第108話アリュナー村
何日かの野宿を繰り返し、ようやく最初の村であるアリュナー村に到着した。
ここでは食料を購入するために寄ることになっている。買うのは主に小麦やトウモロコシ、あとは野菜といったところだ。
お水は馬車を進める途中にある川や泉から適時確保してインベントリで塵を取り除いて皆に渡しているので困ることはない。
ちなみに、今回から馬車の御者役はアルベロとルイーズが交替でやることになった。一応、僕も練習させてもらうつもりで、慣れてきたらローテーションを組む予定でいる。
村の入り口付近には人が集まっていて僕たちを歓迎してくれているようにも思える。しかしながら、何人かは槍を持っていたりと何だか物々しい。
例によってアドリーシャが馬車から顔を出して手を振ると、大きな歓声が聞こえてくる。
やはり、聖女見習いランキングナンバーワンのアドリーシャと聖獣様がやってくるということで村をあげて盛り上がっているのかもしれない。
「お待ちしておりましたアドリーシャ様。それから聖獣様をお連れのみなさま」
「お久し振りです、村長様。ところで、この物々しい雰囲気はいかがされたのでございますか?」
「じ、実はですね……」
村長の話を聞いたアドリーシャが後手に拳をぐっと握りしめていた。
村長が言うには、周辺にオークの集団が住みついてしまったらしく、畑の作物がかなりの被害を受けているそうだ。野菜や小麦を買いに立ち寄ったのにオークに食べられていたとか悲しい。
「最近は畑だけではなく、村人も襲われるようになりまして、ほとほと困っておりました」
「ニール様、困っている方々を見過ごすことはできません。イルミナ神の名のもとに、憎きオークどもを打ち倒してみせましょう」
アドリーシャ的には、名を売るチャンスととらえているのだろう。彼女はこの旅を救済の試練と思っているからね。
オークはランクCの魔物でなかなかの強敵だ。体長は約二メートルで体格もかなりあるパワータイプ。
それが集団ともなるとそれなりの脅威となる。この小さなアリュナー村では守りを固めることぐらいしか手立てはなかっただろう。
ここは立地的にもイルミナ大聖堂が近い場所なので、冒険者ギルドに依頼をすればすぐにクエストを受注した冒険者がやってきてくれるはずだ。
ちなみに、オークは討伐証明としてその豚鼻を削ぎ落として持っていく銀貨一枚になる。見た目は豚だが、その肉は食用としては見られておらず、追加報酬はない。
「どうする?」
「まあ、数にもよるけど、オークぐらいなら倒してあげてもいいんじゃない?」
「報酬は野菜と小麦でいいにゃ」
アルベロと猫さんは格下のオークに対して問題ないとゴーサインを出したようだ。
まあ、確かにこの二人がいればオークの集団ぐらいなんてこともなさそうに思える。
「報酬として野菜を頂いてしまっても大丈夫ですか?」
「はい。野菜はまだいっぱいございます。ありがとうございます」
僕のその言葉を聞いてアドリーシャがガッツポーズをした。アリュナー村の助けになれることがよほど嬉しかったのだろう。
オークが住みついた場所は、アリュナー村から北へ二キロほど進んだ小さな森で、数は不明だが、十体以上はいるのではとのこと。
「小さな森だから食料が足りないのかな」
オークは雑食らしく、小動物から木の実まで幅広く何でも食べる。お腹が空いたら人も襲って食料にするので要注意らしい。
今は食料が足りておらず、人を襲いはじめたタイミングということか。
「すぐに向かう?」
「その方がいいと思うわ。人を襲いはじめたオークは危険だもの」
作戦はオークの数を見てからの判断となった。数が十体程度ならそのままゴリ押しでもいいけど、それ以上の数となるとこちらも準備が必要になる。
「腕がなりますね!」
「アドリーシャは頼むから前に出ないでよ」
「も、もちろんでございます……」
その残念そうな顔がとても気になる。絶対、前に行こうとしていたよね?
ワイルドファングだったから、まだあの程度の怪我で済んでいたけど、オークのパワーで攻撃されたら本当にどうなるか知らないからね。
三週間も特訓したというのに、まだ前に行きたがるとは一体どうなっているのか。後衛タイプなら、もう少し理性的で冷静でいてもらいたい。
ということで、若干の心配はありながらも僕たちはオークのいる小さな森の手前までやってきた。
小さいと言っても野球場一個分くらいの広ささはあるようで、木々も生い茂っているためオークがどのくらいいるのか判断がつかない。
しかしながら、三週間の特訓がここで実を結ぶ。
「アドリーシャ、森にいるオークの数を調べて」
「わかりました」
アルベロの指示でアドリーシャが魔力を森全体にのばしていく。
既に索敵能力だけはアルベロや猫さんをおさえて一番の実力を持つようになったアドリーシャ。
パーティで一番の魔力量を誇るアドリーシャだけにこういった際に力を発揮してくれる。
魔力が覆うと森がざわざわと慌ただしく揺れ動く。森にいるとオークも魔力でこちらが何かしているのは感じているのだろう。
「オークの数、三十体でございます」
ふーむ。結構な数がいたようだ。
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