第7話
実家の剣術道場でも、こう言う人間と係わったことがあるけど警戒心から無口になる人もいれば、緊張から来るものもある。
そう言う人間が良く喋るようにするには、相手が気を許せるようにする必要がある。暫くはユスティニアヌス宮中騎士爵の邸宅を活動の拠点にするけど、この
「それでこっちが、娘のディケだ」
「都の外からいらしたんでしてね。是非お話を訊いてみたいです」
ディケと紹介された少女は、大変可愛らしく。蝶よ花よと育てられた(地方騎士の俺基準)子、弟特有の悪意のない傲慢さを感じる。
そしてこころなしか、テミスさんよりも良いドレスを着ている気がする。
「都育ちのお嬢様に楽しめるかわかりませんが、お望みとあらばお話させていただきます」
「まぁ」
お嬢様は口元に手を置きながら「驚いたわ」と言わんばかりのポーズを取る。まさに田舎者がイメージする令嬢そのもの言動に少しばかり胸が躍る。
「自己紹介も済んだことだし、折角の食事が冷めてしまう料理を楽しもう……」
フェルディナンド殿がそう仰ってくれるので「是非、お聞かせ願いましょう」などと茶目っ気のあるセリフでも口走ってやろうかと思っただが、テーブルマナーに一抹の不安を覚えていた。
普段は田舎騎士のためテーブルマナーについて何か言われることはほとんどない。
しかし、他所様の前でウォルト家の家名に泥を塗る訳にはいかない。その一心で記憶の中のテーブルマナーを思い起こしながら四苦八苦して料理を食べ進めていく……
メイン料理は都の用水路か近海で取れたであろう魚の油煮と、チキンステーキとかなり豪華なものだ。そしてテーブルの真ん中には、ベーコンと玉ねぎそしてたっぷりのチーズが使われたサクサクのキッシュと香り豊かなバゲットが置かれている。そしてそれらを優しく包んでくれる野菜スープと、箸休めのザワークラウトが最高だ。
良く煮込まれた野菜達は、噛むと抵抗なくほろほろと崩れるほどに柔らかく野菜の旨味が口いっぱいに広がる。
「美味しい……」
体の中からスープに温められているようだ。
気が付けばスープは最後の数匙になっていた。
これが食事会でもなければ、スープ皿に直接口を付け具材ごと口に掻きこむのだがテーブルマナーとしてそうはいかない。
スープ皿を傾け匙を入れ救い上げる。
そんな俺を見たフェルディナンド様は、何かに気付いたらしく……
「歳の割にしっかりしているのですっかり忘れてた……配慮が足らなかったようだすまない」
「申し訳ありません。何か無作法をしてしまいましたでしょうか?」
もしかして俺のテーブルマナーって何か間違っている?
そんな俺の不安感を感じ取ったのだろう。フェルディナンド様がフォローを入れてくれる。
「君のテーブルマナーは、古式が混ざっていて珍しいなとそれだけさ」
ディケ様が解説を始める。
「あらご存じありませんか? 最近宮廷で流行っているテーブルマナーでは、スープ皿に残ったスープや具材は諦めるのが一般的なんですの『余裕のある我々は細かい事は気にしない』と言う意味で、これは王族と王族の間にあったマナーが転じたものなんですのよ」
なるほど、都に暮らしている余裕のある貴族か地方でも食に困っていない貴族しか出来ないような作法だな……
「ディケ様ご説明ありがとうございます。そして皆様申し訳ございません。都の流行には疎く不快な思いをさせてしまいました」
「不快。なんてことはないさ、古式とはいえ元は正式なマナー。大貴族や大商人からは、田舎者の誹りを受けるかもしれないけど少なくとも私、個人としては食べ物を粗末にする作法は気に入らない」
北の出身と言っていた。フェルディナンド様にはこの最新の流行りは気に入らないようだ。
北と言えば冷害などで飢饉が起きやすいと噂で聞く。そんな場所出身の彼にとっては許容しがたいものがあるのだろう……
ワインやビールによって身体にアルコールが回り始めた頃。
「君を見ていると若いころの自分を思い出すよ」
酔いが回ったのかフェルディナンド様はそんなことを口走る。
「フェルディナンド様に比べれば自分など……共通点など田舎出身で騎士の身分ぐらいのものでしょう」
とフェルディナンド様を立てるために彼の言葉を否定する。と言う珍妙な事を行う。
「実を言うとな私も自分の能力を売り込みはしたが、出世したのは才能を見出されたからだ……」
確かに田舎出身、騎士爵位、後ろ盾はいない。誰かに才能を認められる。確かにによく似た境遇と言える。
「……いつの日か自分も若い才能を見出したい。それができなくとも見出された才能を研磨し輝かせる手伝いがしたいと思っていた。君の話を訊いた時は、胸が躍った。嗚呼、要約自分の番が来たんだとそう思った……気負う事はない。君はただチャンスを得たそう思えばいい」
「お父様とアーノルド様が似ているなど……」
と父の言葉を否定する娘。気持ちは判らんでもないけど、聞こえる所では辞めて欲しいな……
「明日は報告に向かうことになっている。アーノルドくんは都近辺の村落に行った事はあっても、中心街には行った事はないだろう? ディケかテミスに案内してもらうと言い」
フェルディナンド様の言葉に対面しているディケ様とテミス様は、顔を見合わせている。
嫌だよね。こんな冴えない男と一緒に街を歩くのは……
内心少し傷付きながら、食事は終わり用意された実家よりも豪華な床に就いた。
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『あとがき』
読んでいただきありがとうございす。
中編七作を連載開始しております。
その中から一番評価された作品を連載しようと思っているのでよろしくお願いします。
【中編リンク】https://kakuyomu.jp/users/a2kimasa/collections/16818093076070917291
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