大文字伝子が行く169

危険なノートーサンドシンドロームの挑戦（前編）

　＝＝＝＝＝＝＝＝　この物語はあくまでもフィクションです　＝＝＝＝＝＝＝＝＝

　==============　主な登場人物　================

　大文字伝子・・・主人公。翻訳家。DDリーダー。EITOではアンバサダーまたは行動隊長と呼ばれている。。

　大文字学・・・伝子の、大学翻訳部の3年後輩。伝子の婿養子。小説家。EITOのアナザー・インテリジェンスと呼ばれている。

　一ノ瀬（橘）なぎさ一等陸佐・・・ある事件をきっかけにEITOに参加。伝子を「おねえさま」と呼んでいる。皆には「一佐」または副隊長と呼ばれている。EITO副隊長。

　久保田（渡辺）あつこ警視・・・ある事件をきっかけにEITOに参加。伝子を「おねえさま」と呼んでいる。皆には「警視」と呼ばれている。EITO副隊長。

　愛宕（白藤）みちる警部補・・・ある事件をきっかけにEITOに参加。伝子を「おねえさま」と呼んでいる。愛宕の妻。EITO副隊長。

　愛宕寛治警部・・・伝子の中学の書道部の後輩。丸髷警察署の生活安全課刑事。

　斉藤理事官・・・EITO司令官。EITO創設者。

　夏目警視正・・・EITO副司令官。夏目リサーチを経営している。EITO副司令官。

　増田はるか3等海尉・・・海自からのEITO出向。副隊長補佐。

　金森和子二尉・・・空自からのEITO出向。副隊長補佐。

　馬場力（ちから）3等空佐・・・空自からのEITO出向。

　馬越友理奈二曹・・・空自からのEITO出向。

　大町恵津子一曹・・・陸自からのEITO出向。

　田坂ちえみ一曹・・・陸自からのEITO出向。

　浜田なお三曹・・・空自からのEITO出向。

　新町あかり巡査・・・みちるの後輩。丸髷署からの出向。副隊長補佐。

　結城たまき警部・・・警視庁捜査一課からの出向。

　安藤詩三曹・・・海自からのEITO出向。

　日向さやか（ひなたさやか）一佐・・空自からのEITO出向。伝子の影武者担当。

　飯星満里奈・・・元陸自看護官。EITOに就職。

　稲森花純一曹・・・海自からのEITO出向。

　愛川静音（しずね）・・・ある事件で、伝子に炎の中から救われる。EITOに就職。

　工藤由香・・・元白バイ隊隊長。警視庁からEITO出向。

　江南（えなみ）美由紀警部補・・・元警視庁警察犬チーム班長。EITOに就職。

　伊知地満子二曹・・空自からのEITO出向。ブーメランが得意。伝子の影武者担当。

　葉月玲奈二曹・・・海自からのEITO出向。

　越後網子二曹・・・陸自からのEITO出向。

　小坂雅巡査・・・元高速エリア署勤務。警視庁から出向。

　下條梅子巡査・・・元高島署勤務。警視庁から出向。

　高木貢一曹・・・陸自からのEITO出向。剣道が得意。

　筒井隆昭・・・伝子の大学時代の同級生。警視庁からEITO出向の警部。伝子の同級生。

　青山たかし元警部補・・・以前は丸髷署生活安全課勤務だったが、退職。EITOに再就職した。

　渡伸也一曹・・・陸自からのEITO出向。GPSほか自衛隊のシステム担当の事務官。

　草薙あきら・・・警視庁からのEITO出向。特別事務官。

　河野事務官・・・警視庁からのEITO出向。

　財前直巳一曹・・・財前一郎の姪。空自からのEITO出向。

　仁礼らいむ一曹・・・仁礼海将の大姪。海自からのEITO出向。

　橋爪警部補・・・丸髷署生活安全課刑事。愛宕の相棒。

　久保田管理官・・・EITO前司令官。斉藤理事官の命で、伝子達をEITOにスカウトした。

　中津健二・・・中津興信所所長。

　中津（西園寺）公子・・・中津興信所所員の1人だが、中津健二と結婚している。

　中津敬一警部・・・中津健二の兄。捜査一課、捜査二課、公安課、EITOとの協同捜査等を経て、副総監付きの特命刑事となる。警視庁テロ対策室所属。村越警視正の部下。

　高崎八郎所員・・・中津興信所所員。元世田谷区警邏課巡査。

　泊哲夫所員・・・中津興信所所員。元警視庁巡査。元夏目リサーチ社員。

　根津あき所員・・・中津興信所所員。元大田区少年課巡査。

　みゆき出版社編集長山村・・・伝子と高遠が原稿を収めている、出版社の編集長。

　みゆき出版社副編集長西村・・・伝子と高遠が原稿を収めている、出版社の副編集長。

　椎橋・・・目黒署警部補。実は通称シーモンス・リーという那珂国人だった。

　南原龍之介・・・伝子の高校のコーラス部の後輩。学習塾をしている。

　南原（太田原）文子・・・南原の妻。南原と学習塾を経営している。

　南原京子・・・南原の母。

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　==EITOとは、Emergency Information Against Terrorism Organizationを指す==

　==エマージェンシーガールズとは、女性だけのEITO本部の精鋭部隊である。==

　午後2時。池上病院。伝子の病室。

　山村と西村が土下座をしている。池上院長が、入って来る。

「何？時代劇の練習？」「私は遠山の金さんか。」と、院長の言葉に伝子は応えた。

「命を助けて貰ったお礼ですって。あ。編集長。これ。西村さんの分は確認しておきます。」と。高遠はDDバッジを山村に渡した。

「あら、あたし、持ってるわよ。」「編集長。今回はバッグの中にあって、押せなかったんでしょ？新しいものと交換です。下の方に青いライン入ってるでしょ。新しいのは、押さなくても、ピンポイントで位置が分かるんです。押した時は、これ自体は何の反応も見せないけど、EITOの方で点滅表示されます。あ。先生のも渡しておきます。」

　高遠は、池上院長にも新しいDDバッジを渡した。山村は、以前のDDバッジを差し出した。

「ますますSFじみて来たわね。じゃあ、敵に拉致されても、すぐに追跡出来るのね。素晴らしいわ。あ。血液検査してから、診察ね。」

　院長は、慌ただしく出て行った。山村と西村も一礼して退出した。

「こんにちは。」と声がしたが、高遠がかけたLinenのテレビ電話だった。

「高遠。編集長に渡してくれたか？さっき来たけど、お前に預けたから貰ってくれって言っておいたが。」「ありがとうございます。渡しました。今、帰られたところです。」

「今回の敵は非情だな。皆殺しなんて。」「それと、入れ替わりなりすましで来られるとなると、油断出来ませんね、副部長。」

　午後3時。中津興信所。

「皆、よく頑張った。珍しく兄貴に褒められたよ。以前、EITO金森隊員の偽物が現れた時、そっくりだったそうだ。阿寒国の唯一、世界に誇れる技術だな。」と中津は言った。

「椎橋が、最近少し違ったような気がする、と言う署員がいたから助かりました。椎橋は所謂『ボッチ君』で、2人1組の原則通りの捜査を嫌がった。その代わり、多くの情報屋を持っていた。」と高崎が言うと、「SF映画じゃ、簡単に顔形を変えて別人に成り済ますことが出来ますが、実際はそんな簡単なことじゃない、ですよね。」と泊が言った。

「金森隊員の場合は、所謂『他人のそら似』だったらしいけど、思い通りに似た人物を利用するのは、短期間では無理ってことでしたね、ボス。」と、あきは言った。

「ああ。それで、情報屋で骨格似た者を探したら、偽名を使って不法滞在している那珂国人がいた。それがリーだ。リーは、元々精力が抜群だったのかな？椎橋に成り済まして潜伏していて、指令が来た。」

「ボス。サンドシンドロームは、早くから準備を進めていたんですかね？」と、高崎が言った。

「そういうことになるな。EITOでは、4つのマフィアは『繋ぎの行動隊』と見ているようだ。詰まり、オクトパスこと山下が倒されるのは時間の問題とみて、サンドシンドロームの侵攻までスケジュール調整した訳だ。」

「そこで、目黒区連続女子大生レイプ事件な訳ですか、ボス。」と、泊が言った。

「どうでもいいけど、ボスって言い方、誰が決めたんだ？」「私よ、健二。あ。健二さん。公私混同しないように、って皆に言ったの。」

「お前の提案？お前がボスじゃんか。」「いいえ、私はボスの『イロ』よ。」

「話を戻すと、阿寒国の整形外科から、日本人女性的整形を希望した『珍しいケース』が判明した。それが、那智になりすませた女だった。女は椎橋同様、近づいて癖を身に着けた上での整形だった・・・とまあ、こんなところだな、兄貴。」

「些細な報告は有り難いが、お前ら自由だなあ。後で、今の会議の音声ファイルを『暗号付き』で送ってくれ。」中津敬一警部は言って、音声通信を切った。

　午後4時半。南原学習塾。

　1人の生徒が突然、倒れた。文子は、直ちに救急車を呼び、南原は塾を休講して、付き添いで救急車に乗った。

　救急病院である、坂上病院に搬送された時、既に意識不明だった。

　間もなく、文子から連絡を受けた、生徒神代松子の母、神代松江が到着した。

　CT検査室から、医師が現れて、南原と松江に言った。

「CTは異常ありませんが、血液から毒物が発見されました。保健所に連絡しましたので、南原さんの塾の調査を受けて下さい。」

「分かりました。」南原は、自宅で待っている文子、それに高遠にも連絡した。

　午後5時半。南原邸。

　保健所と警視庁鑑識班が動き回る中、文子は中津警部と中津興信所の面々を迎え入れた。高遠は、京子に聞こえにくい場所で、文子に言った。

「まだ、単独の事件なのか違うのかは分かりません。でも、南原さんがDDメンバーなので、念の為に詳しく調べた方がいい、と伝子は言っています。救急の坂上病院では、特殊な毒ではないか、ということで、血液サンプルを、毒物に詳しい先生のいる池上病院にEITOが搬送しました。中津興信所に来て貰ったのは、神代松子さんの交友関係で聞き込みするためです。文子さん、塾の生徒達の住所録は？」

「言われた通り3部コピーしておきました。」と差し出した文子のコピーを受け取ると、中津健二は、所員に渡した。

「兄貴。手分けして聞き込みしてくるよ。」「ああ、頼む。」と中津警部は応えた。

　中津興信所の面々が去ると、「中津君、ワトソン君。松子さんが使っていたノートから毒物反応が出た。恐らく、このノートから感染したな。鑑識でも詳しく調べるが。」

　井関の言葉に、「飲まなくても感染する毒物ですか？」と中津警部が尋ねると、「粘膜や、傷口から感染することは常識だよ。なあ、ワトソン君。」と、井関は高遠に言った。

「ワトソン君は勘弁して下さいよ。文子さん、松子さんに怪我は？」

「昨日、転んですりむいた、って絆創膏貼ってました、膝に。」

「今、所員達に塾友達が同じノートを使っていたかどうかを確認するよう指示したよ。」と、中津健二は言った。

　午後6時半。池上病院。伝子の病室。

　高遠が戻ると、池上院長は、医師を紹介した。「高遠君。こちらは泌尿器科の蛭田先生。大学の先輩なの。毒物の研究者だから、今回依頼したの。」

「この毒物は、アレルギーを持っている患者に強く反応する。同じ塾の生徒で、そのノートに触れても、毒物による中毒反応が出るとは限らない。」

「もし、死に至ったら、『未必の故意』に相当するな。」と須藤医官が入って来て言った。

「それは、聞き捨てなりませんね。」と、愛宕が入って来て言った。

「先輩。足立区で似た事件が起きました。DDメンバー関係者で狙われた訳ではなさそうです。」と、愛宕は言った。

　愛宕のスマホが鳴動した。橋爪警部補だ。愛宕はスピーカーをオンにした。

「警部。板橋区でも似た事件が発生しました。足立区の事件でも板橋区の事件でも、ノートに塗られた毒が感染したようです。」

「葉子。その2件の毒を採取して送って貰って。」と蛭田は言った。

「蛭田さん。私にもお手伝いさせて下さい。」と須藤は言った。

「もう一つ、サンプルがありますよ。」と、中津健二が部下を伴って現れた。

「中津興信所の西園寺公子と申します。神代松子さんの塾友達で、三田映子という生徒がいて、原宿で買い物をしている時に、路上の物売りから購入したそうです。三田さんは、読みかけの本の栞代わりに挟んだまま放置していたそうで、直接はあまり触れていません。本来は証拠物件だから、警察に渡すべきですが・・・。」

「兄貴が、取り敢えず写真だけでいい、と言うので、写真だけ送りました。」と、中津健二が言い、蛭田に渡そうとしたが、伝子は「可愛いイラストね。ちょっと見せて。」と言った。中津健二はポリ袋に入ったノートを見せた。

「ピラミッドにスフィンクス。このスフィンクス、可愛い顔だけど、大きすぎるわね・・・。学。何か変。中津さん。松子さんのノートの写真、ある？」

　高遠が、スマホの写真を見せた。「やっぱり変だわ。先生。」

　池上院長は、管内電話で看護師に松子のノートを持って来させた。

　サイドテーブルに並べた2冊のノートを見て、蛭田が虫眼鏡を出して、見比べて言った。

「院長。イラストのスフィンクスの耳の端に文字が見える。本来なら、同じ文字の筈だが、違う文字。後から書き加えられている。」と、蛭田は言った。

「愛宕さん。足立区のノートと板橋区のノートの写真を取り寄せて下さい。」と高遠が言った。

「了解しました。」高遠は、素早く、映子の方のノートの写真を撮った。

「推理はホームズとワトソンに任せるわ。行きましょう、先生方。」池上院長と蛭田医師と須藤医官は出て行った。

　愛宕はスピーカーをオンにした。「こちら、足立区の渡辺。今、捜査本部を合同にすることに決まったわ。でも、どうやらEITOの案件ね。なぎさに連絡しておくわ、おねえさま。」

　愛宕は、切り返して、板橋区の結城に連絡を取った。

　電話に出た結城に、愛宕は手短に事情を説明した。「先輩。EITOから写真を送って貰いましょう。じゃ。」

　愛宕は、あたふたと出て行った。

　高遠は床頭台（しょうとうだい）からPCを取り出して、ディスプレイを伝子の方に向けた。

　そして、今までの経緯を夏目に報告した。

「今、一佐から報告を受けたばかりだ。中津警部からも連絡が来ている。原宿の出店付近に張り込みが付いた。足立区の小学生も板橋区の中学生も、同級生から原宿の出店で購入したという証言が、捜査員の聞き込みから出てきた。久保田管理官が、マスコミにリモート記者会見をしている。」

　午後8時。シネコン。記者会見場。

　インカムを着けた、記者達が、神妙な顔で、スクリーンの久保田管理官を見ている。

「以上が、事件の経緯だ。今までの4件の事件で生徒達は昏睡状態だ。新種の毒物なので、今専門家が分析をしている。毒物も重要なファクターだが、このノートだ。諸君にコピーを配ったが、可愛い、このイラストに欺されて購入した者が危険に晒されている。諸君には、このノートの発見回収について報道して頂きたい。購入した者は、触らず、先ず警察に連絡して欲しい。拾った者も同じくだ。そして、誰か持っているのを見た、という情報も大歓迎だが、まずは警察に知らせて欲しい。無色だから、何かが塗られているとは気づきにくい。知らぬ間に触っている場合もある。購入した者、拾った者は念入りに太洗いをして欲しい。何だね、胞子新聞さん。」

「ウイルスの対処と同じことですね。」「その通りだ。たまにはいいことを言うじゃないか。我々は既にコロニーという疫病と対峙してきた。それと同じことだ。急いで、国民に知らせてくれ。各道府県警察にも、個別で同様の記者会見をするよう連絡をしてある。お願いします。」

　最後は、管理官は画面上で最敬礼をした。

　―完―