第65話アメリカ超巨大軍事起業家の娘エリザベス②

直人が予感した通り、紀州の海の夕焼けは、すごかった。

美しいとか、荘厳であるとか、感動するとか、そんな陳腐な言葉では、全く足りない。

静かな波、遥かに広がる青い海、そして一面の青空が、ゆっくり、ゆっくり、紅に染まっていく。

神の芸術か、単なる自然の(当然の)営みか、そんなことはどうでもいい。

直人もエリザベスも、言葉を失ってしまった。

とにかく夕焼けから目が離せなかった。


直人は、そのすごさに、呆然となりながら、妹恵美を思った。

「恵美にも見せたい」と思った。

「今、どこで何を見ている?」

心の中で問いかけた。

甘えん坊の恵美、最近はツンデレ気味の恵美(口やかましかった)。

でも、直人は可愛くて仕方がなかった。

「うざい」と言われても、恵美を見たいと思った。


両親も心配になった。

血圧が高い父道夫、心配性の母好美。

「俺のせいで・・・ではないけれど、とんでもないことに」


真っ赤に染まった夕焼けは、次第に紫を帯びて来た。

「そろそろ」

直人はエリザベスに声をかけた。


エリザベスの顏は、まだ赤い。

「うん」と直人と一緒に立ちあがった。



着替えを済ませ、直人はエリザベスの部屋に向かうことになった。

エリザベスのメイドも、金髪で青い目、高身長の若い女性。

「エヴァ」と名乗った。(やや、厳し気な顏だ)

そのエヴァ、エリザベスの後を、直人、杉本瞳、南陽子が歩いた。


ただ、今までの女性の部屋に行く時と違うのは、セキュリティチェックが厳しいこと。

何度も「IDカードチェック」、「生体認証チェック」があった。

(直人は、相当な要人と判断した)

エリザベスの部屋の前でも、エヴァにより、目隠しをされた。

(おそらく、特別な入室警備装置があって、見られたくないようだ)


直人は目隠しのまま、エリザベスの部屋に入った。

「ごめんね、直人」

エリザベスの声があって、ようやく目隠しを外された。

目を開けると、杉本瞳と南陽子はいなかった。

部屋にいるのは、エリザベス、エヴァ、直人だけになった。


直人は部屋を見回した。

とにかく、広い部屋で、豪華で現代的な内装。

ただ、全面が壁、つまり、窓がない。


少し驚いている直人に、エヴァから陳謝と説明があった。(キツい口調だった)

「直人様、こちらからお招きして、何度もチェックを行いまして、申し訳ありません」

「ただ、それには理由があるので、これから説明をいたします」

「エリザベス様は、A国のトップ軍事産業R社の後継者のおひとりです」

「エリザベス様ご自身がお話になられたように、危険を避けて、12歳から、ここの紀州のアフロディーテに」

「何しろ、軍事産業関係者を誘拐、誘惑する輩が多いので、必要以上かもしれませんが、万全を期しております」


直人は、頭がグラグラとなった。

「そんな、すごい人の部屋に」

「どうして庶民の僕がいるの?」

「全く、意味が分からない」

(エリザベスには悪いと思ったけれど、エヴァのキツく高圧的な口調に反感を示した)


エヴァは、それでも態度を変えない。

「全ては、エリザベス様の安全とのため、我がR社の安全そして世界の平和のためです」

「今回の危険な行為は、エリザベス様の単なる気まぐれです」

「直人様は、とにかく、幸運なお方なのです」

(エリザベスは、エヴァには抗弁ができないようで、下を向いている)


直人は、機嫌が悪くなった。

「このまま、自分の部屋に戻ろうかと思います」

「チェックでも何でもしてください」

「そんな、人を招いておいて、人を見下したような顏をされるとか、とても、ここにいたくない」

「勝手に厳重警備の中、過ごしたらどう?」

「僕には関係ない、もともと死んだ命だから」

(直人は強い口調で言い切った)


エヴァの顏が、途端にオロオロと不安を見せている。

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