第125話中継都市リンドンシティ
僕たちはどんな様子になるのか見てみようと思って、バルドル盗賊団よりも先にリンドンシティに入らせてもらった。
まあ、猫さんが早くカルメロ商会に情報を入れて探りを入れたかったというのもある。
リンドンシティは聞いていた通り、かなり大きな都市で物資が行き交うとても元気なイメージだ。
ここでの主役は間違いなく冒険者ではなく商人だ。多くの商会が支店を出していて、大通りから一歩入ると広大な倉庫街が続いている。
これらの物資は聖都ルーンに運び入れられるものや、王国向けの輸出用として準備されているものなのだろう。
「周辺の魔物の数が少ないよね」
「商会のキャラバンを護衛する冒険者たちが狩り尽くしてるにゃ」
商会のキャラバンが多いことで周辺の安全もキープされているということか。
このことがリンドンシティにおける他とは少し違う関係性になってくる。
何が言いたいかというと、冒険者ギルドよりも商会の方が上という考えが成り立ってしまっているのだ。
一般的に商会と冒険者ギルドは持ちつ持たれつの関係で対等に近い関係なのだけど、リンドンシティにおいては、街の安全を実質的な守っているのが商会側になってしまうため逆転現象が起きている。
「商会に名誉男爵が多いのも変に助長させてるわよね」
アルベロの言う通り、大手の商会はお金で名誉男爵になっている人がほとんどのため、このあたりも立場的には上になってしまう。
ちなみに、冒険者ギルドに移動の報告をした際の印象としてはとても礼儀正しく好感が持てた。
「まあ、お手並み拝見にゃ」
これは、リンドンシティに入ってからの猫さんの決まり文句になっている。
冒険者ギルドの対応がぬるかったら猫さんなりに何かしらの行動に出るということなのだろうけど、できることなら大人しくしてもらいたい。
商会と揉めると名誉男爵だけでなく、そこに連なる上位貴族が対応に出てきてしまったりすると僕たちなんかは簡単にひねり潰されてしまう。
せっかく王国から逃げてきたというのに、聖イルミナ共和国でも同じようなことになっては目も当てられないだろう。
そうなる場合はこちらも強い後ろ盾を得てから行動するべきだろうとは思っている。例えば聖都ルーンでルリカラが聖獣として正式に教皇様とか聖女様に謁見するとかね。
そうなれば聖イルミナ共和国内においては貴族もやすやすとこちらに手を出せなくなる。だから、猫さんにはそのあたりまでは大人しくしておいてもらいたいのだ。
まあ、冒険者ギルドの対応次第なんだけどね。
「そろそろ来るよー」
様子を見に行っていたルイーズが戻ってきた。
リンドンシティの入口には紋章の入っていない大型の馬車がやって来ている。もちろん、乗員は天使たちで、その積荷はバルドル盗賊団が縛り上げられているわけだけど。
「そこの馬車止まれー! 紋章はどうした。いったいどこの商会だっ!」
馬車の紋章というのは結構大事なものらしく、一目でどこの商会であるとか、どこの貴族なのかがわかるようにしているそうだ。
僕たちが使うような小さな馬車には紋章とか必要ないんだけど、ある程度の規模になると必須となる。
相手が貴族だったら、それこそ道を譲ったり、場合によってはご挨拶とかも必要なのだろう。商会同士でもその規模によってどちらが道を譲るとかあるようだ。
そういうことなので、大きな馬車が紋章無しにリンドンシティにやってくるというのは大問題なので、門番の方々は最大限の警戒をしているという訳だ。
武器を持った門番の方々が詰所に走り、応援を呼んだり、何名かは馬車を囲むように警戒している。
そこへ、武器を持たずに手を頭の上に乗せたまま降りてくる天使さん代表。
「我々はバルドル盗賊団です。頭のバルドル他、三十六名全員投降します。また、バルドル盗賊団を支援していたスリーズモンド商会の乗員七名も捕縛しております!」
人数が減っているのは死亡者がいたからで、これが生きているバルドル盗賊団の全員である。
「君も盗賊なのか?」
「はい、そうであります。我々は盗賊団内の内紛によって仲違いをし、私を含む半数の者がバルドルを捕らえました」
「き、君たちの目的は?」
「犯してしまった罪を償うため。また、これ以上の犠牲者を出させないようイルミナ神に赦しを得るためです」
徐々に人数が集まり、武器を持っていないか積荷を確認され捕縛された盗賊が次々と連行されていく。
その場所へ颯爽と登場した者がいた。
全身白い装備で身を包んだ女性。その背中にはロングソードを背負い、厳しい表情で部下へと指示を出していく。
「あれがリンドンシティの冒険者ギルド長、アナスタシアにゃ」
猫さん情報によると、ギルド長はあの美しい女性らしい。年齢も二十代前半なのではと思えるぐらいに若く見える。
凛としたたたずまい。シルバーブロンドのロングヘアが陽の光に輝いていて、とても目立っている。
どうやら冒険者ギルドが手を焼いていたバルドル盗賊団の投降ということもあって、ギルド長直々に現場にやってきたようだ。
「バルドル! 貴様、自分が何をしたのかわかっているのだろうな」
それに対してバルドルの反応は薄かった。何か考えているような素っ気ないもの。
スリーズモンド商会がどんな対応をとるのか、それによって自分の生きる道があるのか。きっとそんなことを考えているのかもしれない。
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