第33話名前はどうするか

 何だかバブルクラブとの戦闘とかやってる状況でもなくなってしまったので今日のところは戻ることにした。


 でも、戻る前にせっかく海まで来ているのでやることをやってみる。


「インベントリの中身は?」


「空っぽにしてきたよ」


「それじゃあ、よろしくね」


「うん。任せて」


 これは、アルベロが宵の月亭のおかみさんと交渉していた塩の売買についての話のことだ。


 アルベロは僕のインベントリなら海水を入れて、塩と水に分類できるのではないかと思ったらしい。


 ということで、その実験というか。塩を入手できるかの確認をするのだ。


 海水に手をふれて、限界までインベントリの中へと入れる。すると一瞬にしてインベントリの文字は赤く染まり、これ以上入らないことを意味している。


 海水をタップすると

 →水

 →塩

 →小魚

 →その他ゴミ


 水をタップすると、約六百リットルもの水が入っていた。次に塩をタップすると、塩化ナトリウム、マグネシウム、カルシウム、カリウムに分類されている。


 塩の味を考えると、こういったミネラル分もあった方がいいのだろう。


 水やその他ゴミを削除すると、塩として残ったのは二万グラム。この数字はどうなんだろう。


「アルベロ、塩っていくらぐらいで取引されているの?」


「バブルラグーンで仕入れるなら五百グラムで小銀貨一枚程度よ」


 五百グラムで千円ということは、二万グラムだと四万円か。


 えっ、この一瞬で四万円……だと。二秒も掛かっていないんだけど。


「ちゃんと成功したの?」


「う、うん。塩だけで二万グラム」


 その数字にアルベロは絶句していた。


「いっぱい採れたの? それっていくらぐらいになるのー?」


「……銀貨四枚よ」


「へぇー、小銀貨四枚かー。いいお小遣い稼ぎになるねー」


「ち、違うわよ。小銀貨じゃないの、銀貨なのよ」


「え、えっ!? ぎ、銀貨!」


 危険な冒険でお金を稼ぐよりも、塩商人として生きた方が人生楽できるのはよくわかった。


 いや、さすがに大量の塩を市場に流したら価格が下がってしまうかもしれない。きっとそんなには甘くはないだろう。だけれども、心の余裕は全然違う。


 何か困った時には塩を売ればお金を簡単に得られるのだ。これでガチャに回す資金も手に入るというもの。


 三人とも呆然としてしまい浜辺で座り込んでいたら、ようやく馴れてきたのかホワイトドラゴンが僕の顔を舐めてきた。


「お、おわっ、少しは元気が出てきた? それともお腹空いたのかな」


 ホワイトドラゴンの幼生体ともなると、何を食べるのかさっぱりわからない。


 そういえばインベントリに小魚があったな。魚、食べるかな。


 インベントリの画面をタップして小魚を取り出すと、ホワイトドラゴンの口元へ持っていった。


 すると、くんくんと匂いを嗅いでは小さな口を広げてパクリと食べてみせた。


 むしゃむしゃと豪快に頭から骨まで美味しく頂いている。


「うわー、かわいい。ニール、私にもその魚ちょうだい」


 ドラゴンの餌付けに興味津々なルイーズが魚の尻尾を持ってゆらゆらとホワイトドラゴンの鼻を刺激していく。


 お腹が空いているので魚には興味があるものの目の前の人が信頼できるのか迷っている感じだ。僕の顔と小魚を交互に見ている。


「大丈夫だよ。ほらっ、食べな」


 ホワイトドラゴンの脇を抱えて、お魚の方に近づけてあげるとパクリと咥えてみせた。


「あーあん、食べてくれたの。かわいいでちゅねー」


「わ、私にも魚をちょうだいニール」


 ルイーズの様子を見ていたアルベロも我慢できなかったのか小魚を奪っていった。


「かわいいのね。名前はどうするの?」


「名前かー。どうしようか」


 改めて情報を思い出そう。


 聖獣ホワイトドラゴン(幼生体)


 以上。オスかメスかもわからない。


 ふわふわの白い毛と翼。人見知り。好きな食べ物は魚? 赤ちゃん。そして特長的なブルーの瞳。


 ベイビーブルーアイズ。それはネモフィラという植物の別名でまたの名を瑠璃唐草ともいう。


 ネモちゃんじゃ、そのまますぎるか。瑠璃唐草、ルリカラクサ……ルリカラ。


「決めた。君の名はルリカラだよ」


「ピュイ」


 真剣そうな眼差しで綺麗に鳴いてみせた。本当に自分の名前と理解しているような気がしないでもない。


「いい名前なんじゃない」


「ルリカラかー。よろしくね」


 餌付けによって少しは馴れたのか、ルイーズやアルベロが頭を撫でても嫌々ながら許している。何となくルリカラの気持ちが伝わってくるのだ。


 これはきっとルリカラの考えがテイマーとなった僕に語りかけてくる感情のようなものなのだろう。


 おそらくはルリカラにも僕の考えていることが何となく理解できているのではないかと思われる。


 これがテイマーとテイムされた魔物の間にある信頼関係みたいなものなのだろう。


「ご飯はこの魚でいいのかな? それとも他に欲しいものとかある?」


「ピュイ?」


 首を傾げながら、ご飯という言葉に鋭く反応するものの、他に欲しいものというのが理解できない様子。


「とりあえずはまだ魚が少しあるし、あとは屋台を見て考えようか」


「そうね。冒険者ギルドでドラゴンのご飯教えてくれるといいんだけどなー」


「それは無理よ。ドラゴンをテイムした冒険者なんて聞いたことないもの」


 アルベロの考えとしては、テイムしているとはいえ、周りにルリカラがドラゴンだと伝えない方がいいのではないかとのこと。聖獣というのもよくわからないし、少し様子を見ようということだった。


 その点は僕も賛成だ。ルリカラの能力とかもちゃんと把握したいし、この子を守るために出来ることを考えたい。

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