第76話採掘完了

 それからしばらく鉱脈を追いかけながら採掘したアダマンタイト鉱石は小量ながら三つの塊を集めることができた。


 最初に採掘したものと合わせて計四つのアダマンタイト鉱石を獲得。矢じりがつくれる計算で十二個ぐらいの分量だ。


「何とか最低限の量は確保できた感じかな」


「それで、こいつは連れて帰るのにゃ?」


「いや、まあ置いていくわけにもいきませんしね……」


 こいつとは、ダンパーのことである。崩落に巻き込まれたものの奇跡的に落下をまぬがれて岩に挟まっている所を偶然発見した。


「助かりました。このダンパー、まだ罪を償ってもいないのに死ぬわけには参りません」


 とてもきれいな瞳でそう訴えかけてくるダンパー。そもそも、君が危険があるにもかかわらずドタバタと走ってきたのが原因なんだけどね。


「もう危ないエリアを走ったりしないでくださいよ」


「はい!」


「スケルトンのいる所へ落とすにゃ? 今なら誰も見ていないにゃ」


 その言葉が本気なのかわからないけど、ダンパーのせいで危険な目に合ったこともあり、猫さんはとても怒っているみたいだ。


「アンナは何も見ていないふりもできます」


 キャットアイの言葉に盲目的なアンナさんはすぐさま肯定の意を示す。


「いやいや、キャットアイの冗談ですからね、アンナさん」


「冗談のつもりはなかったにゃ」


「アンナは……アンナは、何も見ておりません」


「はい、はい。やっとここまで戻ってこれたんだから早く帰ろうね」


 僕はもう疲れたんだよ。


 採掘場の入口でダンパーを引き渡すと、そこにはルイーズとアルベロの姿もあった。


「崩落があったって聞いたから心配してたんだよー」


「帰ってくるのも遅いし」


 そう言ってすぐに清浄の魔法をかけてくれるアルベロ。そういえば、全身汚れまくっていたんだ。さすがのルリカラも清浄が終わってから頭の上に乗ったぐらいだ。


「もう少し遅かったらアルベロが探しにいくって言ってたんだよー」


「心配かけてごめんね。結構下まで落ちちゃったから、上がってくるのに時間が掛かっちゃったみたい」


 アダマンタイトよりも僕を心配してくれる仲間というものにありがたみを感じる。


 他の鉱夫さんたちも情報を集めているようで、今日は途中で仕事を切り上げた方も多いようだ。


 まあ、あれだけ崩落の音が響き渡れば心配もするだろう。崩落は大抵の場合生還することは難しい。鉱夫のみなさんもかなり注意を払って作業をしているのだろう。


あとでカルメロさんに聞いたところ、とりあえずは周辺エリアの調査をして、しばらくは近くの場所は立入禁止になるだろうとのこと。それ以外の離れた場所はいままで通り採掘可能らしい。


 結果的に立入禁止になる前にアダマンタイトを採掘できたのはよかった。


「王都に帰るにゃ?」


「そうですね。アダマンタイトを加工してもらわなければなりませんからね」


 ビビアンさんとカルメロさんはもっと長居してくれて構わないと言ってくれているのだけど、ここで特にやることがあるわけでもない。


 ミスリル鉱石は採れるかもしれないけど、アダマンタイトはしばらくは難しいだろう。魔物を討伐するにしてもスケルトンやグールでは追加報酬もないからうまみもない。


 それなら、ドワーフのおじさんにアダマンタイトを渡して矢じりの完成を待つ間、ジャイアントトードでも狩っている方がいい。


「もう帰られてしまうのですか」


アンナさんもさみしそうにしている。どちらかというと、僕よりもキャットアイが帰ってしまうのが悲しいのだろうけどね。


「また近くに来ることがあったら寄りますよ」


 契約上、年に一回は戻ってくることにもなってるしね。


 その日の夜は食材集めが間に合ったのかごちそうを用意してくれるらしい。ここから一番近いバブルラグーンから食材を仕入れたのだろう。


 大きなバブルクラブが大量に運び込まれていた。もちろん魚貝類だけでなく、お肉や野菜もあったのでどんな料理が出てくるのかとても楽しみだ。


「お酒もいっぱいあるみたいだねー」


 二日酔いで馬車に乗った記憶は忘れてしまったのだろうか。この分だと明日の出発は延びて翌日の馬車になりそうな予感しかない。


 まあ、急ぐ旅でもないから構わないんだけどね。


 異世界の料理はとても美味しい。宵の月亭は何を食べても間違いなかったし、バブルラグーンの魚貝料理も最高だった。スパイスがそれなりに流通しているからだと思うけど、味付けもしっかりしている。


 僕としては、あとは醤油と味噌とお米があったら言うことはない。小麦があるんだからお米だってあると思うんだ。きっと、あるよね?


 ということで、お楽しみの夕食は異世界で初となるコース料理だった。


 前菜からドレッシングが美味しすぎておかわりしたくなるレベル。パンも美味しくふっくら焼き上がっていて、新鮮な海鮮料理に分厚いステーキ肉に美味しいスープ、それから食後のデザート。


 もちろん、ビールやワインも飲んで、カルメロさんから冒険者時代の昔話を聞いたり、ビビアンさんとの馴れ初めを聞いたりと盛り上がった。


 通常ならここで飲みすぎてしまうところだけど、食事の後にガチャをすることになっているので、実はみんなそこまで酔っていない。


 そんなことならガチャは明日にすればよかったかなと話したら、どうしても見たいからやってくれと大量の小銀貨の山を見せられてしまった。


 採掘ガチャ、ちゃんと出るだろうか。間違ってスケルトンガチャだった場合、目も当てられないよ。

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