復讐の理由

「傘、持ってったほうがいいかな……」

 ぼくは部屋の窓から空模様を確認した。灰色がかった雲が空を覆っていた。

 今日はこれから、指定された場所でネガを受け取ってくるという気の重い仕事が待っていた。ネガと引き換えに渡す三万円は、数日前に銀行から下ろしてあった。

 警察へ相談すべきではないかと思った。だがそれは、小百合の相談なしにはできなかったし、三万円で決着がつくなら、そのほうがいいのかもしれない。だからとりあえず、要望通り素直に金を払って様子を見るつもりだった。もし、それ以上の金銭を要求されたら——。その可能性は否定できなかったが、その時はその時だと思った。

 ネガを手に入れてそれを小百合に渡したら、彼女とは別れるつもりでいた。あのような写真を撮られたのも、彼女にそれなりの非があったに違いないと信じていたからだ。

 部屋を出たところで、ドア越しに妹の姿が目に入った。彼女は茶色のショルダーバッグに、参考書などを入れているところだった。髪は短めのポニーテールで、白のブラウスに赤いチェックのスカートを合わせていた。スカートの下から見える白いふくらはぎは、中学から続けているテニスの影響でだいぶたくましくなっている。夏場は、屋外での練習や試合の影響でこんがりと焼けていたが、今ではすっかり元の白さを取り戻していた。妹は兄のぼくと違い小柄だったが、それは母親のDNAを強く受け継いだ結果だった。兄妹きょうだいで身長こそ大きな差異があったが、互いの目は非常に似通っていた。

「由香、出かけるの?」

「うん、もうちょっとしたらね。友だちの家で勉強する約束してるんだ」

「そっか」

 ぼくはそのまま階下に向かおうとしたが、妹が浮かない顔をしていたため、さらに一声かけた。

「何か元気なさそうだな」

「実はね、これからいっしょに勉強する子、同じクラスの子なんだけど——」

 由香の話では、それまでまったく接点のなかったクラスメートから、ある日とつぜん親しげなアプローチを受け、友だちと呼べるような関係になったという。ところが、お互い明らかに所属するグループが違うらしく、表面上は仲良くしていても、いまだに違和感を感じているらしい。相性がさほどよくないことは相手もわかっているはずなのに、何のメリットがあって仲良くしてくるのか、相手の意図が読めずモヤモヤしているとのことだ。

「だから何か、変な感じなんだよね……」

「そっか」

「あとその子、年上の彼氏がいて、彼氏とどうとかって……」

 由香は途中で言い淀む。ぼくはすぐにピンと来た。きっと、そのクラスメートは妹に、年上の彼氏とのセックスを生々しく話して聞かせているのかも知れない。彼氏との性体験を赤裸々に語る女子は、ぼくのクラスにも少なからずいた。休み時間に人目もはばからず、「連休中に彼氏の精子、一滴残らず搾り取ってやった」と豪語していた女子生徒を思い出す。妹はそのような話題を振られて、毎回閉口しているのかもしれなかった。

「それにその子、話してるとき、いきなり真顔になることがあるんだけど、それがすごく怖くて……。わたしと話してて楽しくないなら話しかけなければいいのになって思うんだよね……」

 妹はそのクラスメートとの不自然な関係を断ち切りたいらしかったが、今のぼくには妹の心配をしている余裕はなかった。だから適当な回答で濁すことにした。

「きっと、由香なら優しく勉強を教えてくれるだろうって思ったんじゃないの」

 由香は、そうかもね、とうなずき笑顔を見せた。妹のその活力ある笑顔が、今の憂うつな気持ちを一瞬だけ忘れさせてくれた。



       *  *  *



「藤原君なら、二階にいるから」

 出迎えた女は、無表情にそう言った。女は小顔で目が大きく、小柄で、だいぶほっそりしている。間違いなく美人の部類に入るだろう。広い玄関は西洋風な造りをしていたが、目の前に立つ女の雰囲気に合っているように見えた。

 ぼくはここで、妙な胸騒ぎを覚えた。玄関扉を手で押さえたまま、この家に足を踏み入れることをなぜか躊躇してしまう。そんなこちらの思いを見透かすかのように、階段を途中まで下りてきた藤原が声をかけてきた。ポロシャツにジーパンというラフな格好だ。今まで制服を着た姿しか見たことがなかっただけに、彼の私服姿に違和感を覚えた。

「よう、何してんだよ。早く上がってこいよ」

 ぼくは藤原を見上げながら、金の受け渡しならここでもできるだろと言ってやりたかったが、ビビってると思われたくなかったので言い出せなかった。何気なく玄関のたたきを見る。藤原のものと思われる履き込まれた白のスニーカーと、目の前に立つ女のものと思われる小さな茶のローファーがあるだけだった。

 金を払ってネガを受け取る、ただそれだけだ。何も不安に思う必要なんてない。すぐに終わるさ。自分にそう言い聞かせて、ぼくは玄関に両足を踏み入れた。前に進み出たとき、今まで手で押さえていたドアがバタンと閉じる音が背後から聞こえ、ビクッと肩をすくませてしまう。このとき、目の前に立つ小柄な女がバカにしたように小さく鼻で笑ったのをぼくは見逃さなかった。

 踊り場のある立派な階段を上がって二階に向かうと、数メートルほど先に藤原が立っていた。彼は立てた親指を横にして部屋の中を指し示すと、室内へと消えていく。ぼくは彼の後を追うようにフローリングの廊下を進み、藤原が入っていった部屋に向かった。

 室内に足を踏み入れたとたん、異変に気づく。部屋の中では、藤原を含む数人の男がぼくを待ちかまえていた。逃げ出す間もなくうつ伏せに倒されると、強く床に押しつけられる。一人が背中に乗ってきて身動きが取れなくなった。完全にパニック状態になっている中、両腕が背中側に回されて、両手首を粘着テープのようなもので巻かれて左右の手が一つにされる。左右の足首もズボンの上から同様に巻かれて一つにされたあと、自由の利かなくなった両手と両足が背中側で一つにされた。

 部屋に入っておよそ一分後、ぼくは海老えび反りのような状態で固定され、逃げ出すことはおろか、立ち上がることさえできなくなってしまった。あまりのことに頭の中は混乱し、白昼夢を見ているかのような錯覚に陥っていた。

「メインイベントはこれからだぜ」

 藤原はそう言うと、ぼくの口に粘着テープを貼りつけてきた。ぼくは喉の奥からくぐもった声を発して身体をバタつかせた。男たちが愉しげな様子で見下ろしてくる。

「時間あるから、煙草でも吸いにいくか」

「部屋で吸っちゃダメか?」

「マリコがうるさいんだよ。親にバレたらやばいって」

「でも全員で行ってだいじょうぶか? 誰かこいつ、見張ってたほうがよくないか?」

 仲間の言葉に、藤原はぼくの両手両足を固定している箇所を手を使って確認してきた。

「だいじょうぶだよ。ラオウでもないかぎり、逃げ出せっこないって」

 藤原の言葉に仲間たちは納得したようだ。藤原が部屋の電気を消すと、彼らは部屋から出ていった。

 室内が無人になるとぼくは、さっそく脱出を試みるべく、背中側に回された両手両足に力を込めた。ところが、どんなに力を入れてみても、まったくびくともしなかった。藤原の言っていた通りだった。自力での脱出は望めそうになかった。ここで急に気がゆるみ、両目から涙が流れ落ちた。すぐに涙を流したことを悔やんだ。両手が使えないため、涙を拭うことができなかったからだ。彼らが戻ってくるまでに乾くことを願った。もうこれ以上、彼らに弱みを見せたくなかった。

 苦しい体勢から部屋の様子をうかがう。室内は赤色っぽいカーテンが外の光をさえぎり、就寝時につけるスモールライトのみが点灯していた。部屋は意外と広かった。八畳から十畳はありそうだ。ベッドと机、衣装ダンスなどが置かれていて、装飾から間違いなく女子の部屋だった。玄関でぼくを出迎えた女の部屋だろう。

 ベッドの上に視線を向けた瞬間、二つの小さな光を確認してぼくは息を呑む。光の正体はすぐにわかった。ペルシャ猫だった。猫は掛け布団の上に横になって、くつろいだ様子でこちらを見つめている。室内が薄暗いだけに、普段は愛らしいはずの猫も、今はとても薄気味悪く感じられた。猫は大きなあくびをすると自分の手足を舌で舐めはじめる。どうやら、こちらへの関心を失ったようだ。

 木製ベッドの短い足元に目を向けた。脚は、五、六センチほどの太さがあったが、そこにロープが結ばれていた。ロープの先端には輪っかが作られている。それが意味するところはわからなかったが、何かよからぬことに使われることだけは間違いないように思えた。不安が募り、ぼくは無理な体勢のまま身震いした。今は無事解放されることを祈ることしか、他にできることはなかった。


 三十分後くらいに、藤原たちは部屋に戻ってきた。このとき、玄関でぼくを出迎えた女もいっしょに入ってきた。

「なあ藤原。電気点けないのかよ」

「ああ。暗いほうが雰囲気出ていいだろ」

 ぼくは無理な体勢のまま彼らの様子を緊張気味にうかがっていたが、彼らはこちらが存在しないかのように振舞っている。それがかえって恐怖を助長させた。また長時間、右肩を下にした姿勢が続いていたせいで、肩周りが麻痺しはじめていた。

「なあマリコ、のど渇いた。何か持ってきてくれよ」

 藤原が女に命令する。

「コーラとかでいい?」

「ああ。何でもいいよ」

 マリコと呼ばれた女は部屋を出ていった。

 藤原はベッドから、ぼくのことを見下ろしてくる。ぼくは不本意ながら媚びるような視線を向けてしまう。身体の自由が奪われていては、どうしても強気な態度は取れなかった。それに、仮に手足が自由であっても、四人相手では勝ち目はない。ゆえにここは、従順さを示すしかなかった。

 しばらくして、マリコと呼ばれた女が戻ってきた。彼女が持つ盆の上には、黒い液体の入ったグラスが四つ乗っていた。

「そろそろ来るころだよ」

「おう」

 マリコという名の女は部屋から出ていった。いったい誰が来るのか——。ぼくはなぜか不安に駆られた。数分後、チャイムの音が響き渡る。階下から、来客を歓迎する女の声が聞こえてくる。続いて階段を上がってくる音が伝わってきた。開いたままのドアを注視していたところ、部屋の前に妹の姿が見えた。あまりの驚きに、心臓が縮み上がったように感じた。妹もぼくに気づき、両手で口を押さえた。

「お兄ちゃん!?」

 頭の中ですべてがリンクした。藤原の交際相手が妹と同じ高校に通っていること、妹に不自然に接近してきたクラスメートがいたこと、勝野小百合の写真をネタにゆすられたこと、すべて仕組まれていたのだ。そもそも金の受け渡しなど学校でもできたのだから!

 棒立ちになっていた由香は、男たちによって部屋に引きずり込まれた。乱暴に倒されると、ここでベッドの足に結ばれていたロープが使われる。由香の両手首がロープで縛られ、口にはぼくと同じように粘着テープが貼られる。続いて、ひざから折り曲げられた右脚が、すねと太ももを一つにするように粘着テープで巻かれる。

「よし、持ち上げろ」

 藤原の指示で妹が持ち上げられると、右脚を固定した粘着テープはそのまま彼女の腰の下をくぐっていき、左脚も脛と太ももを一つにされてグルグル巻きにされた。最終的に妹は、股間丸出しの、蛙をひっくり返したような姿になっていた。

 ロープで縛られた両腕を頭上に上げたままの状態で、由香は必死に身をよじって逃れようとしているが、すでに両手両足の自由が奪われた状態とあっては無駄な抵抗でしかなかった。チェックのスカートが完全にめくれ上がり、下着がまぶしいほど露わになっていた。男たちが興奮気味に感想を述べ合う。

「この場合、かえって白のほうが興奮するな」

「白の靴下ってのも、何かエロくない?」

「この女、けっこうモリマンだな」

 由香が小柄だったこともあり、男たちは予想以上にうまくことを運ぶことができた様子だ。彼らの表情からもそれはうかがえる。とくに藤原は、他の三人よりも満足そうな顔をしていた。おそらく、すべての計画を練ったのは彼なのだろう。他の三人には、このような計画を立てるだけの知能はなさそうに見えた。ここでマリコと呼ばれていた女が部屋に入ってきた。彼女は妹を一瞥いちべつしてから藤原の隣に立って言った。

「なんか、すっごい恥ずかしい格好になってんだけど。あたしもさっきは、こんなだったんだね」

「お前が練習台になってくれて助かったぜ」

「そうだよ、感謝してよね。ヒデ君のために、三回も恥ずかしい格好になったんだから」

「けど、こんな格好を兄貴に見られちゃ、自殺もんだよな——。つか、それにしてもうるさいな」

 妹がこの部屋に来てからずっと、ぼくは粘着テープの下から喉を鳴らし、身体をバタつかせ、必死になって抗議の姿勢を見せていた。藤原はそれを煩わしく感じたらしく、ジーンズのポケットからバタフライナイフを取り出すと顔を寄せてきた。

「田島、大人しくしろよ。じゃないと、痛い思いをすることになるぜ」

 ナイフの切っ先が眼球に迫る。その瞬間、ぼくの中の、勇気の一切合切が吹き飛んだ。悔しくも、刃物は期待通りの効果を発揮することとなり、ぼくはとたんにそれまでの勢いを失ってしまった。



       *  *  *



「藤原、早くやっちまおうぜ」

 ジャンケンに勝ち一番手を手にしていた林が、こらえ切れない様子でおれに言った。

 おれは焦る友人に落ち着くよう言った。

「そう焦んなよ。まずはじっくり観察してやろうぜ」

 おれの言葉に林ら三人は、納得しかねるような顔をした。気持ちは理解できた。極上の獲物を前にして股間が疼きまくっているのだろう。だが、ここはおれの好きにさせてもらう。ここではおれが王様だからだ——。

 おれは田島を見下ろした。憎たらしい同級生は、泣きそうな顔をして震えている。いい気味だと思った。おれは田島の妹の名前を麻里子に確認した。

「ユカっていったっけ?」

「そうだよ」

 田島の妹の股の間におれは陣取ると、盛り上がった彼女の恥部に下着の上から手を這わせた。すぐさま女が身体を振って激しく抵抗したため、思わず手を引っ込めた。その際、女の両手を縛るロープがつながった木製のベッドが、ズズッと音を立てて少しだけ動いた。

「大人しい顔してる割には案外抵抗してくるな。お前ら何ぼさっとしてるんだよ。この女の足押さえてろよ。あと麻里子は、ベッドが動かないよう上に乗ってろ」

 仲間ら三人が指示に従い女の足を押さえ込んだ。麻里子はズレたベッドを手で押して元の位置に戻した。このとき、ベッドの上にいたペルシャ猫が、驚いたように小さく飛び跳ねた。

 麻里子がベッドの上に乗ったのを確認すると、おれは仕切り直しとばかりに、再び女の下着に手を這わせていった。女はダクトテープ越しにくぐもったうめき声を上げた。だが今度は、仲間が動きを封じているため、じっくり堪能することができた。すぐに女の下着が尿で湿っていることに気づく。部屋が薄暗かったせいで、触るまでわからなかった。

「こいつ、漏らしてやがるよ。麻里子、ティッシュ取ってくれ」

 ベッドから下りた麻里子が、机の上からティッシュを箱ごと取って手渡してきた。

「お、おれも、触ってもいいか?」

 山本が興奮気味に聞いてくる。眼鏡の奥の、二つの目は今や、性犯罪者ばりにギラついていた。

「そう焦るなって。あとで好きなだけ触らせてやっからよ」

 おれはそう言いながらティッシュを数枚抜き取る。女の下着を手前に引っ張り、できた隙間にティッシュを挟み入れ、尿で濡れた恥部に押し当てる。軽いアンモニア臭が漂い、その匂いが部屋の空気をさらに淫靡いんびなものにする。指先を使って陰部を軽く撫で上げる。その瞬間、弾かれたように女は頭を強く振り、逃れようと必死にもがく。

「毛が薄いな」

 おれは陰部に触れながらつぶやく。仲間ら三人は、女のからだを押さえながら固唾を呑んで見守っている。

「じゃあ、そろそろお前らに、絶景を拝ませてやるか」

 おれは用意してあったハサミを手にすると、女の股の下から白い下着に指を入れ、ぐっと持ち上げた。できた隙間にハサミを縦に入れていく。まずは右側の股関節に沿って切っていき、切り終わると反対側の左側を切り取った。これで恥部を隠している中央部分の布地が分離された。そしておれは、扇形に切り取られた布地部分を手前にめくった。

 女性器が露わになった瞬間、おれの股間がたぎった。他の三人も同様だったろう。女の性器は恥毛が薄いせいで、割れ目がはっきりと見てとれた。暗がりであっても、見栄えがいいのがわかる。これまで見てきたグロテスクな女性器とは次元が違った。

「わあ、由香ちゃんのすっごくきれい」

 麻里子がクラスメートの女性器を覗き見て感嘆の声を上げた。正直な感想だったろう。カメラを構えた林が女性器にレンズを向けてシャッターを切っていく。おれが陰部に中指を少しだけ差し入れると、女は驚いたようにビクンと強く反応した。

「ずいぶん狭いな。やっぱ、ローション用意しといて正解だったぜ。麻里子、それ取ってくれ」

 おれは受け取ったローションを自分の中指に塗布すると、女の中へと挿し入れた。女が目を見開く。すぐさま必死に抵抗してくるが、仲間たちが強く押さえ込んでいるため、作業に支障をきたすことはなかった。中指はローションの力を借りて、抵抗なく奥まで沈み込んでいく。おれはローションの力を再認識する。仲間たちはといえば、目に見えて興奮していた。みな鼻息がだいぶ荒くなっている。おれは指を出し入れしながらカメラを構える林に言った。

「林、挿れるときはローション使えよ。たっぷり塗んないと、きっとお前のデカチンは入んないぜ」

 おれは中指を引き抜くと、薬指にもローションを塗った。今度は二本の指を膣口にあてがう。ゆっくり押し込んでいくと、すぐに二本の指先は、侵入を阻む障壁を感じ取る。だがここで無理はせず、指を細かく振動させ、時間をかけて膣口をほぐしていく。二本の指はローションの力も手伝って、少しずつ奥へと沈み込んでいく。

 これまで強い抵抗を見せていた女は、あきらめの気持ちからか、抵抗は極端に弱まっていた。今は大粒の涙を流し続けているだけだった。そんな中、麻里子が、ゆーかちゃん、と女の耳元で囁きかける。

「あたしの彼、優しいでしょ? はじめてでも痛くならないようにって、由香ちゃんのあそこを広げてくれてるんだよ」

 麻里子の言葉に、女は固く目を閉じて顔をそむけた。

「おれは妹のほうには恨みはないからな。それにあんま痛がられちゃ、こっちが萎えちまうからな」

 時間をかけたお陰で、膣口はだいぶほぐれたきた。奥に入っている二本の指をクイッと曲げ、壁面を刺激する。女のからだがビクンと反応する。今の反応に仲間たちが鼻息を荒くする。今度は左手の親指で女のクリトリスを軽く撫で上げる。女が苦しそうに喉を鳴らす。これまでとは違った拒絶の反応におれは気を良くする。敏感な部分への刺激はどうやら相当な刺激をもたらしたようで、女はおれの顔を見て激しく首を振りはじめる。だがおれは手を休めない。継続されている陰核への刺激を少しでも緩和するためだろうか、女は頭を激しく振り回して、右や左へと大きく身をよじる。硬くなった小さなクリトリスにさらに刺激を加えていく。女の下腹部がへこみ、腹筋が強調される。臀部の筋肉も力が入って硬くなっているのがわかる。女は全身に力を入れて痺れるような刺激に耐えているのだろう。だが、ついに限界に達したようだ。クリトリスの下から尿が勢いよく噴き出してきた。

「わあー、ダメだってえー」

 放尿を見て、麻里子が声を上げた。彼女は慌てた様子でティッシュを使って濡れた絨毯を拭いていく。

「おれ、女がションベンするとこ、はじめて見たぜ」

 女の放尿に仲間たちは、感動と興奮の入り交じった顔をしていた。おれは放尿の直撃をまともに受けて、剥き出しの両手と黒いポロシャツが濡れていた。ところが、不思議と不快感は感じなかった。ティッシュを使って濡れた部分を拭き取っていく。麻里子が、おしっこ臭くなっちゃうからほどほどにしてよね、とたしなめてきた。

「あとで掃除とかするの、あたしなんだからね」

 女の放尿を受けて、陰核攻めは中断することにした。二本の指を再び挿し込み、中のほぐしに集中する。おれは女の顔を見る。心ここにあらずといった顔をしている。おそらく未体験の刺激を受けたことで、頭の中がまっ白になったようだ。自分が放尿したことにも気づいていない様子だ。

 どうやら放尿が体の脱力を促したようで、女の膣内がだいぶ緩んできていた。分泌液の潤いが二本の指を優しく包み込んでくる。とても気持ちがよかった。膣口から有機的な匂いが漏れ出てくる。卑猥な気分が助長される。仲間たちの顔を見ると、本能が剥き出しになっているのがわかる。これ以上お預けを食らわしたら暴動を起こしそうな雰囲気だった。おれは女の中が充分な柔軟性と潤いを獲得したことを確認すると、待ちかまえていた林にゴーサインを出した。

「林、待たせたな。ぶちかましていいぜ」

 おれの言葉に林は白のブリーフパンツを興奮気味に脱ぎ捨てた。おれがローションを手渡すと、隆起した自分のものに塗りたくる。林は中背で痩せ気味の体型だったが、仲間の誰よりもペニスだけは大きかった。

 黄色のポロシャツだけになった林は、喜び勇んで女との結合を目指す。事態を察した女が、全身を大きく震わせて、抵抗の姿勢を見せる。高木と山本が、自分たちの体重を乗せて女の両足を押さえ込む。女の動きが止まったことで狙いが安定したようだ。林は自分のペニスを握りながら、女の中にぐいぐい押し込んでいく。女が狂ったように頭を振り回す。だが林は、かまうことなくねじ込んでいく。女の顔を見ると、半分白目を剥いて苦しそうにしている。おそらく大きなペニスの圧迫感が下腹部を襲っているのだろう。林が腰をぐっと押し込むと、女はからだを大きく仰け反らせた。

「林、処女の味はどうだ?」

「たまんねえぜ」

 すぐに林は狂ったように腰を振りはじめた。動きが早過ぎて、まるで猿の交尾を見ているようだ。しばらくして、腰を押し込むたびに女が強い反応を示すことに気づいたらしく、一回一回強く叩きつけるような感じで腰を動かしていく。林のピストン運動が未開の地を容赦なく刺激していくにつれ、女の顔がどんどん青ざめていく。表情から意識が朦朧もうろうとしているのがわかる。顔はダラダラと流れる涙と鼻水で汚くなっている。きっと、止まることを忘れたジェットコースターに、えんえんと乗せられているかのような感覚なのかもしれない。林は女のことなど気にもしてない様子で、恍惚こうこつとした表情を浮かべながら腰を振り続けている。

「やべえ、こりゃマジやべえ……、このまんこ、マジやべえ……」

 女が抵抗をやめていることに気づいたからだろう。高木と山本は女から少し離れて、傍観者になっていた。自分の番が早く来ないかとヤキモキしているのが表情からうかがえる。林が遅漏なのは二人とも承知しているはずだったから、暴発しそうな性欲をしばらく耐え忍ばねばならず、この状況下でそれは拷問に等しいだろうと思った。

 林は腰を振りながら、ブラウスの上から女の胸を揉みしだく。ところが中の下着が邪魔してうまく揉めなかったのか、すぐに手を離し、今度は舌を出して女の顔を舐めはじめる。きめの細かい白い肌は極上の味がしたのだろう。その味のとりことなったらしい林は、夢中になって女の顔を何度も舐め上げていく。獣じみた動きだった。女の口に貼られた灰色のダクトテープが林の唾液でテカり出す。女はまったく抵抗を見せないでいる。焦点の定まらない目は、思考が完全に停止していることを物語っていた。林に顔を舐められていることさえ認識していない様子だ。まっ青になった顔は、生きているのか死んでいるのか判別がつかないほどだった。

「林、ちょっとストップだ」

 おれは腰振る仲間に一時停止を命じた。動きを止めた林は、ほうけた顔のまま不思議そうにこちらを見たが、すぐに表情を険しくさせた。

「何でだよ」

「その女、吐きそうなんだよ」

 林は、青ざめた女の顔に今ごろ気づいたという風に少し驚いて見せた。だが、ペニスは挿れたままだった。発射するまで誰にも譲らないという空気を強く発していた。

 おれは麻里子に洗面器を持ってくるよう命じた。麻里子は大きな音を立てて階段を駆け下り、すぐに洗面器を持って駆け戻ってきた。麻里子はクラスメートの顔の横にプラスチック製の洗面器を置き、女の口を塞いでいたダクトテープを外した。と同時に、女は声を出して洗面器の中に嘔吐した。それを見て林がペニスを引き抜いて女から離れた。すえた匂いが部屋の中に漂った。嘔吐が落ち着くと、女は、ぺっ、ぺっ、と唾を吐くようにして口の中の残留物を吐き出していく。どうやら吐き気が収まったことで、女の意識が多少クリアになったらしいことが表情から読み取れた。そして女は哀願のまなざしを麻里子に向けた。

「マ、マリちゃん……、お、お願いだから、こ、こんなこと、やめさせて……、お願いだから……」

「ごめんね、ユカちゃん。それはできないの」

 麻里子は、ティッシュで女の口のまわりを拭いながら言った。優しい声色とは裏腹に、表情には底意地の悪い笑みが浮かんでいた。

「だってこの人たち、ずっと前からユカちゃんとやるの楽しみにしてたんだよ。だからユカちゃんも、この人たちのためにがんばってあげて」

 女の目から涙が伝う。麻里子は女の口をダクトテープで再び塞ぐと、汚れた洗面器を持って部屋を出ていった。おれは何度も吐かれては面倒だと思い、仲間に釘を刺した。

「林、お前、もっとソフトに攻めろよな。じゃないとそのお前のデカチンじゃ、女の体がもたないんだよ」

「ああ、わかったよ」

 林は、元気を失っていた自身の性器を右手でシゴいて大きくさせると再びねじ込んでいった。女が苦しそうにうめく。林が腰を動かしはじめる。どうやらさっきよりも、いくぶん抑え気味にしているようだ。がしかし、腰を振るごとに快感が強まっていくからだろう。腰の動きは徐々に加速していった。林の荒い息づかいだけが部屋に響く。女の表情が再び怪しくなる。下腹部への圧力が、さらなる吐き気をもたらしているようだ。だが胃の中のものは出し切っているはずだから、今は胃液だけが逆流して口の中を酸っぱくさせているのかもしれない。

「うっ、うっ、うっ、ううっ!」

 林の性器に信号が走ったようだ。ラストスパートをかけるかのように、林は体を起こすと、これまで以上に荒々しく腰を振りはじめた。激しい動きとともに女の体も揺れた。首に力が入っていないからか、頭がバブルヘッド首振り人形のように右に左にと大きく揺れ動いている。林が顔を上げて咆哮ほうこうした。同時に腰をぐっと叩きつけるように押し当てる。腰の動きが止まり、上半身がけいれんするように震える。どうやら絶頂を迎えたようだ。林は体を前に倒して女に覆い被さる。薄暗い部屋に静寂が訪れた。

 林が女と結合したまま射精の余韻に浸っているところで、仲間の一人が不安げな声を上げた。

「こいつ、中で出しちまったけど、いいのかよ……」

 仲間の言葉に、林は飛び跳ねるように女から離れた。このとき射精後も大きさを保ったままの太い性器が反動で縦に大きく揺れた。林は狼狽した顔で唇を震わせる。

「お、おれ……、あんまり気持ちよかったから、つい……」

「気にすんなよ。こうなったら全員、中で出すことにしようぜ。そんで問題解決だ」

 おれの発言に林は安堵し、他の仲間は目の色を変えた。


 山本が女と一つになって腰を振りはじめる。林と高木も参戦する。二人は女のからだに左右から覆い被さっていく。白いブラウスはボタンを外され、押し上げられたブラジャーが女の顔に当たっている。露わにされた小ぶりの白い胸を、林と高木が揉んだりしゃぶったりしている。女は魂の抜けたような顔で、目は開いていたが焦点は合っておらず、そこに生気は感じられなかった。目を開けたまま気を失っているようにも見えた。きっと自分の中で射精されたことさえ気づいておらず、仮に認識していたとしても、今の精神状態では、それが深刻なことだと思えていないかもしれない。自分の身に起きていることに思考が追いついていないか、もしくは、この現実を受け入れることを心がかたくなに拒否しているのかもしれなかった。自分を蹂躙じゅうりんする男たちや、自分を騙した麻里子に対する憎しみの感情は、今は表立ってはいないようだ。きっと今はまだ、神を呪うことさえできないだろう——。

 山本の腰の動きが早くなる。放心状態だった女がうめきはじめる。おれの隣に座る麻里子がその様子を愉快そうに眺めている。クラスメートを憐れむ気持ちは、これっぽっちもなさそうだった。白いクロスの壁に背を預けながら、麻里子は愉快そうに言った。

「うふふ。初体験がレイプだなんて、ユカちゃんて、何か可哀相な子」

 山本が果てた。高木へと選手交代が行われる。おれは田島に目を向けた。妹から二メートルほど離れた場所で、固く目を閉じて歯を食いしばっている。凌辱りょうじょくされている妹を必死に見ないようにしているようだ。身体は小刻みに震えている。いい気味だと思った。

「田島。三年間、おれの前で調子に乗ってくれた礼だよ」

 しばらくして、そろそろ高木が射精するころだと判断すると、おれは準備のためにズボンと下着を下ろして下半身を露出させた。隣にいた麻里子がローションを手に取る。

「あたしが塗ってあげるね」

 麻里子は手のひらに垂らしたローションを両手で温めてから、おれの隆起したものにていねいに塗っていく。黒々とした男根がローションで黒光りする。麻里子がおれの性器をしごきながら言った。

「ヒデ君あのね。由香ちゃんって、あたしがヒデ君とのエッチの話をすると、すごくやな顔すんだよ」

「ならおれが、お仕置きしてやんなきゃだな」

 高木が果てた。よし、とばかりにおれは立ち上がる。軽く身体を動かして上半身をほぐしてから、床の上で打ち震えている同級生を満足げに見下ろす。足先で相手の肩を軽く蹴った。田島が目を開けたのを確認すると言った。

「これからおれが、お前の妹を可愛がってやっから、よく見とけよ」

 田島の目から涙があふれる。そこには強烈な殺意が宿っていた。だが妹の姿が横目に入ったからか、田島はぱっと顔を背けて、再び固く目を閉じた。それからせるように嗚咽を上げて泣きはじめた。きっと妹を救うことのできない無力感が全身を襲っているのだろう。もしくはこれが、夢であってくれたらと神に祈ってるのかもしれない。しばらくその苦悩する様子を気分よく眺めてから、おれは田島の妹に覆い被さっていった。


 おれは射精を終えると女から離れた。脱力したように一息つく。女の膣口をぼんやり眺めていると、放出したばかりの精液が顔を出し、肛門をつたって垂れ落ちていく。そこへティッシュを手にした麻里子が近寄ってきて、精液が絨毯を汚す前に拭き取った。だがすでに仲間たちの精液が絨毯を汚していることに気づくと、彼女は露骨に顔をしかめながら体液を拭きはじめた。

 麻里子は、おれが田島の妹と一体となっている姿を見ても嫉妬する様子を見せなかった。むしろ、おれが望んだこのシチュエーション作りに貢献できたことを誇らしく思っているように見えた。彼女は、四六時中恋愛のことばかり考えている典型的な十六歳の女だった。今は彼氏であるこのおれを喜ばせることがすべてなのだろう。バカな女だと思った。だが、バカだからこそ扱いやすいといえた。

 麻里子との出会いを思い出す。おれは田島に二歳年下の妹がいることを知ると行動に移った。彼の妹が通う女子校の生徒がたむろする場所に、足を運ぶようになったのだ。ファーストフード店やファミリーレストランなどを訪れ、計画の助けとなる手駒を探し求めた。

「君ら一年? だったら、おれのクラスメートの妹と知り合いかも。知ってるかな? 田島っていうんだけど」

「それってきっと、ユカちゃんのことだね。田島ユカちゃん、 あたしたちと同じクラスの子だよ」

 マクドナルドの二階席で目的が叶った。おれはその日、女子高生三人の中から、いちばん見た目がよかった麻里子を選んだというわけだった。


 おれが発射して一巡したわけだが、これで終わりではなかった。魅力的な獲物を前にして、盛りのついた男たちが一度の射精で満足するわけはなかった。林は麻里子を押しのけると、再び女に迫っていく。

「あ、ちょっと待って!」

 麻里子は林を強引に押しとどめると、大量のティッシュを女の尻の下に敷いた。絨毯をこれ以上汚されたくなかったようだ。


 しばらくして、林、山本、高木が、それぞれ二度目の射精を終えた。その間おれはカメラを持って、仲間たちの行為を写真に収めた。

 性欲がほどよく解消されたことで、それまで張りつめていた空気は一転して落ち着きを見せはじめた。薄暗い部屋は精液の匂いで充ちていたが、鼻につくその匂いは、この部屋で行われている不道徳な行為にふさわしい匂いだとおれは思った。

 女はといえば、股を大きく広げたまま死んだようにぐったりしていた。薄い陰毛は体液に濡れて絡み合っている。尻の下に敷かれたティッシュが、多量の体液を吸収して縮んでいる。どうやらそこから放たれる濃厚で動物的な香りは、ベッドの上のペルシャ猫の関心を引いたようで、猫はぴょんと飛び降りたかと思うと、体液で濡れたティッシュを短い舌でペロペロと舐めはじめた。麻里子がそれを見て慌てた。

「あー、ミーちゃん、ダメだってー」

 麻里子は飼い猫をティッシュのかたまりから引き離すと、それはから舐めちゃダメなの、と言って飼い猫を廊下に放り出した。その様子をニヤニヤした顔で見ていた林が、床の上に横たわる田島を見て言った。

「なあ、せっかくなんだし、こいつにも味見させてやらねーか?」

 何気ない仲間の一言に、おれの身体が震えた。



       *  *  *



 藤原の仲間が発した言葉は聞き取れなかったが、ぼくは場の空気が一変したことに気づく。状況を確認するために閉じていた目を開けた。妹の陰部がいきなり視界に入ってきて、慌てて顔をそむけた。不用意に目を開けたことを悔やんだ。そのまま目を閉じていると、肩に軽い衝撃が走る。目を開けると、藤原が見下ろしていた。どうやら足で軽く蹴られたようだ。

 藤原は深くしゃがみ込んでくると目線を合わせてきた。気持ち悪いほどの満面の笑みを浮かべていた。

「おい田島、おれたちばかりいい思いしてるのもあれだからよ、これからお前にも、気持ちよくなってもらおうと思ってな」

 彼の言葉に、ぼくは心底震え上がった。胃は縮み上がり、尿が漏れた。彼らはぼくの目の前で妹をレイプしただけでなく、それ以上のことをしようとしている。それはとんでもなく常軌を逸したことだった。

 ぼくはそれだけは何としてでも阻止しなければならないと思い、海老反りの無理な体勢のまま、あらんかぎりの力をふり絞ってからだをバタつかせた。ぼくの暴れようは、どうやら周囲を動揺させたようだ。藤原をはじめ、彼の仲間たちも唖然とした表情をしている。妹の由香でさえ、ただならぬ状況に目を見開いていた。

「黙れっ!」

 怒声とともに藤原がぼくの腹部を蹴り上げてきた。呼吸が止まり、一瞬後には凄まじい痛みが内臓を駆けめぐった。こちらの意気をくじくには今の一撃で充分だったろうが、さらにもう一発、容赦ない蹴りが腹部を襲う。再び呼吸が止まり、激痛で意識が遠のいていく。ゴホゴホと喉を鳴らそうとするが、テープで口を塞がれているため上手く咳込めず、いっそう苦しくなる。溜まった鼻水が、鼻からの呼吸を阻害する。充分な呼吸ができずに胸が熱く苦しくなる。水の中に沈められたような感覚だった。視界がぼやけ、パニックで気が狂いそうになる。胃がけいれんする。死が目前に迫っている。今は生きることに必死だった。鼻水を思いっきり吸い込んで、喉に溜まったところで一気に飲み込む。気道が確保された瞬間、水面から飛び出たかのような気がした。空気を求めて必死にあえぐ。腹部の痛みをこらえながら必死の思いで鼻からの呼吸を繰り返す。途中何度か咳き込んで苦しくなったが、鼻からの呼吸に意識を向けているうちに死の恐怖は遠のいていった。しばらくして意識がはっきりしてくると、部屋に不穏な空気が流れていることに気づく。由香が不安そうな顔をこちらに向けていた。どうやら今だけ自分の境遇を忘れて、兄を心配してくれているようだ。

「おい、藤原、ほどほどにしてくれよな……。殺しとかはなしだからな……」

「うるせえ!」仲間の言葉に藤原がキレた。「おれに指図してんじゃねえよ! こいつが死んだら、お前ら死体埋めるの手伝えよな!」

 部屋に緊張が走り、みなの顔がこわばる。由香もギョッとした顔で藤原を見ている。男たちは、互いに動揺した様子で顔を見合わせる。女を犯すことは許容範囲だが、殺しとなると話は違う。そう思っているような表情だ。当然誰しも、一線だけは超えたくないはず。重苦しい沈黙がしばらく続く。

「冗談だよ。殺しなんか、するわけないだろ」

 藤原が鼻で笑って重い沈黙を破った。それでいくぶん緊張が解かれたようで、男たちは互いに顔を見合わせて、ぎこちない笑みを浮かべる。だが、仲間に向かって笑みを浮かべていながらも、藤原からは、いまだ強い殺気が感じられた。

 殴打された腹は燃えるように熱くなっていた。内臓が、悶え苦しむように暴れ回っているような感じだ。腹部への強烈な打撃は、あらがう心を根こそぎ奪い取っていた。だからぼくは、藤原にジーンズと下着を下げられたときにもまったく抵抗できなかった。

 藤原が、弱々しく縮み上がっているであろうぼくの性器を見て言った。

「これじゃダメだな。マリコ、お前、口つかって元気にしてやれよ」

 マリコと呼ばれた女は小さくうなずくと、ゆっくりとこちらに近づいて来た。何をされるかわかっていても、抵抗する気力は残っていなかった。彼女はためらうそぶりを見せることなくぼくの性器をつかむと、握ったり引っぱったりして刺激を加えてきた。しばらくして自分の性器が、硬く太くなっていくのがわかった。ぼくは固く目を閉じて絶望的な状況を耐え忍ぶ。女が身体をずらす音が聞こえてくる。すぐに性器の先に女の鼻息がかかる。ちょっとおしっこ臭いな、というつぶやきが聞こえたかと思うと、突然ねっとりしたもので性器が包まれた。女の口で咥えられたのだ。屈辱的な怒りで発狂しそうになった。藤原の皮肉混じりの声が聞こえてくる。

「お前、フェラ初めてだろ? 今日来てラッキーだったな」

 目を閉じていても、男たちの強い視線を感じた。無様な姿で醜態をさらしていることに、羞恥心で胸が破裂しそうになる。性器の先が、ちょんちょんと女の指先で弾かれる。おっきくなってきたよ、と女は藤原に告げる。

「もうちょいだな」

 性器が再び女の口に含まれる。思わず身を引くと、男たちからの嘲笑が聞こえてくる。藤原の仲間が声をかけてきた。

「こんな可愛い妹といっしょに暮らしてたんだ、一度はやってみたいって思ってたんだろ? おれだったら絶対やってるぜ。親の目盗んで毎晩やりまくりだぜ」

 生温かい口による刺激が続き、ぼくの意に反して下半身がどんどん膨張していくのがわかる。女が再び藤原に報告する。

「どう? いい感じに大きくなったよ」

「そんなもんだな」

「この人のおちんちん、けっこう大きいね」

「ああ、だな。田島、お前、顔に似合わず、立派なもん持ってんな。よっしゃ、そんじゃはじめっか。タカギ、手を貸せ」

 藤原と彼の仲間に体を抱えられた。体が宙に浮き、ぼくは慌てて目を開けて周囲を見渡す。妹と目が合ったがすぐに視線を外す。大した高さではなかったが、床に落とされやしないかと恐怖した。両手両足の自由が利くならまだしも、今は海老反りの状態で固定されているため、もし落とされたら受け身が取れない。

「ローションつけなくていいの?」

「もう充分ベトベトだから必要ないだろ。おい、ハヤシとヤマモトは女を押さえてろ」

 ハヤシとヤマモトと呼ばれた男たちが、由香の両足を押さえつける。彼女は、勃起した性器をさらしながら自分のもとに運ばれていくぼくの姿を見て、尋常でない抵抗を示した。ロープが強く引かれ、再びベッドが動く。妹の抵抗する姿を見てぼくは、残っていた勇気を奮い起こして身体を大きく揺さぶった。無重力を一瞬感じた直後、ぼくはすとんと床に落ちていった。右肩を強打して痛みで意識が遠のく。

「やれやれ」

 藤原が一つため息をつく。彼の顔を見上げると、薄暗闇の中でも怒りで顔が引きつっているのがわかる。ぼくは身動きが取れないだけに、抵抗したことをすぐに悔やんだ。腹部の激痛を思い出して血の気が引く。今度は蹴りは飛んでこなかった。だが藤原は、絨毯に転がっていたズボンの尻ポケットからバタフライナイフを取り出すと、切っ先をぼくの鼻孔にあてがった。すぐにナイフが手前にひゅっと引かれる。鼻から鮮血が噴き出した。

「わあー、ダメだってえーーー!!」

 マリコと呼ばれる女が慌てた様子で何枚ものティッシュを手に取ると、ぼくの鼻に押しつけてきた。鼻先の白いティッシュが、みるみる変色していくのが見て取れた。女はぼくの鼻を押さえたまま、手を伸ばしてさらに新しいティッシュを手に取って、ベージュ色っぽい絨毯の上に飛び散った血を拭き取ろうとする。

「やっぱ、落ちないよぉ……」

 女が恨めしそうな目を絨毯に向けている中、ぼくは飛び散った自分の血を見て怯えていた。このときすでに、自分の中に残っていた勇気の一切合切は吹き飛ばされていた。

「ヒデ君、絨毯汚れちゃうから何とかして」

「わかったよ」

 藤原は粘着テープを小さく裂くと、ぼくの鼻の傷口を塞いだ。どうやら出血はうまく止まったようだ。藤原が、バタフライナイフをぼくの目の前でちらつかせながら言った。

「いいか。また変に抵抗するようだったら容赦しないぜ。それに次は、お前の妹を傷つけるかもしれないぜ。わかったか?」

 ぼくは頭を何度も振ってうなずいて見せた。妹に血を流させるわけにはいかなかった。もう観念するしかなかった。

「マリコ、お前、妹を説得しろよ。このままだと、大事な兄貴がどうなっても知らないからなってな」

「うん、わかった」

 女は妹に顔を近づけると、髪を撫でながら優しい声色で言った。

「ねえ、由香ちゃん。お兄さんのために少しくらい我慢しなよ。これが終わったら帰してもらえるんだよ。いい? ずっと抵抗してたら、いつまでたっても帰れないんだからね」

 女の言葉に、由香の目から大粒の涙があふれ出た。彼女の目を見れば、女に諭されるまでもなく、彼らの望みを受け入れるつもりでいたことは間違いなかった。これ以上拒み続ければ、もっとひどい目に遭うだろうことは容易に想像できたろうし、またいくら抵抗したところで、彼らが決してあきらめないことはわかりきっていた。自分たち兄妹きょうだいがこの地獄から抜け出すためには、彼らの要求を受け入れるしか方法はないのだ。

 由香が観念した様子を見てとり、悪行あくぎょうは再開された。萎えてしまっていたぼくの性器は、マリコの手によって再び大きくされた。藤原と彼の仲間によって、妹のもとへと運ばれていく。抵抗したい衝動に駆られたが、ここは耐えるしかなかった。

 ぼくは妹の前に下ろされた。ちょうどぼくの性器が妹の股間に向いている。挿入を手伝うためか、マリコがぼくの性器を握ってくる。藤原たちに身体を押されて、すぐに先端が妹の膣口に当たるのがわかった。反射的に身を引いてしまう。しかしマリコに性器を持たれたまま、藤原たちが躊躇なく身体を押してくる。先端が沈み込んだかと思うと、ぼくの性器は妹の中へと深々と沈み込んでいく。頭がまっ白になっていくようだった。マリコが手を離したとき、妹と一体になっていた。

 自分のものが奥深くへと入った瞬間、妹の中で何かが壊れたのを感じ取った。最後の壁が決壊したかのようだった。ぼくは兄妹きょうだいの絆が完全に絶たれたことを悟った。妹はピクリとも動かなくなった。神経がオーバーヒートして、思考が完全に停止したかに見えた。

 ぼくは極度の羞恥心から吐き気を覚えた。ところが、自分の敏感な部分が、それを受け入れるために作られた生温かい器官に包まれたことで、下半身が射精を求めて疼いた。羞恥心に自分への嫌悪感も加わり、激しいめまいに襲われた。このまま死んでしまいたかった。

「ほら田島、じっとしてないで腰動かせよ」

 ここまできては、もう逆らえなかった。ぼくは涙を流しながら、無理な体勢のまま腰を動かしはじめた。すぐに腹部に激痛が走り、身をこわばらせる。腹を蹴られたダメージは相当だった。とはいえ、このままじっとしていれば、藤原のさらなる怒りを買いかねない。ぼくは腹部の痛みに耐えながらも小刻みに腰を動かしていく。カメラのシャッター音が聞こえた。見ると、藤原の仲間がこちらにカメラのレンズを向けていた。

 妹の中で優しく包まれた性器は、ぼくの意に反して肥大した。自分を恥じたが、どうしようもなかった。理性でどうにかなる器官ではないのだから——。大きくなったことが妹に伝わったのではないかと思うと本気で死にたくなった。目を固く閉じて腰を動かしていたところで突然、口を塞いでいた粘着テープが剥がされた。思わずギョッとした。藤原の仕業だった。

「おい田島、妹とやってて気持ちいいだろ? な、気持ちいいよな? おい、何とか言えよ」

 ぼくは唇を震わせながら、か細い声を漏らす。

「は、はい……、気持ちいいです……」

 藤原は次に、放心状態の妹に声をかけた。

「お前の兄貴だけどよ、気持ちいいってよ。よかったな」

 放心状態の妹に、彼の言葉は届いていなかったことだろう。今、部屋の中は異様な熱気が充満していた。禁断の結合は、見る者たちに並々ならぬ興奮をもたらしていることが目を閉じていても感じ取れた。ティッシュが箱から抜き取られる音が耳に届く。マスターベーションのためだろう。男たちの荒い鼻息が聞こえてくる。最悪の見世物になっている現実に、心が陵辱りょうじょくされ、尊厳が奪われていく。

「これじゃ時間かかりそうだな。マリコ、お前、手ぇ使ってイカせてやれよ」

 こちらの腰の動きが鈍化していることに気づいたようだ。藤原の命令を受けて、女がゆっくり近づいてくる。女はぼくのペニスに触れると小刻みにしごきはじめる。親指と人差し指の腹だけを使って、ぼくのが由香の中から抜けないように注意しているような手つきだ。手による刺激ですぐにイキそうになったが、射精を少しでも遅らせることがせめてもの抵抗だと思い、股間に力を入れてそれに耐えた。女の指が離れたかと思うと、性器に冷やっとした感覚が走り、からだが反応してしまう。

「あ、今ビクンてしたぁ」

 女が嬉しそうに声を上げる。目を開けて見ると、藤原がローションを垂らしてきたことがわかった。すぐに再び小刻みにしごかれる。ローションが加わったことで感度が上がり、とうとう我慢できなくなった。せめて外で射精してやろうと思ったその瞬間、その考えを見抜いたらしい藤原が先手を打つかのようにぼくの身体を押さえつけてきた。膣外での射精は不可能になった。藤原に感づかれる前に射精しとけばよかったと後悔した瞬間、妹の体内に大量の精液がほとばしった。ギリギリまで我慢したせいか、放出した瞬間、股間から頭上へと突き抜けてきた快感で頭の中はまっ白になった。

 なおも断続的に精液が放出される中、もう何もかも、どうでもいいと思った——。



       *  *  *



 目的は達したので、おれは二人を解放することにした。まずは女からだ。田島の妹は、兄と強制的に一つにされたショックからか、完全に放心状態になっていた。頭の中はまっ白になっているに違いなかった。おれは彼女の両手を縛っていたロープをほどき、両脚を固定していたダクトテープをナイフで切り裂いてやった。

 女は身体の自由を取り戻したと知るや否や、とたんに息を吹き返した。どこにそんな力が残っていたのかと驚くほどだった。女は上体を起こすと自由になった手で口を覆うテープをばっと剥がし、ブラジャーの位置など気にせずはだけたシャツを胸の前で押さえて立ち上がる。そのままテープの残骸がまだ足に貼りついたまま女はすぐに部屋のドアを目指すが、長時間足を縛られていたせいで痺れがあったのか、足もとをふらつかせて倒れそうになる。しかし彼女は両脚に力を込めるかのように必死の形相で何とか耐えて踏ん張ると、ドアを開けて廊下に飛び出す。どうやら兄を気遣う余裕はなかったようだ。女が部屋を出た直後に、廊下から激しい衝突音が聞こえてきた。転倒して壁に激突したようだ。顔でも打ちつけていたら相当な痛みだったろうが、すぐに起き上がったようで、階段を駆け下りる音に続いて玄関が騒々しく開かれた音が届く。おそらくきっと、靴を履ききらないうちに外へと飛び出していったのだろう。

「あーあ、由香ちゃん、バッグ、忘れちゃってるよぉ」

 麻里子が面倒くさそうに声を上げた。おれは彼女の発言を無視して田島の拘束をほどいてやる。自由になった両手両足が自然な位置に戻ったとき、おれが蹴り上げてやった腹部に激痛が走ったのか、田島は痛みに耐えるように両手で腹を押さえる。それから、先に部屋を出ていった妹の切り刻まれた下着を見て、田島は泣き顔になった。両手で顔を覆って田島は泣きはじめる。このまま消えてしまいたいと強く願っているに違いなかった。射精後の力ない性器をさらけ出して横たわる姿は、えも言えぬ悲壮感を漂わせていた。同級生の情けない姿をしばらく堪能したあと、おれは田島の肩を足で小突いて言った。

「お前、男だろ。いつまでもメソメソしてんなよ。妹のほうが、よっぽどしっかりしてるぜ」

 田島は痛みに耐えるように、ゆっくりと上体を起こしていった。両手両足に貼りついていた粘着テープを剥ぎ取り、腰を床につけたまま下着とジーンズをずり上げていく。しかしすぐに動きが止まる。どうやらまた、腹部に痛みが走ったようだ。顔は苦痛に歪んでいる。

 この場にあって田島は異物だった。どうやら田島もそれを感じ取ったようで、おれたちの視線を避けるように顔を下に向けたまま、必死な形相で立ち上がって下着とジーンズをいっしょにずり上げて性器をしまう。だが、立ち上がったはいいが、足元は覚束おぼつかない様子だ。風が吹いただけでも倒れてしまいそうな弱々しい姿で、今なら女や子どもが相手でも打ち負かされそうだった。見ていて気持ちがよかった。田島がドアに向かって数歩進んだところで立ち止まる。嘔吐しそうな仕草を見せたため、おれは一喝してやった。

「ここで吐いたらマジで殺すかんな。吐くなら外で吐けよな」

「ねーこれ、由香ちゃんの忘れ物」

 麻里子が女物のショルダーバッグを田島に手渡す。

 田島はバッグを力なく受け取る。

「ほらよ。これも持ってけよ」

 おれは絨毯の上に写真のネガを放った。田島は絨毯の上のネガを力なく見下ろすと、腹を押さえながらしゃがみ込んでネガを拾い上げる。そして足を引きずるようにして、一歩一歩ゆっくりと進んでいき部屋を出ていった。


 階下から玄関が閉まる音が聞こえてきた。

 田島が去ったとたん、麻里子の部屋には静けさが漂った。部屋は精液の匂いで充ちているはずだったが、鼻が慣れたのかとくに気にならなかった。仲間たちはというと、みなほうけた顔でくつろいでいる。おれも仲間たちも、下着を履かずに股間をさらけ出したままだ。

 しばらく気だるげな時間が流れたあと、高木が少し不安気な様子で言った。

「あいつの妹だけど、妊娠なんかしないよな……」

「したって別にかまわないだろ? どうせ誰の子かもわかんないんだしよ。それに、兄貴の子って可能性もあるんだぜ」

 おれの隣に座る麻里子が割って入ってきた。

「もしお兄ちゃんの赤ちゃんだったら産むのかな?」

「そんなの知らねえよ。もうおれらには関係ないことだろ? あ、そういやあいつ、三万持ってくるって言ってたんだ。受け取るの忘れてた。ま、いっか」

 高木が不安そうに聞いてくる。

「警察に行ったりしないよな……」

「バカ。行くわけないだろ。兄貴にやられましたなんて警察に言えるかよ。だいじょうぶだよ。心配すんな。もし行ったら、兄貴とやってる写真バラまいて、一生外に出られないようにしてやるよ」

 会話はそこで止み、再び気だるい時間が流れはじめた。そんな中おれは、絨毯を指でいじっている麻里子を見て、欲情している林に気づく。露出した股間はすでに半立ちになっていた。

 了承を求めるかのように林がこちらに顔を向けてくる。おれは苦笑したあと、小さくうなずいてやった。ゴーサインを確認するや否や、林は勢いよく麻里子に襲いかかってきた。おれの隣にいた麻里子はびっくりして逃げ出そうとするが、林は彼女の足をつかむと、部屋の中央まで引きずっていく。次に、ものすごい勢いで、彼女が穿いていた赤いジャージと下着を同時に脱がす。麻里子の股間が露わになった。

 その様子を仲間たちは、あきれ顔で眺めていた。

「あいつ、どんだけ溜まってんだよ」

 麻里子は自分の腰をつかんでいる林に向かって、ダメ、ダメ、ゴム付けてくれなきゃダメだってー、と腰をくねらせながら抵抗するが、林は、外で出すから心配いらねえよ、と言って強引に迫っていく。赤ちゃんできたらどうすんのよ、ヒデ君、やめさせてよぉ、と麻里子はおれに助けを求めてくるが、おれは我関せずといったていで静観を決め込む。

 林が小さな体を押さえつけて強引に自分のものを挿れていく。麻里子が、うぐぐぐぐうう、と苦しそうにうめく。

 ダメだってー、赤ちゃんできちゃうよぉ、と結合後も麻里子は抵抗を続ける。そんな彼女にかまうことなく、林は欲望のままに腰を振り続けている。

 麻里子が必死の形相で叫ぶ。

「やだもう、奥に当たってる、奥に当たってるんだってばぁ——」



       *  *  *



 ぼくはマリコと呼ばれた女の家を出てすぐに道路脇で嘔吐した。中年女性が何事かと訝しんだ目を向けてきたが、そんな冷めた視線など今は何とも思わなかった。

 妹のショルダーバッグを手にヨロヨロと歩きはじめた。どうやら雨が少し降ったようで、道路がいくらか濡れていた。足を前に踏み出すたびに、蹴られた腹部に痛みが走った。腹の筋肉が断裂しているのではないかと思うほどの痛みだった。この場で少し休みたかったが、できるだけあの家から離れておきたかったから、しばらくは我慢して歩き続けることにした。

 ぼくは家に帰るのを恐れた。妹と顔を合わせるのが怖かった。火急の解決策として、今日は家に一本電話を入れ、遅くなる旨を伝え、家族が寝静まってから帰ることにした。これで今夜だけは、妹と顔を合わせなくて済む。あと、鼻に負った傷の言いわけも考えておかなければならなかった。

 フラフラと少しずつ歩を進める中、妹の中に入ったときのことをふいに思い出して、自分の思いとは裏腹に勃起した。激しい羞恥心に襲われる。頭を強く振って脳内の映像をふり払おうとするが、イメージはより鮮明になるばかりで発狂しそうになる。再び吐き気に襲われ、嘔吐した。おかげで忌々しい映像が、いくらか鳴りをひそめてくれた。

 今日の出来事をなかったことにして、兄妹の関係を続けることなど、とうてい不可能だと思った。認めざるを得なかった。今日で妹との関係が終わりを告げたことを——。

「ヤマモト……、ハヤシ……、タカギ……、マリコ…………」

 あの部屋で呼ばれていた、藤原以外の者たちの名前が自然と口から漏れる。だが今は、彼らのことを考えている余裕はなかった。このまま消えてしまいたいという思いの他は、今は何も感じられなかった——。

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