴まれ、命の危機を感じた。こう言う時だけの対処方法は迅速に、スカイフィッシュが通り過ぎるスピードより速い。
あぁ、師匠そんなゴミを見るような目で見ないでくださいよ。普段から目つきが悪いのに更に酷くなってます。私がチキンなのは自覚してますって。
数秒経ち、師匠はため息をついて頬から手を離す。表情からは明らかにこちらに呆れているようだ。
「君はずっと元気だね」
「えへへ〜。それ程でも! 私の座右の銘は天真爛漫ですから!」
「能天気って事だよ。あと何その座右の銘」
師匠にまた変な顔をされた。むっと私が不満気の表情を他所に師匠は革鞄を持ち玄関へと歩く。ドアの部を握ろうとした時、師匠が顔をこちらに向けた。
「じゃあ行ってくるから、留守番宜しく。勝手に実験室の器具弄ったらタダじゃおかないから」
「何を言うんですか。私はもう十二歳ですよ。やって良いことと悪いことの区別ぐらい分かりますって〜」
「まだ十二歳でしょ」
「まだって何ですか! まだって!!」
「あと‥」
「はい‥?」
師匠はゆっくりと私に近づき、満面の笑みを浮かべた。頭上に大きな影、師匠の手が髪にかかる。
「頭に可愛い寝癖がついてるよ♪」
「‥‥」
沈黙の間の中、彼はそそくさと玄関の扉を開けて家をあとにした。パタン。ドアの閉まる音が鳴る。その瞬間に意識を取り戻し、私はそこに居ない人に向かって叫び散らした。
「師匠ぉぉぉぉぉ! さっき何もないって言ってたじゃないですか。あれは嘘?!」
急いで洗面台を見ると、あら不思議。右横髪が綺麗に外ハネしているではありませんか。
気づかなかった私も私だけれど、教えてくれても良かったじゃないですか。
むすっと頬を膨らませ、外出中の彼を恨む。リビングに戻ると、テーブルに色鮮やかな箱が置いてあった。
『ボクの可愛い弟子へ♡』
開け口にはペンで書かれた癖字。師匠の仕業だろう。しかも、丁寧にハートまで添えてある。
「ふふん、やっぱり師匠ったら本当は恥ずかしがり屋なんですねー!」
早速開けようと、箱に手を伸ばす。蓋をパカリと開けた。
「きゃあ?!」
その途端、私は大声を上げ床に倒れた。上半身だけ覗かせると箱、なかから巫山戯たギョロギョロ目玉の謎の生物が私をバカにするように見下ろしていた。
ネオンや金銀のテープが周りに散らばる中、ひらりと白い紙が私の顔に当たる。
『プレゼントだと思った? 残念でした。良い子で待っててね(笑)♪』
「!!??」
手紙の字は蓋に書かれた癖字と同じ。その内容を読んで一瞬目が点になる。
朝が弱い癖に、こうやって人をイジメるような事を考えるほど元気なんて‥‥。
やはり師匠の方が一枚上手だった。
「もおおお!! 師匠の意地悪、極悪魔法使い、やっぱり悪魔だ! 大悪魔サタンの生まれ変わりなんだぁぁぁぁ!!」
何処かで小鳥が去る羽根の音が聞こえた。だがしかし、そんなのに構っている暇はなかった。
「いつか‥‥師匠をイジリ倒してやるんだ!」
手紙をくしゃりと握りしめて私は、一人宣言した。
私の師匠は、ドが付く程の意地悪な魔法使いです!!!
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