第86話アローヘッド

■■■Aランク冒険者 アローヘッド視点


「あれっ、そういえばニールの顔知らなかった」


 すでに馬に乗って出発した後に気づくとは我ながら情けない。まあ、いいか。アルベロとルイーズの顔は覚えている。一緒に行動しているならわかるだろう。


 気になるのはキャットアイだ。あいつは基本的に冒険者ギルドの日当たりの良い場所でいつも昼寝をしている。それが昨日も今日も見かけなかった。


 バルトロメオと喧嘩をしたらしいから、気不味くて来ていないだけならいいけど、もしもニールたちと行動を共にしていたら厄介だ。


 バブルラグーンではシーデーモンを相手に共闘したというし、ミストマウンテンからの帰りの馬車では一緒だったという。この数日でかなり近い関係性を築いているのは確かだ。


 契約を解除されたキャットアイが三人から護衛を頼まれたとしても不思議ではない。


「そうなると、面倒なんだよなー」


 キャットアイだけなら問題ない。同じ近接戦闘タイプではあるものの何度か手合わせをしているし、おそらく力で押し切れる。奴の攻撃はAランクにしては軽い。多少スピードで上をいっていたとしても問題になるほどではない。


 しかしながら、そこにアルベロとルイーズがいるとなると少々厄介だ。


 まあ、先にキャットアイを無力化させて順番に倒していけばいいか。キャットアイ以外はたいした脅威ではないのだから。


「まあ、あの面倒くさがりが何日もかかる護衛依頼を個人的に受けるというのも考えづらいんだよな」


 キャットアイの行動にはぶれがない。日中は昼寝をして、日が暮れてから食事をとって昼近くまでまた寝る。一日のほとんどを寝て過ごしているほどに仕事を選ぶ。


 ギルドで昼寝をしているのはたまに出てくる割のいい指名依頼をもらうためだ。高価な依頼を数を絞って受けることで昼寝の時間を確保しているといってもいい。


 そんな奴が二日もギルドに顔を見せていない。それは奴のポリシーに反した行動としか思えない。


 そういえば、バブルラグーンのギルド長から声を掛けられているんだったか。


 その話が本当であるなら、バブルラグーンへ行っている可能性もあるかもしれない。


「そうだと楽でいいんだけどな」


 さて、少し奴らのことを考えてみるか。


 おそらく奴らは馬車で国境に向かっている。


 門番からの情報では、王都からは荷車をひいてラウラの森に向かっていったという。そして、湖の周辺を捜索させたが荷車は発見されていない。


 そうなると、各人が馬を走らせていると考えるより、馬車に荷物を乗せ移動していると考えるべきだろう。国を出るということはそれなりに荷物も多くなる。普通に考えても馬車は確定とみていい。


「それならば移動速度は遅くなる。国境までには必ず追いつける。まあ、俺の進む聖イルミナ共和国に向かっていたらの場合だけどね」


 それにしても異世界人ねー。そこまでして捕まえる価値のある奴なのかね。偉い人の考えることはよくわからない。


 ポーション精製にテイマースキルだったか。ダブルスキルは多少珍しいとしても、そんな奴がどう役に立つのか理解に苦しむ。


「まあ、捕まえるだけで白金貨一枚は美味しい仕事か。ニール君には悪いけどお戻りいただこう」


 さて、もう一度確認しよう。もしも、キャットアイが同行していた場合は先にキャットアイを連れ出してから一対一で倒し各個撃破。


 いや、キャットアイを無力化したら次は馬車を潰しておくべきだな。別にアルベロとルイーズは置いていけばいい。


 あと注意点としては、ニールの従魔であるホワイトドラゴンのブレスか。これは近距離で相手をしたらキャットアイでも避けられないと言っていたものだ。馬車を潰したあとは、優先的にそのホワイトドラゴンを遠距離から狙うか。


「でも俺、遠距離攻撃は苦手なんだよな。どうせ魔法は避けられるだろうし……剣を投げるか」


 こんなことならナイフでも持っておくべきだった。バルトロメオが出発を急がせるからこういうことになる。


 追いつくとしてら何日後だ?


 こちらも馬を潰すわけにはいかない。ある程度休憩を挟みながら進む必要がある。


 馬車で進んでいると仮定するなら道の整備されている街道を行くしかない。それなら探す手間も省けるというもの。


 うまく行けば五日後から六日後あたりには追いつける。万が一見つけられなかった場合はそのまま国境まで行き待ち構える感じか。


 そうなると、往復で六十日。しかも帰りはニールを連れて帰らなければならないとなるともっと時間が掛かってしまうか……。


 できる限り最速で捕まえて戻りたい。さすがにこの長い期間、野営を繰り返して戦い、無力化して連れ帰るというのは俺でもなかなか厳しい。


 頼むからまっすぐ街道を進んでいてくれよ。


「待ってろよ、白金貨」

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