第110話マジックリング
隣にルリカラもいない。アドリーシャのマポーフィックだけで耐えきれるのか。
あっ、いや。あった。僕にはもう一つ、起死回生の指輪があった。使うのは、はじめてだけど今使わずにいつ使うのか。
とにかく迷っている暇はない。
「マジックリング! 解放(リリース)」
僕の意思に応じるようにマジックリングは輝き出すと、目の前にいるオークジェネラルにルリカラの聖なるブレスを浴びせることに成功した。
オークジェネラルを真っ白に包み込むと、一瞬の静寂が訪れる。
勝ちを意識していたオークジェネラルは信じられないという表情をしながら、ブレスの影響なのか、魂を持っていかれるように前のめりに倒れる。
倒れる方向は僕とアドリーシャのいる位置。
「おっと、アドリーシャ、早くこっちに来て」
「は、はい」
倒れてきたオークジェネラルは、力なく僕の造った堀の中へとそのまま落ちていく。ブレスの時点で討伐完了していたと思われる。
やはりすごいな。偉大な聖なるブレス。
ありがとう、ルリカラ。
「ニール、まだよ!」
オークジェネラルが倒れていった方とは逆側に、もう一つのBランク、エビルプリーストが残っていた。
もう聖なるブレスは使えない。
エビルプリーストは杖を掲げて既に何かしらの魔法を唱えている途中。
何で、僕ばかり狙われるのか。
弱いからか。それとも一番最初に倒せそうだからなのか。
今はそんなことを言ってもしょうがない。どんな魔法が来るのかわからないけど、僕の選択肢は避けるか、それとも。
「wtz/wptatpmrf@1ggg」
悩んでいる時間もなく魔法が放たれてしまった。
炎が渦巻くようにしながら真っすぐに向かってくる。何の魔法かはわからないけど、マハリトよりも遥かに威力がありそうな炎系統の魔法。
焦るな。落ち着け。失敗したら後ろにいるアドリーシャも大変なことになってしまう。
でも放たれたものが魔法であるならこの指輪でストックができる。
「マジックリング ストック(吸収)」
渦巻いていた炎が吸い込まれるように指輪の中へと吸収されていく。
「!?」
エビルプリーストが目を大きく開けて狼狽している。
確実に倒したと思った相手が、自分が出した魔法を吸収しただけでなく、今、その魔法を跳ね返すかのように自分に向けて撃とうとしているのだから。
「マジックリング! 解放(リリース) 」
マジックリングは軽く炎を纏い、渦巻く炎は激しい轟音と共にエビルプリーストに直撃していった。
その勢いは想像以上で、渦巻く炎はエビルプリーストの胴体に穴を開けながら豪快に吹き飛ばしていく。
こんな魔法が自分に撃たれていたのかと思うと背筋が寒くなる。おそらくアドリーシャのマポーフィックでどうにかなるレベルの魔法ではなかっただろう。
「す、すごい」
そうだね。僕の魔法じゃないけど、この威力はすごいよね。
マハリトが広範囲の爆炎とするなら、この魔法は貫通に特化したような炎の魔法だった。
「た、助かりましたね……」
「キュ、キュイ?」
いつの間に戻ってきたルリカラも、何事もなかったかのように、「あ、危なかったね。大丈夫だった?」と聞いてくる。
「遅いよ、ルリカラ」
「キュイ、キュイ!」
僕が遅いと文句を言ったら、急に拠点を低くするから驚いたんだからねと怒られてしまった。
「冗談だってば。君の偉大な聖なるブレスのおかげでなんとか助かったよ。またこの指輪にブレスを頼むね」
「キューイ」
自分のブレスを褒められ、すぐにご満悦の表情に戻るルリカラがちょろい。
残りのオークもどうやらキャットアイとルイーズが倒しきったところだった。
「終わったね」
「終わりましたね。私、また力になれなかった……です」
「今回はちょっとイレギュラーというか、まさかBランクが二体もいるなんて思わないし」
「そ、そうですね」
「アリュナー村を襲う前に気づけてよかったよ。それはアドリーシャが討伐したいと言ったからだよ」
「はい。でも……」
「アドリーシャはパーティメンバーなんだ。パーティには役割があるって言ってるでしょ」
「ニール様のご活躍を見て、私が一番の役立たずだとはっきりわかりました」
うん。それは、Dランクで指示だけは一人前のニールが、それなりに戦えてしまったということが、アドリーシャの自尊心を傷つけてしまったということか。
ルイーズの動きには一目置いているのは感じていたけど、少なくともランク的にも僕よりは上だろうという気持ちがアドリーシャにはあったのだろう。
微妙にディスられているのは聞かなかったことにしておこう。僕自身そこまですごい冒険者でないのは理解している。
実際、普通に後方支援をしていれば僕よりもアドリーシャの方がパーティの役に立つのは間違いないのだから。
誰が上とか下ではない。そんな事を言ったらAランクのキャットアイが一番偉くて、言うことを聞かなければならなくなる。
パーティというのは、それぞれが仲間のために支え合って、自分の役割を果たすことでチームプレイを昇華していくものだと思っている。
だから、誰が誰よりすごいとかではなく、チームとしてより高みを目指すために自分が何をできるかを考えてほしい。
もちろん、それは僕にも言えることだけどね。
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