第94話移籍登録

「ようこそ、冒険者ギルドへ」


「こんにちは。あの、移籍登録をお願いしたいのですが」


「移籍登録ですね。えーっと、四名様と従魔ですか?」


「はい。この従魔は僕がテイムしています」


「かしこまりました。では、みなさん奥の部屋にご案内いたしますのでこちらへどうぞ」


 どうやら、こちらの人数が多かったからなのか、それとも冒険者ギルドが暇だったからなのかわからないけど、僕たちは受付のお姉さんに個室へと案内された。


 個室には長いテーブルがあって、四人が座る椅子が並べられている。


「では、少しお話を聞かせてください」


「はぁ」


「みなさんはリメリア王国からの移籍ということでよろしかったでしょうか?」


「はい、そうです」


「何でそんなことを聞くにゃ?」


「実は、最近リメリア王国から冒険者の移籍が増えておりまして、情報を集めるように言われているんです」


 なるほど、あのギルド長、他の冒険者にもいろいろやらかしていたのだろうか。


 国王が表立って何かやってるって感じでもない。一番に思い浮かぶのはやはり王都のギルド長バルトロメオだ。


「そのー、こう言ったことを聞くのはなんですが、その、理由を聞いてもよろしいでしょうか?」


 さて、どうしたものか。


 相手から聞いてくるなら思いきって話をしてみるのもありかもしれない。


 アルベロとルイーズを見ると軽く頷いている。猫さんも同様だ。


「実は……僕はリメリア王国によって異世界から召喚された者でして……」


「ええっ!」


 事情を説明すると、信じられないといった表情で僕の話した内容をメモしている。


 このメモの内容がイルミナ教会に伝わることになるだろう。庇護を求めるならばここは一気に畳み掛けようじゃないか。僕のスキルをある程度隠しながら、大事なポイントをちゃんと伝える。


「僕にはテイマースキルがありまして……実は、この従魔は聖獣なんです」


「せ、せ、せ、聖獣!?」


「はい、聖獣ホワイトドラゴンです」


「聖獣、ホワイトドラゴン様」


 ドラゴンに様がついた。


「ほらっ、ルリカラ。ご挨拶して」


 テーブルの上をトコトコ歩き、受付のお姉さんの前までいって、ペコリと頭を下げるルリカラ。


「きゃ、きゃわいい!」


 僕との深夜の特訓が実を結んだようだ。間違いなく目の前にいるお姉さんの心はガッチリと掴んでいる。


「ここまで辿り着くのも大変で、騎士団や仲間だった冒険者達にまで追われ……」


「大変だったのですね」


お姉さんの執筆スピードはグイグイと上がっていく。既に一枚目を埋め尽くして、二枚目に突入している。


「あっ、すみません。それでは、みなさんのタグをいったん預かりますね。ルリカラ様のもよろしいですか?」


 ルリカラは目を瞑って「うむ、すぐに返せよ」と言いながらタグをお姉さんに取らせている。


タグを取りながらも胸のもふもふを堪能していたのは見逃さなかったよお姉さん。


「はわわわ、やわらかいいいっ! し、死んじゃう」


「だ、大丈夫ですか?」


「え、ええ、問題ございません。それでは移籍登録を済ませてまいりますね」


 受付のお姉さんは興奮気味に十字架を握りしめつつ部屋を出ていった。


「ルリカラちゃん効果、思ってるよりすごそうだねー」


 何となく調子に乗りそうなので、本人にはなるべく伝わらないように気をつけようと思う。まあ、そのうち気づいてしまうと思うけど。


 受付のお姉さんが戻ってきたのは、少し時間が掛かったようで二時間後だった。一応、他のギルド職員さんがお茶と軽食を持ってきてくれたので、遠慮なく休憩させてもらった。


「大変おまたせいたしました。こちら、タグを更新しておきました。この後は大聖堂へ行かれますか?」


「はい。僕とルイーズは洗礼がまだなので」


「それでは、こちらの手紙を神官様へお渡しください。順番も早くしてくれると思います」


「そうですか。それはありがたいですね」


「あっ、よかったらルリカラ様のタグは私がお付けしてもよろしいでしょうか」


「あっ、はい」


ひゃっほぅー! という心の叫びが聞こえたような気がした。ルリカラも満更でもない様子なのでいいだろう。


 長旅で疲れてるし、早く洗礼を終わらせ、宿屋を確保して早めに夕飯を食べて、無事を祝う簡単な乾杯でもしたらすぐに寝てしまいたい。


 やはり、久し振りにベッドでゆっくり眠れる環境というのは楽しみだ。お風呂があったら入りたいところだけど、さすがにこの世界でそれは贅沢というもの。


 アルベロの清浄の魔法で我慢だよね。それだけでもありがたい。


 冒険者ギルドを出ると、さっき見ていたイルミナ大聖堂へと向かう。


「その前に十字架のネックレスを買わなきゃいけないんだっけ」


「大聖堂の前にあるホーリー屋で買えるにゃ」


 なるほど、あのアイドルショップ。もとい、聖女見習いグッズ屋さんで十字架を買えるのか。


 ホーリー屋にはどんな物が売っているのか少しだけ気になっていたのでよかった。


 何となく一人では入りにくい店のような気がしてたんだよね。


ホーリー屋の店頭には聖女見習いの似顔絵と売上ランキングなるものまで貼り出されている。稼ごうとする気持ちを隠すことなく、むしろ煽っているまである。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る