第127話盗賊制圧ガチャ1

 カルメロ商会のリンドンシティ支店では、突然の来客と街を賑わすバルドル事件によって慌ただしくしていた。


「何だか、すまないにゃ」


 謝ってはいるが忙しくさせた張本人である。


「あっ、いえ。みなさんが来られた時には力になるように会長からも言われておりますので問題ございません」


 誤算だったのはバルドル事件と重なったことだろう。まあ、そのバルドル事件に関しても僕たちが持ってきたようなものなんだけどね。


 ちなみに、僕たちパーティの対応をしてくれているのは支店長のジョーカーさん。まさかこの忙しいタイミングにも関わらず支店長自ら対応してくれるとは思わなかった。


 できる執事って感じの人だ。こちらもカルメロさん同様に冒険者上がりの方で、信頼もかなり厚いとのこと。


 今夜は商会の集まりがあるとのことで一緒に夕食をとれないことを本当に悲しがっていた。まあ、僕たちも久し振りのベッドでの睡眠になるため少なくともバルドルの件がどうなるのか決まるくらいまでは滞在していると思う。


 僕たちはともかく、少なくとも猫さんは動かなそうだしね。


 まあ、それはそれとして新しいガチャが現れたことを報告しておこう。その名も『盗賊制圧ガチャ』だ。可能性はあるかなとは思っていたけど、そのまま出現してくれた。


 用意してくれた部屋にみんなで集まり、ガチャの会が開催されている。


「盗賊制圧ガチャ、小銀貨一枚だね」


「それって、どのぐらいのレア度だっけー?」


「ジャイアントトードガチャとか採掘ガチャと同じだね」


「えっ、採掘ガチャってマハリトがいっぱい出たあの伝説のガチャ!?」


「違うよルイーズ。それはレア採掘ガチャの方だね。あれは銀貨一枚だけど、今回のは小銀貨一枚なんだ」


 そう考えると少し微妙なガチャになる。バルドルの冒険者ランクがCだっただけに期待をしていたのだけど現れたのは千円ガチャ。まあ、制圧といっても全員を倒しているわけではないし、半分は聖なるブレスで天使にしてるからね。


 それなりに緊張感のある討伐ではあったけど、レア度の判定は厳しいようだ。まあ、そんなこともあるか。


「じゃあ、あんまり期待できないねー」


「そうなんだよね」


 それでもみんなはがっかりした感じではなく、それなりに楽しそうに見守ってくれる。やはり、スキルの珍しさとガチャの意外性に何だかんだ期待しているのだろう。


 僕がガチャを起動させると、はじまったねとルリカラが僕の前の特等席に座る。ガチャは最前列で鑑賞したいタイプのドラゴンだ。


 現れたガチャは、採掘ガチャのようなゴツゴツとした岩肌のガチャだ。これは盗賊団の拠点である洞窟をイメージしているのだろうか。


 僕が小銀貨を握りしめてガチャに近づくと、洞窟の入口から小さな盗賊団が列をつくって現れた。


「現れたか盗賊団め」


「盗賊が出てきたの?」


「うん、三人の盗賊がガチャから出てきてる」


 慣れてきたのか、ルリカラもここは静観の構えだ。微妙にぷるぷると足を出しそうにはなっているもののこらえている。


 いや、例え襲われたとしてもガチャの小さな入口から現れた盗賊なので、そのサイズは親指程度。全力で叩かれてもきっと何も感じないだろう。


 これは採掘ガチャのスケルトンを想像させるガチャ演出だ。


「まずは一回、回してみようか」


 小銀貨を投入すると、盗賊の肩が上下に揺れまるでその場で動いているかのような演出がはじまる。


 それは、まるで何者かと戦闘しているような感じといったらいいだろうか。RPGゲームの戦闘シーンのように見えなくもない。


 ガチャを一回、ゆっくりと回すとガチャガチャの画面に選択肢が現れる。


 ▶たたかう

 ▶まもる

 ▶にげる


 これは、目の前の盗賊と戦えということなのだろう。ならば、僕の選択肢は『たたかう』だ。当たり前だけど逃げるという選択肢はない。


 ▶たたかう

  ▶武器

  ▶魔法


 『たたかう』を選択すると次に『武器』か『魔法』を選ぶようになる。


 まずは様子見で武器を選択してみよう。


「いけー! えっ、こ、これは……ルイーズだ」


 盗賊の前に現れたのは小さなルイーズ。ガチャガチャの画面には『疾風のレイピア』で攻撃と出ている。


「えっ、なに、なにー。私がどうしたのー?」


 当然のことにルリカラも固まってしまっている。まさか、ガチャ演出で実際の仲間が現れるとは想定外もいいところだ。


「ガチャから現れた盗賊とルイーズが戦ってるんだ」


「わ、わたしー!?」


「僕が攻撃を選んでルイーズを戦わせてる感じ」


「何を言ってるのかよくわからないってー」


 RPGゲームを経験したことがないルイーズにその説明を理解してもらうのは難しい。


「あっ、一人倒した!」


 ルイーズの攻撃により盗賊の数は三人から二人へと減った。


 すると、盗賊の一人が前に出る。次はこちらの攻撃の番とでも言うのだろう。


 しかしながら、ルイーズの巧みなステップが発動してその攻撃はミスとなる。


「やるー! ルイーズ」


「だから、どうなってるのよー!」


「ルイーズが盗賊の攻撃を躱したんだ」


 情報共有がここまで難しいとは、何でガチャ演出をみんなで共有できないのか。


 すると、ルリカラが立ち上がりガチャに向けて偉大な聖なるブレスを吹きつけたのだ。


「えっ、ちょっとルリカラさん?」


「み、見えたー!」

「こ、これが、ガチャなのね」

「すごいにゃ、盗賊とルイーズが戦ってるにゃ」


 なんと、ルリカラの聖なるブレスが奇跡を起こしてしまった。


 アドリーシャにいたっては、突然目の前に現れたガチャガチャの機械に驚いて言葉も出てこない様子。


「ねえ、ニール。次は、どうするの?」


「さっきは武器攻撃を選択したから、今度は魔法攻撃にしてみようと思う」


 再び、たたかうから今度は魔法攻撃を選択する。すると、次に現れたのはルリカラだった。


「きゃー、小さなルリカラちゃん、激かわ!」


「す、すごい、まるで、本物みたいに宙を浮いてるわ」


 この演出にはルリカラも目を大きくして完全に固まってしまっている。まさか、自分が出てくるなんて想像もしてなかったに違いない。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る