第102話連携とは2
「何度も言ってるけど、前に出ないで。あなたの役割は後方支援でしょ」
アルベロが怒るのも無理はない。
「わかってます。それでも、ワイルドファングはDランクの魔物でこざいますし、全然、私でも倒せるのです」
いや、倒せていない。倒されていたのはアドリーシャの方だ。ルイーズが助けに入らなかったら絶対に食べられていたからね。
何故アドリーシャの冒険者ランクがCなのか不思議でならない。まあ、能力的にはCなんだろうけどさ。
「まあ、まあ。アドリーシャにも何か理由があるのかもしれないよ。ねえ、何で前に出て戦いたがるの?」
「……小さい頃から活躍するためには前に出ろと教わりました。仲間に成果を譲るようでは一流にはなれない。輝けるのは一握りの選ばれた人だけなのでございます」
聖女見習いとしてはそうなのかもしれないけど、これは討伐におけるパーティ連携の話だ。連携が不十分となると討伐難度がぐっとあがってしまう。
「今日はパーティの連携を見るためって話をしたよね?」
「はい。ですので、私の全力をみてもらおうと思ったのでございますが……」
盛大に空回りしていたのは本人も理解はしているのだろう。しかし、それは自分ならもっと上手くできるのに出来なかったというくやしさに感じる。
アドリーシャのランクはC。つまり、普通に考えてアルベロと同じランクの猛者なのだ。僕が知っているCランクは、駆け出し冒険者が全然手の届かない遥か高みにいる存在である。
アドリーシャはそのCランクなわけだけど、それは身体能力的なものに秀でたわけではなく、魔力特化型。完全な後方支援タイプなのだ。
「一度、僕の指示通りに動いてもらってもいいかな」
「ニール様の指示通りにですか……」
Dランクが私に指示をするですって、といった雰囲気が若干しないでもない。いや、Dランクにお情けをかけられているこの状況にくやしさを滲ませているのだろう。
しかしながら、早めに彼女の適正ともいえる立ち回りを理解してもらわなければパーティ全体を危険に晒す目に合いかねない。
「僕たちとなるべく長く旅を続けたいんだよね?」
「そ、それは、もちろんでございます!」
「ならば、僕の言うことを聞いてもらうよ」
「わ、わかりました」
アドリーシャに戦闘経験がほとんどないのはよくわかった。逆に経験がなくてCランクになれる聖女見習いの修行というのがとても気になる。
日々の神へのお祈りとかで魔力や魔力量が上がるのだろうか。全くもって不思議でならない。
「ニール、次の群れが来たけど大丈夫?」
「うん。当初の作戦通りで」
「わかったわ」
「キャットアイ……は寝てるわね。ルイーズ、北西から五体のワイルドファングよ」
「了解だよー」
「アドリーシャ、ルイーズにマポーフィックを」
マポーフィックは味方に魔法の盾を付与する魔法だ。
「あ、あの、ルイーズさん一人で大丈夫なのでございますか?」
「いいから、いいから」
「マポーフィック!」
疾風のレイピアを持ったルイーズなら一人でも容易くかわせるし討伐も可能な数だ。しかしながら、ここは役割を徹底してもらう。
うちのパーティの前衛は瞬足で掻き回すタイプのルイーズと遊撃として動くキャットアイ。前線は足でかく乱させつつ、後衛のアルベロが短弓バジャーダで数を減らしていく。
僕は基本的には後衛の守り役で、短槍やスクロールで攻撃も担う。あとは、イレギュラーケースになるけど強敵の場合は拠点をつくったりとかになるかな。
そして、新しい後衛役として聖女見習いのアドリーシャ。
「アドリーシャ、ルイーズにディオスを」
「えっ、でも怪我してませんよ」
「言った通りに」
「は、はい。ディオス!」
別に必要ではないかもしれないけど、さっきからアドリーシャの尻拭いで疲労していたルイーズを回復させる。これでスタミナの回復したルイーズのスピードは更にアップする。
ルイーズは五体のワイルドファングに囲まれても焦らずに受けて引きつけていく。
そこへ、アルベロの弓が後方のワイルドファングを倒していく。
さっきまでアドリーシャが邪魔で矢を撃てなかったのだけど、ルイーズの立ち回りで射線を確保しているのでアルベロも楽に射抜いていく。
「す、すごい」
アルベロが後方の二体を倒し、ルイーズも二体を倒す。残りの一体は、ルイーズの脇をすり抜けるようにして、こちらへ向かってくる。
「あっ、あっ、ワイルドファングが!」
「落ち着いて。僕にマポーフィックを」
「は、はい。マポーフィック!」
僕のランクはDでワイルドファングと同じ。同じ場合なら単独でも倒せるというギルドの判断。まあ、だめでもすぐに猫さんが助けてくれるだろう。ねぇ、助けてくれるよね?
仲間がやられてテンパっているワイルドファングは盾の音に導かれるようにこちらに突進してくる。
ぶつかるタイミングにあわせてシールドバッシュ。
吹き飛んで脳しんとうを起こしたであろうワイルドファングに短槍でとどめをさす。
「どうかな?」
後ろを振り向いたら、尻もちをついて顔を覆うアドリーシャと、大丈夫かしらと言わんばかりにアルベロの困り顔があった。
ちなみに猫さんは完全に熟睡しているらしくここは立ち上がる気配もない。猫さんっ!
さ、さて……どうしたものか。
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