第5話
「驚いた表情をしているね。
流石、魑魅魍魎が跋扈する万魔殿で若いながらも役職持ちの騎士になった人物だ。俺程度の腹の中はお見通しと言った所だろう。
無駄に頭の良いフリをする必要はない。背伸びをして偶然にでも真実を言い当ててしまえば、過剰な期待をされかねない。ならば素直に「判らない。」と答える方がよほど利口と言える。
「お恥ずかしながら、その通りです。ご説明頂いてもよろしいでしょうか?」
「それは簡単な事よ。『
「いえ、超党派で組織されている大学や、
「宮中政治の駒、代理戦争と表現したように剣術指南役は一定の発言権を有する」
「つまり、剣術指南役の数イコール発言権となる。……フェルディナンド様の上は、固定化された発言権が欲しいということですね」
フェルディナンド様は頷いて俺の言葉を肯定する。
「その通り、現在は大きく二派閥存在しそれと距離を取る者達が中立派を名乗っている。固定票を増やし、中立派を納得させることさえ出来れば
「……つまり、私を邪魔に思う敵対派閥が私を剣術指南役にさせないように手出ししてくると言う訳ですか……」
「その通り、都の四大道場は既に旗色を明らかにしており、それぞれの流派が指南役を派遣している。それ故にそれ以外の剣客を招く必要があったという訳だ。暗殺、買収、それ以外の邪魔なんでも考えられる……それ故に強く芯のある剣士を指南役にする必要があったわけだ」
「なるほど……では
「その心生きは気に入ったぞ。先ず都に着いたら美味い店に行こうか、アーノルドくんでは入れないような店のメシを奢ってあげよう」
「いいんですか?」
「君の御父上に「よろしく」と頼まれているし、派閥の立場としては君の上司になる訳だ。君に良いメシの一食ぐらい奢らなくてどうするというのだ?」
「そういうことであれば、ご相伴に預からせて頂きます」
都のモノは高い。と言うのは近辺の田舎では有名な話だ。
宮廷貴族の騎士様が美味いメシを一食とは言え、振る舞ってくれるというのだ。少しばかり面倒だなと感じ始めていたこの仕事にも俄然やる気がでると言うモノだ。
「先ずは、今晩の宿を探さなくてはな……アーノルドくん何か希望はあるかな? 宿なりアパートメントが君の都での活動拠点となる訳だけど……ウチにも部屋が余ってるから悩んでいる暫くはウチでもいいけど……」
フェルディナンド様のお言葉は渡りに船だった。
「申し訳ございません。都には剣術の出稽古や野菜などを売りに行った時にしにか行った事がないので、どのぐらい金を払えばどのぐらいのレベルの部屋に棲めるのかと言うことが分からんのです。
「無論構わないよ。君も慣れない馬車旅で疲れているだろう? 今日はレストランに行くのは辞めにして、私の家で食事をしよう。今日は家に泊まってもらう積りだったしね」
「そうでか……座って旅をするのも案外楽ではなかったです」
「あはははっ! そうだろう、そうだろう? 馬に乗ったり、馬車に乗るのも案外と尻が痛くなるのだが兵達はそれを知らず。やれ楽をしてなどと言うが馬には馬の、兵には兵の苦労があるだけなのだがな……」
「違いありませんね……」
そんな事をはなしていると日はすっかり暮れ、いつの間にか整備された石田畳の上を木製の車輪が回転しているためか、砂利道と違う音が聞こえる。
窓から町を見てみると一定の間隔で塔のようなものが立っており、月明かりよりもはっきりと夜道を明るく照らしている。
「ああ、あれは街灯だよ。初めて見るかい?」
「ええ……」
「最近都全土に普及したものでね。元は異国の技術をこの国の学者が解析して量産したものだよ。今までは二束三文にしかならなかったクズ魔石を用いた魔道具で灯にしたものなんだ。犯罪率の低下や商業が盛んになったり、火災のリスクもないと良い影響しかないよ」
「それは凄いですね……」
「まぁ少し前からあるものだけど元々は、夜間も営業している居酒屋やレストラン、娼館、辻の角の家が軒先に目立つようにかけていた灯が由来なんだけどね……」
「確かに夜には村に帰る俺には馴染みのない話ですね……」
「今日から何事もなければ君は都に棲むことになる。田舎と違って都は『眠らない街』と呼ばれるぐらい。遊ぶところにも困らな……当然田舎に比べて物が高いから、領主貴族配下の騎士だとお金がないと思うけどね」
「やっぱりそうですね……」
モノが高く遊べる場所があっても遊べないと言われると何だ少し、悲しくなる。
「上手くいけば、君は公式に認められた剣術師範になれるんだ並みの騎士よりはお金があると思うよ」
「だといいのですが……」
「そろそろ家に着く頃だ。今日は精一杯もてなさせてもらうよ」
「ありがとうございます」
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