第64話経過報告2

■■■冒険者ギルド長 バルトロメオ視点


 キャットアイから手に入れた情報は今日の経過報告で王様へ伝えることになっている。


 とりあえずわかっていることは、短期間でDランクになったことと、ホワイトドラゴンをテイムしたことぐらいか。


 結果だけ見るなら普通じゃない。仲間に恵まれ運もいいようだが、それだけで説明できるレベルを超えている気がしないでもない。


 ただ、そこまですごいのかと言われると微妙だ。昔話で聞いた先人の異世界人と比べてしまうとその魅力は格段に落ちる。異世界人特有の圧倒的な身体能力や攻撃魔法の片鱗はまったく見られないからだ。


「バルトロメオよ、ニール・ゼニガタの様子はどうなのだ?」


「はっ、どうやら一般的な冒険者として生計を立てているようです」


「一般的な冒険者か……。やはり、使えんのか」


「しかしながら、気になる点もございます」


「何じゃ、申してみよ」


「はっ、ポーション精製スキルに続いて、テイマースキルに開眼したようです」


「ほう、テイマーか」


「テイムした従魔はホワイトドラゴンです」


「ホワイトドラゴン?」


「はい。左様でございます」


「ドラゴンをテイムできるのか?」


「い、いえ、そんな話は聞いたこともございません」


 王様もどこでドラゴンをテイムしたのかは気にならないのか。まあ、それはそれで俺は助かるんだが……。


「なるほど、みせてるではないか。異世界人の片鱗を」


「しかしながら、ドラゴンと言っても生まれたばかりの赤ん坊でございます。テイムできたのもたまたま運が良かっただけでしょう」


「バルトロメオよ。今は赤ん坊でも成長すれば巨大なドラゴンになるのだろう。それに、運がいい者というのは余も嫌いではない」


「は、はあ」


「城からニールが出て何日が経つ」


「二十日程度かと」


「わずか二十日で何も知らない異世界人が冒険者で生計を立てるということが、どれだけのことかわからんか」


「おっしゃることはわかります」


「余が渡した銀貨はたった二十枚だけだ。今、ニールはどの程度持っておるのだろうな」


「あっ、いえ。偶然でしょうが、冒険者ギルドから報奨金が出ておりまして、金貨二十枚以上はあるはずです」


「銀貨が金貨に化けおったではないか」


「いや、しかし、それはパーティメンバーの助けによるところが大きく、ゴブリンの進化個体もシーデーモンも本人は討伐する手助けを行ったまでとのこと」


「そんなことが立て続けに起こるものなのか?」


 それはありえないことではある。偶然がたまたま重なった可能性はあるが、その二つに異世界人が全て絡んでいる。


「い、いえ」


「惹きつけるのだろう。ニールは異世界人特有の何かを持っているに違いない。今はまだ開花していないとしても、いつか大輪の花を咲かすやもしれぬな」


「は、はあ……」


「バルトロメオ、ニールを呼べ。期待ハズレかと思っていたが、可能性がありそうではないか。今のうちに少しぐらい恩を売っておいてもいいだろう。金でも武具でも渡してやろうではないか。そのドラゴンとやらも見てみたい」


「王様。そ、その、ドラゴンは危険かもしれません」


「さっき、赤ん坊と言わなかったか?」


「どうやら不思議なブレスを吐くようでして、悪意を持って近づいた者が、天使のように心がきれいになったとの報告があがっております。ランクAのキャットアイも、そのブレスをかわせないおそれがあると」


「そうか。ならしょうがあるまい。ドラゴンは離れた場所から見ればよいか。ついでじゃ、そのパーティメンバーごと呼べばニールも断りづらいのではないか」


「パーティメンバーもですか」


「そうじゃな。シーデーモン討伐の功績を称え、わしが褒美をとらすといえばよろこんで来るであろう。食べたこともないご馳走と貴族用の衣装を着させ、王室のスパも体験させてやろうではないか」


 そこまでして取り込むレベルなのか? Dランクの冒険者なんだぞ。


「よろしいのですか?」


「十日後にパーティーを開催する。必ず連れて参るのじゃぞ」


「か、かしこまりました」


 そんなにすごい奴とは思えないんだがな……。


 どこか腑に落ちないまま、ギルドに戻ってきた俺は、奴らの担当であるカルデローネを呼び出した。


「お呼びでしょうか。ギルドマスター」


「アルベロとルイーズ、あとニールがギルドに来たら俺の部屋に連れてきてくれ」


「何かご用事ですか? でも、あの三人なら宵の月亭の部屋がキャセルできたとかで、急いでミストマウンテンへ向かいましたよ」


「も、もう出たのか!」


「はい。午前中にはもう馬車に乗って向かってしまいましたね」


「遠征から帰ってきたばかりだろ。また出たのか? いつ戻ってくるんだ?」


「それがアダマンタイトがある程度採れるまでとのことで、早ければ十日、遅くなると二十日は戻らないかもと……」


「キャットアイはどこだ!」


「キャットアイさんなら、一緒にミストマウンテンへ向かいましたよ。あ、この手紙をギルドマスターに渡してくれと言われました」


「よ、よこせ!」


 なになに、『ニールたちがミストマウンテンに行くらしいから追跡するにゃ。前回同様に遠征費用を金貨一枚請求するからよろしくにゃ。日数がかかる場合は追加請求するにゃ』じゃねぇーよ!

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