第55話マジックリング

 ガチャに弄ばれるような演出にどっと疲れが出てしまう。


 しかし、許そう。何故ならばこれはハズレガチャではないからだ。


 出てきたカプセルは三回連続のゴールド。やはり高額の回数制限ガチャにハズレはないのだ。


 カプセルを開けると、スモークとともに僕の頭の中にイメージが伝わってくる。


「マジックリング」


「それがニールのアイテム?」


「多分」


「どんな指輪なの?」


「えーっとね。どんな魔法も一つだけストックできる指輪。ステータスアップの効果はなし」


 何だろう。この微妙な感じは。


 他の二つはダブルでステータス上昇効果があったというのに、マジックリングにはそれが付与されていない。せめて魔力アップとかあってもいいんじゃないだろうか。


 それとも、一応当たりだけどギリギリのラインの当たりということなのだろうか。


「結構いい魔道具なんじゃない?」


 アルベロの言うようにいいアイテムかもしれない。それでも、ハリトをストックするぐらいなら魔法のスクロールで十分というわけで……。


「そうかなー。ステータス上昇効果ないし……」


「いいじゃん。私なんて何もないんだからー」


 ルイーズになぐさめられてもうれしくはない。


 お役御免となった金色の象さんwith踊り子さん達はいつの間にか消えてしまった。


 急にいなくなったガチャガチャに不思議そうな顔をしながらも、僕の横に戻ってきたルリカラ。


 僕がルリカラを撫でてあげていると、ルイーズが何かに気づいた様子で声を上げた。


「あっ、ひょっとして、ひょっとしなくてもその指輪にルリカラちゃんの偉大な聖なるブレスを入れてもらうこととかできちゃう!?」


 聖なるブレスをストックする。そんなことができるのだろうか。ブレスって魔法のくくりでいいんだよね?


「ルリカラ、どうなのかな?」


 ルリカラから伝わってきたイメージは「偉大な聖なるブレスは究極の魔法。そんな小さなリングにおさまるものではない」とのこと。


 一応ブレスは魔法ではあるらしいけど、ルリカラ的には否定的な意見だった。


「小さいのでいいから、この指輪に向かって出してみてくれない?」


「ピュイ」


 しょうがないなーと言いながらも、ダンパーに吐いたような小さなブレスを僕の手に吐いてくれた。


 すると、魔力に反応したのかマジックリングに描かれている魔法陣がすぐさま反応して、ブレスを吸収するべく起動する。


 そして、ブレスは僕にぶつかることなく指輪の中へとストックされていった。


「ピュイ!?」


 自分のブレスがストックされるとは思っていなかったルリカラが翼を広げて軽くパニックに陥っている。


「ピュイ!」


「えっ、もう一回やらせてほしいって。今のはちょっと軽すぎたって?」


 ブレスに重いとか軽いがあるのだろうか。


「あれ、でも指輪にストックされている魔法を出さないと新たにストックできないんだよね」


「ピュイ、ピュイ」


「えっ、自分に向かって撃て? 大丈夫なの?」


「ピューイ」


 偉大な聖なるブレスはホワイトドラゴンなら吸収することができる。吸収したブレスを含めた全力全開のブレスをお見舞いしてみせよう。


「全力全開って……。まあ、いいか。じゃあブレスを撃つよ」


 マジックリングにストックされた魔法を放つ時は自分の魔力を少しだけ指輪に流して放出をイメージするだけでいい。一応、許可、承認を得て撃ち出すことができるようだ。


「えいっ」


 小さな可愛らしいブレスがルリカラに向かって放たれると、それを体全体に浴びるようにしてルリカラは吸収していく。


 気持ち少しだけ元気になったような気がしないでもない。あと羽毛がふわふわになっている。


 聖なるブレスをストックしておけば、ブレス後に眠りについてしまうルリカラを回復させることも可能なんじゃないだろうか。


「ピュイピュイ」


 可能らしい。あのブレスは最終兵器的な扱いだけど、その後戦闘不能状態になってしまうルリカラを抱っこし続けなければならないので、もしも回復が可能なら助かる。


 あのブレスが一日に二回も撃ててしまうのか。


「ピュイ、ピュイ!」


 そんなことはどうでもいいから、本気の偉大な聖なるブレスでその指輪を破壊してやると息巻くルリカラ。


 何となくだけど、普通に吸収して終わりのような気がしないでもない。


「わかったよ。全力のブレスね」


「ニール、大丈夫なの?」


「大丈夫だと思う。何となくだけど、感覚的にわかるんだ。大丈夫かなって」


 これは口で説明するのが難しい。魔道具の安定感と言ったらいいだろうか。ブレがなくどっしりしている感じ。


 ルリカラから大量に魔力を感じると、くちばしを大きく開けたままいつでもブレスが吐ける体勢になっていた。


 僕はルリカラに向けてマジックリングを向け、眩いばかりの真っ白なブレスを全てまるっと余すことなくきっちりストックしてみせた。


「ピ、ピュイ……?」


 ルリカラから「う、嘘だろ……?」という信じられないという言葉とともに力尽きて倒れるように眠りにつくべく深い睡眠状態に入ってしまった。


「これをまた撃てばルリカラの目が覚めるのかな?」


「とりあえず、そのままストックしておけばー」


「そうね。ブレスが二回撃てるというのは戦略的にも大きいわ」


「そうだね。人にも魔物にも使える秘密兵器が手もとにあるっていうのは心強いかもしれない」

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