第122話バルドル盗賊団3

 商会の乗員と盗賊団が約二十人ほど。つまりは、バルドル盗賊団の半数が今ここにいるということになる。


「ニール、一緒に行くにゃ。アルベロはアドリーシャと支援を頼むにゃ」


「了解!」


 つまり、猫さんはここの半数を天使化してしまおうという判断なのだろう。


 大人数を相手に立ち回ることなんて僕には難しいので、キャットアイの後を追いかけるように進む。


「だ、誰だあああ!」


 盗賊団は武器を抜き、突然現れた僕たち二人を止めようと動くものの、ひと足早く狙っていた場所までたどり着く。


「ニール、飛ぶにゃ!」


「任せてっ」


 キャットアイが屈んだところの両手を踏み台にして、商会の馬車の上に飛び乗ることに成功。


 馬車の上に乗った僕を見上げる盗賊団だが、とりあえず下にいるキャットアイを取り囲むように集まってくる。


 もちろん作戦なので、キャットアイは武器を構えることもなく、何ならその場でしゃがんでいる。猫さんの舐めプ態度に盗賊団もニヤニヤと笑いながら近寄ってくる。


「上にもいるから注意しておけ」

「あの装備見ろよ。駆け出しだろ」

「何しに来たか知らねぇけど、死にに来たらしいぜ」


 これが王国だったらキャットアイがAランクだと名が知れているところだけど、聖イルミナ共和国では昔に少し活動していた程度ということなので誰もAランクだとは思っていない。


「おめぇら、やっちまいな!」


 囲いを狭めた盗賊団がキャットアイを捕まえようと飛びかかってきた。


 しかしながら、その一瞬前にジャンプして僕の隣に無事に着地。


「今にゃ」


 馬車の下では盗賊団が猫さんを捕まえようとして一塊になっている。これほどまでの一網打尽大チャンスを逃す僕ではない。


「マジックリング! 解放(リリース)」


 光り輝くリングから撃ち出された聖なるブレスを前に、馬車の下にいた盗賊団全員が仰向けに倒れてしまった。


その瞳には涙。大粒の涙を流している。全員が空を見上げながら漢泣きである。


「相変わらずエグいブレスにゃ」


 すぐにやって来たルイーズとアルベロが逃げようとする商会の乗員を縛り上げていく。


アドリーシャもマジカルメイスで商会の人を倒している。そういえば、僕はまたしても新武器を使っていないのか。


 でも、まだ盗賊団は半数が残っている。気づかれる前にどんどんこの洞窟を進んでいくのなら、僕にもチャンスがあるはずだ。


「アドリーシャ、私たちにマポーフィックをお願い」


「はい。おまかせ下さいませ」


「君たちは、荷物を運ぶ振りして僕たちをボスのところまで案内してもらえるかな?」


「ご案内して、そこで死ねばいいですか?」


「い、いや、死ななくていいから」


「しかしながら、私たちは多くの罪のない方を殺し、略奪を繰り返してきました。死以外に自分を許すことはできません」


 無事に天使化できているようだ。みなさんとても心を痛めていらっしゃる。


 君たちはそのまま商会の馬車に乗って中継都市まで自首しに行ってもらうんだから気にしないでいいよ。


だから少しでも罪を軽くできるように、このあと頑張ってもらいたい。


「罪の意識があるのなら、君たちのボスを倒す手伝いをしてほしい。そうすることで心は少し軽くなるはずだよ」


「か、軽く、なり……ますか」


「はい。イルミナ神はいつでもあなたたちの行いをそばで見守っておりますよ」


「イルミナ神が」

「私たちは赦してもらえますか」


「イルミナ神はどんな方であっても赦します」


「み、みんな、行くぞ!」

「これは我らの聖戦だ」

「これまでの罪を少しでも赦してもらえるように戦うんだ!」


 アドリーシャのお話で盗賊団のみなさんのやる気がアップしてくれた。


「では、みなさんに魔法の盾をつけますので整列してください」


「はい。聖女様!」


 まだ聖女見習いのアドリーシャだけど、聖女様と呼ばれて満更でもない顔をしている。


 やはり教会関係者としては、天使化した人は導きたくなるのかもしれない。何故か無条件で神を崇めてくれるからね。


「こっちはもう大丈夫よ。行きましょう」


 商会の乗員たちをぐるぐるにロープで巻き、声を出せないように布で口をぐるぐるに巻いている。


 この人たちはあとで尋問をしてどこの商会の者なのか調べなければならない。ボスのバルドルを捕まえるまでは大人しく待っていてもらいたい。


 あっ、いや。天使さんたちに聞けばわかるのか。すごいな天使さん。めちゃくちゃ役に立つじゃないか。


「聖女様、足元にお気をつけください」


「問題ないわ。ミルワ!」


 アドリーシャが唱えた魔法は、ミルワと言って光で前方を照らす魔法だ。アルベロが使える無属性魔法の光玉の上位版といったところだろう。


 前方の広範囲を明るく照らして洞窟内がよく見える。


「さすがは聖女様です」

「この先は危険なので我々がお守りいたします」

「分岐点まで行きましたら光が目立ってしまうので松明に切り替えましょう」


 天使さんたちが率先して動いてくれる。


「奥まで行ったら、みなさんは逃げ道をふさぐように動いてください。盗賊団の攻撃はその魔法の盾が防いでくれます。バルドルを見つけたら大きな声を上げてください」


「イエッサー!」

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