欺いて
鈴乱
第1話
それが、愛だというのなら、僕はいくらだって欺こう。
「素敵だねぇ」
「キレイだ」
「最高だね!」
薄っぺらくて、キラキラ輝く、言の葉たち。
そんな言葉に、単純な人間はころっと騙されて、いい気分になる。
明らかに、気分が良くなった顔をする。
だれも、僕の嘘なんて気づかない。
気づくわけないよ。
だって、それを言っている時は、本気なんだから。
僕は、遠い世界を旅して、上手に嘘がつけるようになったんだ。
人を気持ちよくさせる嘘。
人を高ぶらせるための嘘。
人を惑わすための嘘。
そうやって、嘘をついて、人がどんな反応するのかを楽しんでる。
そう。僕は悪い奴さ。
他人が見てるより、とっても。
ずるくて、弱くて、情けない。
そういう、生き物なんだ。
僕は、僕を変える気なんてさらさらない。
僕は、こうであってこそ、僕なんだ。
世間はうるさいよね。
『こうあれ』『こうでなきゃならない』
あぁ、やかましい。
知ったことか。
そんなもの、知ったことじゃないんだよ。
『自分の在り方』なんて、自分で決める。
やかましくステレオタイプを叫んだって、僕だけはそれに染まってなんてあげない。
だいたい、ステレオタイプな人間なんて、この世界にいくらでもいるじゃないか。
ステレオタイプを”選んだ”人間なんて、枚挙にいとまがない。
そうだろう?
だけど、僕は、『ステレオタイプ』が嫌いなんだ。
自分を殺して、自分を抑えて、誰かが適当に決めた『ステレオタイプ』になって安心する。
誰かの気に入る自分になるために、自分の形を変形させる。
……そんなの嫌だね。
僕は生まれてこの方、ずっと僕なんだよ。
何を受け入れて、何を拒絶するかは、僕が決めること。
何を好いて、何を嫌うかは、僕自身が決めること。
どんなに近しくても、他人に僕の在り方を決めさせるなんてまっぴらごめんだ。
ねぇ、分かるだろう? 君は僕と違って賢いんだからさ。
僕は、君よりずっと厄介で、君よりずっと……わがままなんだよ。
欺いて 鈴乱 @sorazome
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