異世界限界逃亡生活〜帝国のメンヘラ王女が俺のクラスメイトで彼女だったなどと意味のわからないことをほざいているので亡命しました

櫻乃カナタ

序章 リトラ村編

外伝・1 とある女騎士の最期①

 とある女戦士がギルド掲示板に貼られた手配書を眺めていた。




  国家指定犯罪者【ベレト・ドロテア】

        懸賞金 20億


 罪状 リトラ村の全滅及びアドラー王国王位継承権第1位リーリエ・フォン・アドラー王女殿下への傷害罪。


討伐目安 冒険者Sランク程度(王国近衛兵隊長クラス)


 詳細 身長は175センチほどで華奢きゃしゃな体格をした黒髪の少年。剣を扱い非常に危険である。発見次第、捕縛ほばくしアドラー王城への連絡を要求する。


※但し、生捕いけどりのみとする。殺した場合はその者も厳罰対象となるため用心せよ。


「‥‥‥‥」


 青銅の鎧をまとった女戦士は手配書に目を通すと不敵な笑みを浮かべた。


「なんだよ嬢ちゃん。そんなににらみつけてドロテアに恨みでもあんのかい?」

 

 酒場の店主が注文した酒を用意すると強気な声で女戦士に話しかけた。


「もしそうならやめといた方がいい。噂でしか聞いたことねぇがドロテアは女をさらっては子が孕むまで犯した挙句、女と産まれたガキ諸共もろとも人身売買のオークションに出して金を稼いでるらしい。とても人間がする所業じゃねぇよ」


「それは私への忠告か?店主よ、」


 運ばれた酒を一気に飲み干すと店主の言葉に一言もの申す。


「いや、別に忠告なんて大層なもんじゃねぇよ。俺が戦士様に偉そうなこと言えるほど強くもねぇしな。ただ金に目が眩んで死んでいった冒険者が後をたたなくてよ。お節介だろうが心配になっちまうんだよ」


「それは親切にありがとう。だがご心配なく、私は強い」


 腰に携えた西洋の銀剣を店主に見せると、えっへんと鼻を鳴らして見せた。


「ん?その鞘についた紋章、サーマ神聖国のもんかい」


「あぁ。サーマ神聖国近衛騎士第19位メリナリーゼ・ハバマート。皇帝陛下に与えられた任務を全うするためにここにきた」


 メリナリーゼが名乗りをあげた瞬間ギルド内の冒険者がワッと湧いた。サーマ神聖国における騎士とは総勢5000千万人の兵より編成される神聖軍から選ばれた30名の強者を指す。そんな奴が国境を超えて討伐に来ている。ドロテアに恨みを持つ人間にとってこれ以上ない吉報だった。


「騎士様だったのかそりゃ失礼。けども警戒しとくことに越したことはないと思うぜ」


「分かっているさ」


 それからというものメリナリーゼによるドロテア討伐を聞いた冒険者数十名が自分も手を貸したいと名乗り出る者が現れた。自分の村を滅ぼされた者や愛する人を殺された者、興味本位でドロテアの討伐に参加する者目的は様々だった。


 そして来たる討伐当日。メリナリーゼ・ハバマートを筆頭に編成された討伐部隊その数112人。20を超えるパーティが参加し、いつの間にか国境を超えてドロテアを倒そうとする者たちが集まった。


 ドロテアはオーム村に現れたという情報があり、近辺のサテライト大森林に潜伏している可能性があるとメリナリーゼは考えたのだ。


「前衛と後衛の間に探索スキルや魔法を持った魔法師を中衛に配置する。前衛の指揮は主に私が。後ろは任せる」


「「おう!!」」


 攻守共にバランスの取れた陣形。この人数相手ならばドロテアを容易く討伐できるだろう。ただし殺してはいけない。皇帝様には捕縛して神聖国に護送しろと命じられている。


「それにしても皇女様が何故ドロテアを?」


「ん?どうしたんだ騎士様。独り言なんて珍しい」


「すまんなんでもない。それにしても店主様まで来られるとはな。悪いが懸賞金は出ないぞ?」


 背中に大きな大剣を背負った店主。名をハゼルダ・ダイカンという。


「分かっているそれに俺たちは金目当てじゃない。恨みを晴らすため、ドロテアを討伐できればそれでいいさ」


 油断はなかった。金はいらない。名誉もいらない。ここにいる冒険者は全員失った愛する人の敵討のため、滅ぼされた村のために戦っているのだ。 


 なのに。


 こんな仕打ちがあっていいのだろうか。


 蒼海の節(8月)、ドロテア討伐に向かった112名の冒険者は道中出会したゴブリンキング率いるゴブゴブリンの群れによって全滅した。私を除いて。


 備えに少しの綻びもなかった。だが数百年に一度生まれる魔王種の魔物が湧いているとは完全に誤算。

 

「ゴラァァァァァァァァァァア!!!!!」


 森で生まれた野生のゴブリン。鎧も服も着ていないのにこの硬さ。これが魔王種。


 残り魔力も少ないけど。出し惜しみして死ぬくらいなら打って死ね。


「アルミナ!!」


 広範囲に及ぶ雷撃魔法。均一威力の雷がゴブゴブリン達を襲う。


 1体‥‥5体‥‥20体、メリナリーゼの魔力が尽きる限り降り続ける。しかし体力も魔力も限界がある。


「グギィィィィィッッッッ!!」


 死んだ冒険者から奪い取った斧を振り上げるゴブリンキング。女1人に仲間のゴブゴブリンを全滅させられたことに腹を立てたのかとてつもない大声で雄叫びを上げている。


「魔王に殺されるのなら騎士の最後として申し分ない。さっさとやれ」


 もはやこれまでと己の死期を悟ったメリナリーゼ。右手に握られた愛剣を荒れた地面に突き刺すとゴブリンキングに自身の無防備な姿を晒した。


 当然そんな格好の獲物を逃すことはなく。ゴブリンキングは鈍く光る斧を怒りのままメリナリーゼのうなじ目掛けて振り下ろした——————だが次の瞬間。視界を伏せたメリナリーゼの前に広がったのは自身の臓器から飛び散った鮮血ではなく、ゴブリンキングの生首が硬い地面に落下する光景だった。


「え—————」


 何が起きた?と愕然がくぜんとしているメリナリーゼの横を通り過ぎる影が一つ。それは項垂れる彼女に構うことなくゴブリンキングの亡骸へと近づいた。


 

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