胃袋支えてやんよ
明(めい)
第1話
絶対に帰ってくるから探さないでください。
父さんは俺が小五の時、三百万の現金と置き手紙を残して失踪した。
家には父さんの通帳とキャッシュカード、衣類が数着なくなっており母さんが慌て警察に相談してみたが、手紙の内容から積極的に探してはくれなかった。
連絡も取れず、残されたのは3LDK一軒家とそのローンの残り。お金の管理は父さんがしていた。それまでパートに出ていた母さんは正社員として働き始めたものの、給料が少なく、残業手当も出なければボーナスも出ない。
働き方改革など完全無視の企業で午後九時過ぎに帰ってくる。いわゆるブラック企業というところに入社してしまった。
父さんの置いていった三百万の一部や母さんの貯金で俺は高校に入ることができたけれど、家のローンと光熱費、食費、日用品、制服や教科書、筆記用具などを買うのに現在は手一杯だ。いくら高校無償化といえど、申請中だし私立だし出ていくお金は多い。
家を売ってもっと安いアパートに引っ越そうかと言ったこともある。が、母さんはどうやら父さんの言葉を信じて待つことに決めたらしい。帰ってきたときに家がなくなっているのでは困るだろうと。だがなぜ失踪したのか知らない様子ではあった。
そんなわけで、私立に通い立派な家に住んでいるものの現在俺の家庭事情はそこそこ貧乏である。
切り詰めているのは食費と電気代。母さんは料理がどえらく苦手なこともあって、朝はご飯と味噌汁のみ。食に関しては貧乏というより母さんの手先の問題が大きい。
特売で卵が百円以下で売っているときは目玉焼きが出るけど希だ。夜も、特売の小魚と野菜と白米。昼の弁当は中学の時から白米ともやしくらいだ。
弁当のせいで中学の時は散々からかわれ、いじられ、友達が一人もいなかった。中学の昼は給食だったけれど、遠足などの行事のたびに持っていく弁当がもやしか白米弁当だったのだ。
暴力も多少あったから、いじられの「じ」と「ら」の間に「め」が入っていたのかもしれない。クラスはいつもギスギスしており居心地が悪かった。
あのような胃の詰まる思いはもうしたくない。これからはどうなるのだろう。
今は高校生活が始まり五日目がスタートしている。まだ友達を見つけられていない。
「あっ」
空腹にぼんやりと廊下を歩いていたせいか、人とぶつかり転んでしまった。チャック
を閉じていなかったのでサブバッグの中のものが少しこぼれる。
大丈夫か? と、ぶつかった見知らぬ男子生徒が気にして訊いてくれる。大丈夫ですと言って慌てて落ちたものを拾って立ち上がった。学校の中で派手に転ぶのも恥ずかしいものだ。
制服は、男子は紺のブレザーにネクタイ、グレーのボトムス。女子はブレザーに白と紺のチェックのスカートだ。この制服を着て期待に胸を膨らませてはいるが、腹は膨らまない。
とにかく育ち盛りのせいかお腹が空いて仕方がない。
授業中は、お腹が鳴らないように思いっきり腹を凹ませたりして注意している。
学年は四クラスあり一クラス三十人。教室は机が横五列の縦六席だ。
俺は窓際の、四番目の席にいる。
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