第2話 キモくないかな?

 ギャルゲー転生。


 昨今のネット小説界隈において、もはや定番、テンプレと化している。


 一大ジャンルの1つと言っても過言ではない。


 けど、まさか俺が、そんなことに……


「……マジで須郷元則すごうもとのりだ」


 ゲーム画面にて見た姿のまんまだ。


 ほっぺをつねってみる。


「痛い」


 その声も、以前の俺のモノではない。


「マジか~……」


 俺は1度うなだれて、ため息を漏らす。


 けど、少し間を置いて、顔を上げた。


「……でも、これって何か、運命?」


 俺は生まれ変わった自分の顔を、まじまじと見つめる。


「元則ぃ~! ごはん!」


「わ、分かった。いま行くよ!」


 俺は慌てて部屋を出た。




      ◇




 この春から、高校生になる。


 高校に通うなんて、何年ぶりだろう。


 いくらガワが若々しくても、内面がこんなおっさんじゃ……大丈夫か?


 と、内心でビクビクしながら、俺はその学び舎に向かう。


「うわ、JKだ……」


 普通、俺くらいのおっさんがJKを目の当たりにしたら、興奮するだろう。


 けど、生粋の熟女好きである俺は、むしろ辟易としてしまう。


 だってこいつら、色々と敏感で、面倒なんだもん……


 とか言ったら、各方面に怒られそうだから、黙っておく。


 俺は目がチカチカするほどキラキラしているJKたちの群れを避けて、校舎に入る。


 所属するクラスは、1年A組らしい。


 教室に入ると、初対面同士ばかりのはずだけど、そこそこ賑わっていた。


 まあ、シーンとしているよりは、だいぶ良いなと思いつつ。


 俺はふと、1人の男子と目が合う。


 見るからに優男で、ちょっとなよっちい感じがする。


 俺はこいつのことを知っている。


 えっと、とりあえず……


「……よう、色男!」


「へっ?」


 やばっ、親友キャラってこんな感じだっけと思って演じてみたけど……


 さすがに、キモすぎたか?


「あ、いや、悪い……」


「いや、そんな……」


「えっと……俺は須郷元則すごうもとのりって言うんだ」


「あ、うん。僕は小林優太こばやしゆうただよ」


 知っているけど。


「よろしくな、大将!」


 バシ!


「いてっ」


「あっ、ごめん。いきなり、馴れ馴れしかったよな……?」


「う、ううん……何か、男同士のこういうやり取りって、悪くないなって」


「そ、そっか」


 良かった、ウザキャラ認定されなくて。


 なるべく、明るい爽やかキャラでいないと。


 男女ともに、そう見てもらえるとやりやすい。


「んっ?」


 その時、また別の生徒が俺に目に留まる。


 栗色ロングが清楚で魅力的な女子。


 ザ・王道・テンプレヒロインさまがいらっしゃった。


「おい、大将。あの子、見ろよ」


「えっ?」


来栖彩香くるすあやか、すでに注目されている美少女だよ」


「あ、ああ」


「ああって、反応うっすいなぁ。もっと気張れよ、主人公」


「えっ?」


「あ、いや……お前、何か感じない?」


「いや、まあ……可愛いな、とは思うけど」


「そっか……わり、俺ちょっとトイレ」


「うん」


 俺はそそくさと教室を出て、トイレに向かう。


 はぁ~、我ながら、演じていてキモいわ~。


 と、小水を放ちながら思いふける。


 まぁ、落ち込んでいても仕方がない。


 せっかく、こんな滅多にない経験をしているのだから。


 それに、俺は……


「……あっ」


 教室に戻ると。


 いつの間にやら、優太と彩香が接触し、話していた。


 優太の方はまだ、ぎこちないけど。


 彩香は笑っている。


 うん、さすが、主人公くん。


 みんな憧れの美少女ヒロインが、ホイホイと寄って来る。


 なんて、嫌味な言い方はやめておこうか。


 けど、それで良い。


 俺はその光景を、黙って見守っていた。




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