第95話イルミナ教の洗礼を受けよう

 ランキングの一位にはアドリーシャと書かれている。先ほど見かけた聖女見習いの少女だろう。


 薄いブルーの髪に金色の瞳で微笑みながらこちらを見てくる。


「あー、歴代の聖女様の絵も飾られてるよー」


「へぇー、意外と在位期間が短いんだね」


 聖女見習いの目標はそのまま聖女になること。聖女見習いの頂点に立つのが聖女なのだという。


 そして、聖女でいられる時間はそう長くはないらしい。在位として見ると平均で三年程度のようだ。


若くて有能な聖女見習いからの突き上げに屈する形で引退を余儀なくされるのだろう。


 二十代前半頃までに聖女になっている人がほとんどだ。


「聖女様って引退したらどうなるの?」


「そのままイルミナ教の幹部になったり、聖女見習い達を指導する役割になるみたいね」


「なるほどね」


 お店に入ると聖女見習い向けの差し入れグッズやプロマイドカードがいっぱい並んでいる。


「信者はあのカードでいっぱいお金を貢ぐにゃ。あのピカピカのカードは白金貨一枚もするにゃ」


 おそろしい金額のプレミアムカードがあった。金ピカに装飾されたレアカード百万円……。


「さすがにあれを買う人はいないよね?」


「そうでもないにゃ」


 なんでも年に一度あるグランプリを決定する時期には、あのレアカードが飛ぶように売れるのだとか。


 あまり関わっちゃいけない界隈な気がする。競争意識を煽って商売に繋げているのか。完全にアイドル商法だ。


まあ、傍目から見ている分にはお祭り感覚で楽しいかもしれないけど。


「あっ、すみません。この十字架のネックレスを二つください」


「へい、まいど。チェーンの長さを調節しますね。えー、付けるのは?」


「あっ、僕と彼女です」


「ふむふむ、かしこまりましたー」


 店員さんは慣れた手つきでチェーンの長さを調節していく。パッと見ただけでわかってしまうのがすごい。


「こんな感じでいかがですか?」


「あっ、はい。丁度いいです」


「うん。私もぴったりー」


「他に買い物はありませんか?」


「はい、これだけで」


「こちら金貨二枚になります」


 普通のネックレス二つで金貨二枚。二十万もする高額品。この値段を知らなかったら、普通の人は購入をためらうだろう。


 しかしながら、この投資により今後の様々な割引特典が得られる訳で、結果としてはお買い得になるらしいのだ。


 正確にはこの後に行われる洗礼でネックレスの宝石に色がつくことで洗礼を受けた信者であることが証明される。


 今は十字架の中央に透明な石がはめ込まれているけど、これが洗礼を受けることで色が変化していくそうだ。


 色で階位を分けているらしく、白→青→赤→金と変わっていくそうだ。


 アルベロとキャットアイは白。僕たちも白になる予定だ。


 しばらくは白で様子を見て、必要に合わせて階位を上げていくことも考えようと思っている。


「みなさまにイルミナ神のご加護がありますように」


 店主のネックレスには青い石が光っていた。


 さて、こちらも洗礼を受けますか。そろそろ本当に疲れてきてるんだよね。


 ホーリー屋を出ると、目の前には大きなイルミナ大聖堂。あとはここで洗礼を受けるのみ。何か言われても検討しますでいいんだよね。


 門を抜けたところで、すぐに神官さんが話し掛けてくる。


「観光ですか? それとも洗礼ですか?」


「洗礼です。僕たち二人なんですけど」


「後ろのお二方は付き添いですね」


「あっ、冒険者ギルドでこちらを渡すように言われておりました」


「この封蝋デザインはギルド長のものですね。では、こちらへご案内します」


 洗礼を受ける人がまっすぐ大聖堂に向かうなか、僕たちは何故か隣の建物の方へと連れて行かれる。


 早く終わらせたいのに、長引きそうな気配を感じる。受付のお姉さん、手紙を見せたら早く終わるって言ってたのに……。


「では、こちらの部屋でお待ちくださいませ」


 大聖堂の隣の建物に通された僕たちは高級そうなソファがある応接室に案内された。


「どうなってるのかな?」


「聖獣とリメリア王国に召喚された異世界人の保護といったところね」


「庇護を受けるなら丁度いいにゃ。内容にもよるけどにゃ」


 僕たちパーティとしてはリメリア王国からの介入をしっかり跳ねのけてくれる後ろ盾が欲しいところ。そういう意味ではギルド長の手紙でイルミナ教会に話が伝わってくれるなら話が早い。


 疲れているから早く終わってほしいけど、これもまた大事な話し合いになる。イルミナ教会と早く話ができるなら進めるべきだろう。


「お待たせいたしました。大司教のマリアンヌと申します。こちらは聖女見習いのアドリーシャです」


「アドリーシャと申します。よろしくお願いします」


「よろしくお願いします」


 二人とも見覚えのある人だ。確かマリアンヌさんは二代前の元聖女、そして隣りにいるアドリーシャさんは先ほども見かけた聖女見習いランキングナンバーワンの少女である。


「まあ、かわいらしい聖獣様なんですね。触れることは可能ですか?」


 聖獣の情報はちゃんと手紙に書かれているようだ。


「あっ、はい。大丈夫ですよ。顔まわりとあごの下あたりが喜びます」


「ニール様とルイーズ様の洗礼はこの場にてアドリーシャに行わせます。アドリーシャ、準備を」


「はい。マリアンヌ様」


 アドリーシャさんは持参した道具をテーブルの上に並べて準備を進めていく。


 よかった。洗礼は早く終わらそうだし、この感じだと、その後のしつこいお布施の勧誘とかはなさそうだ。


 いや、ないよね?

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