第98話相談
ある程度は関係を保っておくべきだとは思ってはいたものの、聖都までとはいえパーティメンバーとして同行させてほしいとなると少し考えものだ。
僕のスキルについても隠しておかなければならないこともある。一緒に行動するとなるとそのあたりは隠しようがない。さて、どうしたものか。
あれからお偉い人が滞在する時に使用するという豪華な部屋に案内されてしまった。
部屋はとても広くてソファも床もふかふか、寝室は全部で五部屋もあるし、部屋の外には人が控えていて何かあればすぐに対処してくれるとのこと。
「ところで、聖都までは何日ぐらいかかるのかな?」
「聖都ルーンまでは馬車で六十日ぐらいにゃ」
聖都の名前はルーンというらしい。それにしても六十日か。
「それは、また長いね」
こちらは三十日にも及ぶ逃避行を終えたばかりなので、また馬車で六十日と言われても到底すぐ向かう気にはなれない。
すぐに向かう場合、合計で三か月も馬車の旅をするようなもの。それはちょっと考えものではないだろうか。
「急ぐ旅でもないし、ゆっくりしてもいいと思うなー」
ルイーズの意見に賛成だ。聖都ルーンにもせっかくだから行ってみようかという観光気分が強い。イルミナ教会と接触を図れた今となっては、特段に急いで向かう場所でもないのだ。
「ただ、そうなるとアドリーシャさんがね……」
「だったら、それを理由に断れないかしら?」
なるほど、聖女見習いとして忙しいアドリーシャさんを僕たちのゆっくりのんびりした旅に連れていくというのはちょっと申し訳ない気持ちがする。
断る理由ができたというもの。
コンコンコン
噂をすればなんとやら。扉を叩く音に続いて聞こえてきたのは、そのアドリーシャさんだった。
「どうぞ」
「失礼いたします」
「ちょうど良かったです。実はアドリーシャさんの同行の件をみんなで話していたんですけど……」
と、続けてアルベロがアドリーシャさんに説明をしていく。
「聖都までは行くつもりだけど、特に急ぐ旅でもないからゆっくり向かおうと思っていて。それだとアドリーシャさんに悪いからお断りしようと話していたの」
「そ、それは困ります」
何が困るのだろうか。ひょっとして、上からの圧力で聖獣様ご一行には必ず聖都まで案内しなければならないとか言われているのだろうか。
「マリアンヌさんには、こちらからちゃんと説明しますよ」
「違うのでございます。どこへ行くとかではなく、可能なら二年ぐらいご一緒に旅のお供をさせてもらいたいのでございます」
二ヶ月で辿り着く聖都に二年はちょっと長すぎると思うんだけど、どうやら自分の意志で行動を共にしたいらしい。
「理由を聞いても?」
「私は今まで聖女になるためにずっと修練を積んでまいりました。今回、みなさまと旅に出ることで様々な土地を見て、自らの見聞を広め、困っている方々を道すがら救済し、さらなる徳を積むことができると思っているのでございます」
聖女になりたいというだけあって、結構真面目に国のこととか考えているのかもしれない。いずれ上に立つ者として、庶民の暮らしを実際に見たいということなのだろうか。
「魔法も回復系の光魔法や氷系の攻撃魔法も得意でございます。きっと魔王討伐のお役にも立てるはずです」
回復魔法はありがたい。それにしても魔王って言ったかな? 魔物の間違いだよね。
「聖イルミナ共和国には魔王がいるにゃ?」
「い、いえ、今はおりません。しかしながら、様々なことに困っている方々は数多くおります。私は手を差し伸べられる人を一人でも多く救いたいと思っているのでございます」
ああ、よかった。本当に魔王とかいたらどうしようかと思ったけど、いなくて安心したよ。どうやら、人々が困っている様子を魔王に見立てて話をしてくれたらしい。
「でも、私たちはこの国の人々を救うための旅なんてしないわよ」
「そうだよねー」
それはそうだ。危険な魔物がいるなら避けながら旅をするだろうし……困っている人が目の前にいたら、それはやれる範囲で助けはするかもしれない。しかしながら率先してやるほど僕たちも善人ではない。
「ですので、私としてはみなさんが旅でお困りにならないようイルミナ教会と連携してアテンドするのと同時に、行く先々で聖女見習いとしての救済をしたいと思っているのでございます」
「つまり、自分一人では外の世界を見てまわることができないから、聖都までとは言いながらもなるべく長く一緒について行きたいということですね」
「はい。そういうことですので、ゆっくり聖都に向かうのは私としてもありがたいといいますか……」
そんなに聖女活動をしたいなんて、アドリーシャさんは本当に立派なお方なのかもしれない。
悪い人のようには見えないし、彼女がいることでイルミナ教会からのアプローチも直接やらずに窓口になってくれるだろうから助かる部分もあるか。
万が一、ちょっと面倒に感じたら、さっさと聖都ルーンに到着してしまえばお別れになるのだろうし……別にいいのかな。
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