第23話 イケメンの悩み
枕投げに興じた時間も過ぎ、見回りの先生から注意を受けたイケジョ男子と僕は、布団に入りヒソヒソとコイバナに花を咲かせていた。
僕?聞き専です。
「あー、やっぱ足立が1番可愛いんだよなぁ…!」
先程から足立さんに振られたエピソードと、彼女の可愛さを饒舌に語るチャラ男。
「そのくせ、彼氏いねぇんだよ。まじ上がるわ!」
「分かる。」
「うむ。華が好きだが。」
近藤くんと田村くんも眠たそうだ。
返事もおざなりになっている。それでも田村くんは今村さんへの愛を忘れていない様。流石はバカップル。
そんな2人の雰囲気を感づいたのか、チャラ男の標的は僕に移り、
「な!遠藤クンもそう思わね?まじ良くね?」
うん。分かるよ。分かる分かる。うんうんうん。
「そうだね。」
「お!遠藤クンも分かってくれる?
あのキツイとこまじ良いんだよなぁ。2人のときでもあんな感じでやってくれると上がるわ!」
そうなのかな。足立さんと仮にもデートした感じだと、彼女は人の話を本当に聞いてくれる。
適度に相槌を打ってくれ、要所要所で自分の意見をくれたり、ボッチの僕に合わせてくれる人だった。
チャラ男の足立さん像に異を唱えるつもりはなかった。それでも…。
「優しい人な気がするけどね…。」
口に出てしまっていた。
「お?遠藤クンももしかして足立の事好き?ライバルになっちゃう?」
ライバルで言うなら近藤くんだろう。
僕は足立さんの謝罪を受け入れただけ。それだけだ。
彼女の恋人に戻ったなんて思ってもいない。
「そんなつもりはないよ。」
うん。そんなつもりはない…。
「良かったわぁ!助かる助かる!」
あまりこの会話を続けたくなかった。
「それじゃ、そろそろ寝るね。」
「お!おけ!おやす!」
チャラ男も長くは続けるつもりは無かったよう。
静まり返った部屋で考える。
足立さんとの会話を。
『否定できなくて…』
あのとき、彼女は否定したかったのだろうか。
形だけでも、僕との関係を続けるつもりだったのだろうか。
分からない。
気になってしまうのは僕の弱さだ。
結局、好きでいてくれることに期待していたのだ。
僕という人間を受け入れてくれた彼女に甘えていた。
それを裏切られたことで傷ついているが、原因は僕。
嘘告であることに気付いていれば。
近藤くんが好きであることに気付いていれば。
こんなに足立さんを気にすることもなかった。
もう寝よう。ろくな考えが思いつかないため、脳を休める。明日になれば大丈夫。いつもの僕だ。
目を閉じ、意識が遠のく直前。
「遠藤。起きてる?」
近藤くんから声が掛かった。
「ん。起きてるよ。」
「そっか…。少し2人で話さないか。」
声色から真面目な話だとは察する。
「…うん。分かった。」
2人で部屋を出る。
各フロアにいくつがある中でも、教師陣の部屋から1番遠い広間に辿り着くと、近藤くんは近くの自販機に向かった。
「何か飲むか?」
あ、それ。
「大丈夫。あ、それ壊れてるからお金取られるよ?」
「え?、マジだ。マジかよ。紙分かりづらいし…。」
見ると、側面に故障中ですとの紙が貼り付けられていた。
…いやいや、観葉植物で隠されてて見えませんよ?
「はぁ、まあいいや。」
溜息をついた近藤くんは、切り替えるように僕に向き直る。
…。付いて来たはいいけど。これ、なに話されるの?
カツアゲ…?いやでも飲み物奢ってくれそうな雰囲気だったし…。
告白…?いやいや…。え?
「俺さ、足立に…、いや莉子に告ったんだ。」
は?
「まだ3年なったばかりの時、告って振られた。」
は?
「他に好きな人いるってよ。」
びっくりびっくりどんどん。不思議な力が…え?
足立さんって近藤くんのことが好きなんじゃないの?
ん?3年になったばかり?それって嘘告より前?
あ、もう駄目だ。意味わかんない。わっかんないよ!
「冗談…とかじゃない感じ?」
あるとすればこの可能性。ただ、近藤くんは少し苦笑いを浮かべ、きっぱりと否定してしまった。
「いや、マジ。」
「マジですか。」
というか。それを僕に聞かせてどうするつもりなんだろう。
「遠藤はさ、莉子のこと好きなんじゃないのか?」
「…。」
好きか嫌いか。
近藤くんの発言を全部真実だとして、足立さんのことがまた好きになるかと言われても、そんなことはない。
そこまで僕は強くない。
「嫌いでは、ないかな…。」
「…そっか。悪い。変なこと聞いて。」
本当に申し訳なさそうな表情の近藤くん。
イケメンスマイルも影を潜めていた。
「…いや、大丈夫だよ。部屋戻る?」
「そうだな。あ、俺トイレ行ってから戻るから先行って。」
広間の近くにあるトイレに向かっていく近藤くん。
じゃあ、僕も戻りますかね、と部屋への道を歩き始めた。
「…本当にご、」
彼の独り言は聞こえなかった。
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近藤視点
「本当にごめん。」
歩いていく遠藤を見送り、ソファに身体を預ける。
莉子、いや足立が遠藤に告白したのは分かっていた。
それが罰ゲームの嘘告でも、2人が付き合うことになるなら、特に疑問も持たなかった。
そういう関係から始まるカレカノも実際に見てきたから。
ただ、試合の日から足立は目に見えて憔悴してた。
遠藤と何かあったのは分かったけれど、そこに入り込むことが出来ず、ずるずると来てしまった。
俺が焦らしたから。
足立の告白が失敗しろなんて思ってない。
あの笑顔を曇らせたいなんて思ったことなどない。
あんなに傷ついている足立を見たかったわけではない。
自分の事は正直に言った。
足立の名前を呼んだのは、告白前以来だ。
少しでも遠藤に足立のことを考えて欲しくて…。
遠藤の誤解がこんな言葉で解けるとは思わない。
あいつが足立と向き合えなければ、何も終わらないし、始まらない。
余計なお節介なのは知ってる。
だけど。好きな人には幸せになって欲しい。
ただ、それだけだ。
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