第99話夕食会
案内された部屋へ入ると、まるで貴族の晩餐会のような豪華なダイニングテーブルにコース料理の準備が整っていた。
僕の座る位置は……ルリカラ専用と思われる小さな子ども用の椅子が用意されている場所があるのでその隣になるだろう。
もちろんその反対側にはマリアンヌさんがいるので、ルリカラの隣をキープしたかったのは間違いない。
「お口に合うといいのですけど」
それは僕たちに言ってるのか、それともルリカラに話しかけているのだろうか。
ルリカラ席の前には生魚に殻付きの貝や海老がずらりと並んでいる。ルリカラも目をピキーンと見開いて「もう食べていい? 全部食べてもいいの?」と尻尾ふりふりでご満悦の様子。
「みんなと一緒に食べようね」
「キュイ……」
しょうがない。待つけども早めに頼む。的なイメージが僕に届いた。
「ま、まあ! ルリカラ様がお鳴きになられたわ」
マリアンヌさんは聖獣信仰にどっぷりはまられている。
白くてもふもふしててぬいぐるみみたいでかわいい。という感じだけでなく、聖獣として崇めている部分もしっかりある。
ルリカラに気に入られている部分はこのあたりが要因と思われる。
マリアンヌさんは手に小さめのタオルを持っていて、ルリカラのお世話をする気満々だ。
「では、いただきましょう。みなさんとの出会いを祝して」
いつの間にやら用意されていた食前酒を片手にマリアンヌさんが乾杯の音頭をとる。
食前酒を手にとると、すぐに付け出しのメニューとオードブルが並べられていく。
ようやくゴーサインの出たルリカラは海老を頭から殻ごとかぶりついていた。相変わらず食べ方は汚いのだけど、その食べっぷりは清々しいほどに気持ちがいい。
少し驚いた様子のマリアンヌさんだったけど、すぐに慣れた様子でルリカラの口の周りを吹いてあげている。
なんだか申し訳ないけど、これなら僕もこの美味しい料理に集中できそうだ。
コース料理は野菜とベーコンたっぷりのスープから魚料理へと続いていく。
「それで、アドリーシャの同行のことですが、結論は出ましたでしょうか?」
アドリーシャさんが部屋を出てから、話し合いをした結果としては、臨時のパーティメンバーとして行動を共にしようという結論になった。
こちらは王国と敵対関係にあるので庇護を求めるなら、しっかり関係性をつくろうという話になったのだ。
アドリーシャさん個人の思惑もありそうだし、ここはイルミナ教会との橋渡し役としてもしっかり働いてもらいつつ、こちらもアドリーシャさんを通じて情報を得ようと思ったのだ。
「はい。同行の件、よろしくお願いします」
「まあ、それはよかったわ。アドリーシャ、失礼のないようにするのよ」
「かしこまりました」
「それで、マリアンヌさん」
「何でしょうか?」
「僕たちはすぐに聖都へ向かうわけではなく、寄り道したり途中の街に滞在したりしながらゆっくり向うつもりです」
「そうなのですね」
「はい。そうなると、アドリーシャさんとの同行期間というのが、かなり長いものになってしまうのですが、その、よろしいでしょうか?」
「ええ、構いませんよ。それを判断するのはアドリーシャですし、アドリーシャが大聖堂に戻る場合は代わりの者を向かわせます」
「よかった。ありがとうございます」
「ここにも一年ぐらい居て頂いても構いませんのよ」
いや、一年は居すぎだろう。さすがに僕たちもそこまでのんびりはしていない。
マリアンヌさんのその言葉を聞いたアドリーシャさんもどこかホッとした表情をしていた。
個人的な意思で行動を共にしたいと思っているのは嘘ではないらしい。また、そのあたりの話をマリアンヌさんと共有出来ていないということもわかった。
まあ、マリアンヌさん的にはそんなアドリーシャの考えもお見通しで人選した可能性もある。
ちなみに、ルリカラの席は食べ散らかした残骸でえらいことになっているが、マリアンヌさんは気にした様子もないので僕も見ないようにしている。
テーブルの上はまだいいとして、床とかにシミがつかないことを願っている。それ結構高級な敷物のように思えるんだ。
料理は魚料理から肉料理へと移り、みんなもお酒を飲みながら楽しんでいる。
宵の月亭のような庶民の味もいいけど、貴族料理のような計算されたコース料理というのも贅沢だ。
「そうだわ。大聖堂には大浴場があるのですけど、みなさんにも是非入っていただきたいわ」
「お、お風呂ですか。お風呂があるんですか!」
「え、ええ。大人数で入れる湯浴みの施設ですのよ」
「ぜひ、お願いします」
「ニールはお風呂好きだよねー。そんなにいいものなのー?」
「ルイーズも入ってみたらいいよ。温かいお湯に全身を浸かると疲れもとれるよ」
「そっかー。なら、私も入ってみよーかなー」
ということで、お酒をあまり飲みすぎないようにしつつ、食後にお風呂に入ることになった。
部屋はきれいで広いし、お風呂もあるとか。本当に一年ぐらい暮らしたくなってしまう。
でも、ずっとここにいたらダメ人間にされてしまう気がしてならない。ルリカラのおかげとはいえ、この状況を当たり前だと思ってはいけないのだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます