第74話崩落する坑道

 こうなってしまっては落ちるところまで落ちるしかない。僕は近くにいたアンナさんの手をとると離れないように抱き寄せる。


 この中で一番体力がないのは言うまでもなくアンナさんだ。僕が抱きしめることで彼女の俊敏性が失われて逆に危険になる可能性も否定できないが、そんなことを考えている余裕もなく下へ下へと落とされた。


「ニール、目を開けるにゃ!」


「は、はいっ」


 どこまで落ちているのか、いまだ落下中の浮遊感に包まれる中、目を開ける。


 すると、落下しながらも岩や土砂を振り払うようにキャットアイが華麗に立ち回り、その空間を確保している。


 岩を蹴り飛ばし、塊となって降ってくる土砂を剣技でもって吹き飛ばす。


 僕にできることは何かないのか。


 いや、ある。


「ニール!」


 頭上から降ってくる大きな岩。このサイズは避けられるものではない。


 だからこそ、やれることがある。


「インベントリ!」


 手に触れた瞬間、大岩はインベントリの中に入る。


 そして、すぐにゴミ箱へ削除。


 小さな石は痛みを堪えて受けつつ、致命傷になりそうな大岩だけをインベントリに入れていく。


「そろそろ地面にゃ」


 このままの勢いでは地面に着いた所で大怪我となってしまう。でも、ここにはキャットアイがいる。きっと彼女が何とかしてくれる。


 僕より小さなキャットアイはアンナさんを抱えた僕ごと掴むと、同様に落下している岩でステップを刻むようにしてその落下スピードをおさえていく。


 土砂と暗闇でその神業はほとんど見えてはいないものの、妙な安心感を覚えた。きっと、もう大丈夫なのだと。


 一瞬の浮遊感の後に、地面へ無事に着地。


 その後に続くように土砂と岩が落ちてくるものの、何とか大岩に囲まれたスペースを見つけて逃げ込むことに成功。


「い、生き残りました……ね」


「ニール様、ありがとうございました」


「とりあえず、リカバリーポーションで体の傷を回復しよう」


 僕たちがポーションを飲んでいると、様子を窺っていたキャットアイもこちらにやってきた。


「えらい目にあったにゃ」


「本当ですね。はい、ポーションです」


「ありがとにゃ」


 僕が目を瞑っていた時もずっと守っていてくれたのだろう。致命傷はないものの、頭や体の至る所が傷だらけになっていた。


 まあ、あの崩落で致命傷がないとか奇跡だと思うけどね。


「ダンパーは大丈夫だったかな?」


「どうでもいいにゃ。少なからず近くに気配は感じないにゃ」


 まあ、ダンパーを気にしている余裕はこちらにもない。彼が崩落に巻き込まれずに生き残っていることを祈ろう。


「ここはどのあたりですかね?」


「アンナはわかるにゃ?」


「申し訳ございません。土煙がひどくて判断できません」


 まだ少なからず土砂が落ちてきている状況なので、いくら猫人族の嗅覚が鋭いといっても、しばらくは鼻が効きづらいのかもしれない。


「アダマンタイトの鉱脈があった更に下方に落下したにゃ。登らないと帰れないと思うにゃ」


「ですよね。でも、どうやって登ればいいのか……」


 きっとキャットアイだけなら一人でも駆け登っていける。でも、ここには僕とアンナさんもいる。


「アンナだけなら脇に抱えて登れると思うにゃ」


 訂正、僕だけ置いてけぼりになる可能性が出てきた。


「先にアンナさんだけでも安全な場所へ連れていってください」


「いや、アダマンタイトの採掘をするにはアンナの嗅覚が必要にゃ」


「えっ? 採掘まだあきらめてなかったんですか?」


「あたり前にゃ。禁止区域が崩落したということは、今わかっているアダマンタイトの鉱脈を逃したら、いつアダマンタイトが採掘できるかわからないにゃ」


 そうか。レア鉱石だけに、鉱脈が多いわけではないのか。せっかくここまで来たのに採掘できないのは悲しい。


「どうやって上に行きましょうか」


「上へのルートを探すか……。いや、ニールに階段をつくってもらえば、いけるにゃ」


「階段をつくるって、何の道具も持ってないんだけど」


 インベントリで採掘するつもりだったから、当たり前のようにツルハシもスコップ何てものも持っていない。新品の短槍はあるけど、はじめての出番が土木作業になるのだろうか。


「インベントリで壁を削って階段をつくるにゃ。昨日の採掘はきれいな長方形に抉っていたにゃ」


「なるほど、それを段差を作りながら階段上にしていけば安全に上に行けるのか」


 インベントリ、お前、階段までつくれたんだな。便利で最高のパートナーすぎるよ。


「と、その前に敵がお出ましにゃ」


 土砂の落下がようやくおさまったと思ったら、今度は魔物がやってきたらしい。ひょっとしたら一緒に巻き込まれて落ちてきたのか、それとも最初からこの地下にいたのか。


 カタカタカタカタ


 カタカタカタカタカタカタ


 僕たちの前に現れたのは大量のスケルトンだった。


「ど、ど、どうしますか」


「どうするも何も、吹き飛ばすにゃ」


 スケルトンE

 討伐報酬は小銀貨一枚、追加報酬なし

 討伐証明は、心臓近くにあるハート型の骨。もちろん心臓はないんだけどね。


 ランクEなので僕でも倒せるのだろうけど、やってくるスケルトンはいっぱいいる。


 さて、早く逃げなければ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る