第26話 もう一度
京都駅に着いたのは17時20分。
待ち合わせ場所は駅の時計台。
ホームから急げば十分間に合う距離。
電車を降りた僕は時計台を目指して走る。
足立さんはもう来ているだろうか。
時計台が目に入り、足立さんの姿は。
いた。
カバンを両手で持ち、所在なさげに立っていた。
「待たせて、ごめん。足立さん。」
僕を視界に収めた足立さんは、ぎこちなく笑う。
「遠藤。来てくれたんだ…。ううん。待ってないよ。」
足立さんの隣に立つ。
…どうしよう。何話せばいいの?
自由行動の門限までは30分。
ここから旅館までの距離は近いが、この沈黙が続くのはまずい。最悪タクシーを使って旅館まで移動するつもりだったので問題ないけど…。
…あ、二宮さんにコンサル料払ってないや。
僕の抱えた不安は足立さんも一緒だったのか、
「ちょっと座らない?帰りはタクシー使お?」
「うん。」
駅を少し歩き、近くのタクシー乗り場まで移動する。
座れる位置に2人並んで腰掛けた。
「…ありがとね。来てくれて。」
「いや、一応約束したし。」
約束、ではなかったかもだけど。
「ん。一緒に回ってたの、二宮だよね。良かったの?」
知ってたみたい。そりゃ分かるよね。
「うん。大丈夫。二宮さんにも伝えてきたから。」
「そっか。」
「うん。」
…。やっぱりぎこちない。
「遠藤。」
「うん。」
少しの間、カバンの持ち手をいじっていた足立さんは口を開く。
「一昨日は、勢いで謝ったけど。これまで、本当にごめん。ごめんなさい。」
頭を下げる。
「あ、いや!やめて。もう十分謝られたし…。大丈夫だから。」
謝罪はもう受け取っている。話したかったのはそこじゃなくて。
「足立さんは、嘘告した僕に気を使ってくれたのかな。」
「…え?」
呟くように尋ねる僕の顔を、頭を上げた足立さんが驚いた顔をして見詰める。
「ずっと考えてたんだ。近藤くんの試合の日から。嘘告したって僕が分かっちゃったから、足立さんは気を使ってくれてるんじゃないかって。近藤くんの試合を観に行ったのも、多分僕にそれとなく気がないのを気付かせるためなんじゃないかって。」
「ちがう!ウチはっ、」
声を上げる足立さんを遮る。
先に、僕の思いを伝えたい。
「でも、一昨日近藤くんから足立さんに振られたって話を聞いて、僕の頭も整理できなくなって。足立さんが苦しんでるのは、僕が関係してるだろうから…。分からなくて…。」
話していると勝手に涙が出てきた。
「とても、楽しかったんだ…。デートの日も…。足立さんと居れた時間は幸せだったって。そう思えたんだ。だから、知りたくて。」
これが、僕の気持ち。伝えきれたのだろうか。
泣いて顔も声もぐしゃぐしゃだけど、ずっと伝えたかった思い。
「ウチね、凄く馬鹿だったんだ。」
「…。」
フフッと、口だけで笑うが、その目は揺れていた。
「遠藤のこと大好きなんだよ?それなのに、自分のことばっか考えてて。あのデートの日も、健太の試合を観にいく予定が被ったから、遠藤と行って、最悪バレても良いじゃんって思ってた。」
「…なら。」
「そう。でも栞と話してたら、ムカついてとっさに否定できなかった。嘘告もウチの中ではガチの告白なのに。周りに流されて遠藤のこと何も考えてなかった。だから罰が当たったんだ…。」
『否定できなくて』
あの言葉は本当だったのか。
「これがウチ…。意地汚くて、遠藤のこと傷つけて、それでも遠藤のことが忘れられなかった馬鹿なんだ…。」
歯を食いしばっている足立さん。感情を抑えられないのか、その瞳から涙が流れる。
「ずっと、ずっと謝りたかった。誤解を解こうなんて虫の良い話じゃなくて…。遠藤にも、妹さんにもずっと謝りたかった。」
「うん。」
「遅くてごめん。騙してごめん。言えなくって、本当にごめ…。」
その言葉を言い切る前に、僕は彼女の肩を抱いていた。
「え…、」
「大丈夫。足立さんもずっと苦しんでたんでしょ。僕と同じだよ。騙した騙されたとかじゃなくて、僕は足立さんの事が知りたかったんだ。ありがとう。喋ってくれて。」
こんな僕を好きになってくれて、ありがとう。
「うぅ…。うあぁぁ。」
足立さんの両手が背中に回る。肩を抱きしめた力を少しだけ強くした。
「…もう帰らなきゃね。」
時間は17時52分。今からじゃタクシーに乗っても間に合わない。
「そうだね、ごめん。」
すっかり謝罪の癖がついた足立さんを見て笑みが溢れた。
「ん、何笑ってんの。」
恥ずかしさを隠すような言い方だが、取り繕えてない。
「んーん。何にもないよ。」
タクシー乗り場に向かおうと立ち上がると、足立さんに腕を掴まれた。
「…遠藤。やっぱりウチは遠藤のことが好き。離れていてもずっと遠藤が好きだった。取り返しのつかない事をしたけど、それでもこの気持ちは捨てられなかった。」
「…うん。」
「だから…。もう一度、もう一度だけ…。チャンスをください。ウチと、付き合ってください。」
その瞳からまた涙を流しながら、こちらを仰ぎ見る足立さん。
僕は…。
「ごめんなさい…。」
頭を下げた。
「…そっか。うん。分かってる。ごめんね。また変なこと言って。」
予想していたのだろうか、納得させるように呟く足立さん。違う。まだ全部言えてない。
「ちがくて…!」
「えっ?」
「そうじゃなくて。僕は…。僕は、足立さんの事が嫌いとかじゃなくて…!でも付き合うってことが今は怖くて。それでも、足立さんと離れることはしたくなくて…!だから…だから…。」
整理したと思っていた気持ちも伝えられない。
それでも、この気持ちは僕から伝えなきゃいけないんだ。
足立さんは諦めなかった。なら僕も…僕も。
「…ゆっくりでいいよ。」
その言葉に涙が流れた。
ああ、駄目だな。こんなに泣き腫らした彼女にまた支えてもらうなんて。
「だから…。僕と…僕と、友達から始めてくれませんか。」
「ん。喜んで。」
涙を流しながら、微笑む。その表情はとても素敵だった。
こうして、僕と彼女の新しい関係が始まった。
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こんばんは。真です。
後書き的なスペースがどこなのかわからず、作品内で失礼します。
修学旅行編の(ほぼ)ラストです。
作者的に区切りの良い所まで書けたつもりではいます。
(これで終わってもいいのか…?と一瞬頭によぎりましたが。。まだ続きを期待してくださる読者様がいると信じて書きます!)
各評価やブックマーク並びに感想、ありがとうございますmm
あまり時間が取れない状態ですが、皆様の意見は目を通しております。
明日は私事で1話投稿の予定ですが、引き続きお付き合い頂けると幸いです。
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