本所吾妻橋より

ぜっぴん

桃色の風

 卒業しても友達だよな、と彼は微笑んだ。我々はこれよりもって互いに知れぬ名もなき道へ進む。彼はその一歩を踏み込む今日に、そう云った。

 そうだよ、僕たちは友達だよ、と僕は答えた。そう云ってほしいのだろうと感じたから、いいながらかじかんだ手を握り合った。

 桃色の風が吹いている。僕たちの間を吹き抜けると風がまだ冷たかった。人だかりがまばらに散らばる、その間を抜けていく。僕は流れる方へ目を向けた。

 彼という友人の心と記憶はまだ僕の手に握られているけれど、やがて、ぬくもりの冷めゆくさまのように、失われてしまうだろうか。

 もし人生の流浪に忙殺されてしまったころに、また逢えるなら、もう一度、友達といえたらいいな――と、思っただけで、云うのはやめておいた。

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