第6話 二宮さんが僕を見つける

月曜日


土日、散々な目にあった僕にとって先週の安息日は無かったに等しい。

憂鬱な月曜日。

某緑色の歌手たちも、明日っからまた日月火と、1フレーズで済ませているから僕の月曜と火曜日もそんな感じでお願いしたいです。

あ、日曜は外して頂けると助かります。


心の中で、最適な1週間の休み分配を考えることで教室で会うことになる足立さんへの不安と恐怖を紛らわしている。

いや、無理でした。想像以上に学校に行きたくない。

ボッチのときは全く浮かびもしなかった思考に苦笑する。

振られる(厳密にはそもそも付き合って無かったけど)イベントは僕の心をズタズタにして、あと一突きすれば粉々になるくらいのダメージを与える様です。


貝になりたい。


いや、そう考えると、チャラ男なんてあの足立さんにもう既に複数回告白して、そこから振られてもまた立ち向かうなんていうオリハルコン並のメンタルを持っていることになる。チャラ男凄い。


チャラ男になりたい。


よし、チャラ男メンタリティを引き継いでネクストチャラ男を目指すか。

いや、そうなると僕はまた足立さんに立ち向かう必要があるのか。粘土素材の僕には到底できっこない。

前に立つだけでも吐くのを我慢して、保健室にダイブである。そして保健室のおばちゃんの結婚生活の愚痴を聞かされるだけだ。

ふむ。詰んだかもしれない。


やっぱり学校に行きたくないなあ。


ボッチでも、友達がいなくても、中学・高校と皆勤賞になれることを証明する大義はここで潰えた。

そうと決まれば、早速季節外れの大掃除を…


「とおるー!学校いくよーーー!!!」


「はーいー」


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教室内は、僕の体験した土日のから騒ぎなど知らないかのように、いつも通りだった。

まあ知らないのは当然。むしろ知られると、ただでさえボッチの称号があるのに、【嘘告された上に本命がいた美少女に振り回された哀れな】ボッチになってしまう。

この題材で小説を書けるんじゃない?

そうなると足立さんってとっても悪女じゃん。

うーん。辞めときましょう。


いつも通りイケジョ達はその陽キャと称される光を持ってクラスを照らしていた。

静かに教室にインした陰キャの僕には彼らの光は輝度が強すぎるので、そそくさと自分の席に着席する。

そんな陰キャムーブも、陽キャや陰キャといった分類から外れた第三の勢力からにはしっかりと見られていた。


「おはよう。遠藤くん。」


「おはよう。二宮さん。」


二宮さんである。

…後ろの席に人が来たらバレるよね。当たり前だった。


「遠藤くん。

土曜日は本当にありがとね!おばあちゃんもすっごい感謝してたよ!」


土曜日、二宮さんのおばあちゃんを少しだけお節介で介抱する出来事があった。

その時は足立さんを待たせていたので、すぐに退散したけど、一応お礼は受け取ったし。

これ以上お礼を重ねられるのはなんだかむず痒い。


「あ、大丈夫だよ。むしろ、あまり大した事してないのにそんなにお礼言われても逆に困っちゃうし。」


「ふーん。分かった。でも何か困ったことあったらすぐに言ってね。協力するからさ。」


困ってること…。絶賛足立さんがいる教室から抜け出したいけど、そんなことを二宮さんに言ってもなぁ。


「分かった。何かあったら相談するね。」


「うん。よろしく。」


僕史上、比較的長めの会話をこなせたことに内心喜びつつ、二宮さんと話した内容に衝撃を受けた。


【相談相手】。

相談相手。

あれ、これもしかして、友達というやつなのでは…。

…落ち着け。相談料という単語があるじゃない。

コンサルタントのような仕事は業務へのアドバイスや経営指南をする対価に金銭を貰っている。これもまた相談。

あ、だめだ希望が絶望に変わった音がしました。

僕にはまだ友達は早いようです。


そんな下らない思考にリソースを割いても、イケジョ達の声は僕の耳元まで届いてしまう。


「かー!まじ?健太の試合そんなに人観に行ってたの?」


教室内に響く声で嘆いているオリハルコンがいる。

昔の僕の憧れ、チャラ男である。

確かに、土曜日のバスケ部の試合はイケジョの面子がほぼ集まっていたのか。

反応からすると、女バスの舞さんと付き合っている野球部の田村くんも居たんだろう。

ドンマイ。チャラ男。そなたはふつくしい。


「舞は女バスだし、田村は舞の応援じゃん。私は普通に応援団としていったし、別にハブったわけじゃないから。」


桐生さん。チャラ男はそんな場があるなら自分も喚ばれたかっただけだと思うよ。

1人だけハブかれたような状態が一番効くんだから。

まぁ友達いないから、ハブかれたかこともないけどね。むしろ常に僕が周り全員をハブってるまである。

言い訳に無理があるのは認めます。


「皆来てくれてありがと。打ち上げも参加してくれて楽しかったよ。ホントは良いとこまで行ってまだまだ先にやるつもりだったんだけどさ。」


爽やかイケメンの近藤くんは、少しだけ影のある笑いをした。そんなブラックジョークもイケメン周波数が乗れば全く嫌味に聞こえないのが凄い。

もしかして、彼が最強なのかも。


「てか、足立も行ったの?応援?」


チャラ男。やっぱり僕には君を目指すことは出来ないや。

今まで、会話の中には居ても発言を余りしてなかった足立さんに直接コンタクトを取りに行った。

流石はオリハルコン。


「ん。まぁ。観るだけ。」


足立さんは覇気のない声でそう言った。暗にそれ以上触れるなというメッセージのように聞こえたけど、チャラ男的にはその中の機微を察することは出来なかったのだろう。


「うぇー、じゃあ打ち上げに行ってないん?

なら俺達仲間だわ!良かったー!」


若干、空気がピリついたのが傍から見てわかった。


「なに?別にアンタの仲間になったつもり無いんだけど。無関係のウチが打ち上げ行かないの普通じゃん。」


「え、いや、ごめんて!なんで怒ってるん?ごめんて。」


チャラ男は足立さんから突如発せられた圧に完全に白旗を挙げる。うん。怖かったね。

少しの間行動妨害を受けたチャラ男だが、また再起動すると今度は空気を入れ替えるように明るく話し始める。


「んじゃさ、今度の修学旅行でどうせ俺等同じ班になるっしょ?準備とか必要だろうからどっかで集まろうぜ!」


「お前、それ遊びたいだけだろ。」


お?田村くんが珍しくツッコみを入れてる。

寡黙キャラ田村くんは基本後ろからイケジョを見守っている位置にいる。そこに石村さんがちょくちょくパスを渡すような連携方式らしい。


チャラ男の呼びかけに、それぞれ軽い文句を入れつつも、集まることには否はないらしい。

HRの時間も近づいてきたため、イケジョ一同は解散の流れになった。


足立さんは終始テンションが低く、時折こちらを振り向くような素振りを見せていたが、結局1度も振り向くことは無かった。


さて、修学旅行か。あー。嫌だなぁ。


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放課後


HRで担任から早速修学旅行の班を決めておくようにとのお達しが来た。期限は今週まで。

僕の高校では、修学旅行は3年の5月の1週目に行われるらしい。

進学校なのに3年で修学旅行といったイベントがあるのは、授業カリキュラムだけであれば2年時に全量詰め込まれているため、3年時には模試対策などで疲れ切った生徒たちを学校行事という形で癒やすのが目的らしい。

いらん気遣いです。


クラス内のざわつきが増すが、僕には基本関係ない。

クラスの残り物として、人数が足りない受け入れ班に大人しく吸収されるだけである。

班行動もしっかりこなす。迷惑はかけない。ボッチの意地の見せ所である。

とりあえず今週までとのことなので、月曜日である今日のところは帰っていいだろう。結局は出来上がった班次第で僕の班も自動的に決まるから。


友人たちと組む組まないの話を始めたクラスを横目に、鞄を手にそっと立ち上がった僕に声をかける人がいた。


「遠藤くん。一緒の班になろ?」


そうです。二宮さんです。


「えっと、僕は受け入れ班に入ることになっているんだけど。」


「受け入れ班?なにそれっ。まだ班全然決まってないし。」


二宮さんは僕の受け入れ班というワードにツボったのか肩を震わせる。

そうは言っても、です。

二宮さんは女子である。いや、分かりきってることなのは重々理解しているけど、女子の二宮さんと組むイコールで他の女子とも同じ班になる可能性が高くなると警戒してるのです。

男子で構成された班なら問題ないと自負してる僕だが、女子多めの班で三泊四日の旅行は正直耐えれる自信がない。

それを理解していない二宮さんではないと思ったのけども。


「いいじゃん。折角の息抜きなんだし。一緒に回ろうよ。」


あ、理解していなかったです。


まぁ時間はたっぷりあるので、二宮さんが組む班であぶれ者の僕と、受け入れ班の女子1人とで交換してもらうことにしよう。

うん。丸い。


「分かった。じゃあ宜しくお願いします。」


「うん。任された!」


二宮さんの笑顔が眩しかった。












「…遠藤、二宮と組むんだ。」

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