第23話ファミレスでの直人と茜

ホテル・アフロディーテの1階に、ファミリーレストラン(国内有名チェーン店)があった。


直人は、茜と向き合って座り、店内をグルグルと見回す。

茜は、そんな直人が面白い。

「全然変わらないね、その仕草、幼稚園の時から同じ」

直人は、少し笑う。

「ここ、いつも入った店と同じ内装、何か落ち着く」


茜はエビフライ定食、直人はハンバーグ定食を頼んだ。

(仲良く分け合って、自然に食べている)

直人が質問した。

「勉強もしないとなあ・・・茜ちゃんは、どうしているの?」

「さっき、メイドさんに聞いたけれど、実際、よくわからない」

茜は、笑顔のまま。

「えーっと科目によって先生も違って、教室も違うの」

「人によってカリキュラムも違う」

「対面もあるし、オンラインもある」

「その人の学力に応じて、問題も変わる」

「丁寧に教えてくれるから助かる」


直人は、茜の言葉を聞くばかり。

「茜ちゃん、また、わからないことあったら、聞くよ」

(実際、どういうことになるのか、感覚がつかめない)

茜は、ますます笑顔になった。

「わ・・・うれしい・・・優等生の直ちゃんに言われると」

「ねえ、パフェ頼んでいい?太るかな」


直人は、笑った。

「あのさ、今の茜ちゃんは、太った方がいいの」

「それくらいの茜ちゃんのほうが好き」

「だから食べて、でも無理しない量でね」


茜は苺パフェ、直人はチョコレートパフェを頼んだ。

(これも分け合って食べる)


茜は直人の顏をじっと見た。

「こんなに食べたの、子供の時以来だよ」

直人は、少し申し訳ないような気持ち。

「ごめんな、近所にいながら、力になれなくて」

「こんなに、やさしくて、可愛い茜ちゃんなのに」


茜は、また潤んだ。

「直ちゃんのせいじゃないもの、あの女のせい」

「あれが殴って来るから、食べられなくなった」


直人は、黙って聞いている。


茜は続けた。

「ずっと耐えて、もう、我慢できなくなって、ここに来た」

「追い出されたような感じ、でも、私は、あの家を出られれば、どこでも良かった」

「もう、あの女が近くにいなければ、それでいいと思った」


少し下を向いた。

「でも、ここに来ても、苛められはしないよ、でも知らない人ばかりで」

「お友だちも出来なくてさ、外国の人も多いし」

「食欲なくて・・・何を食べても残すの」

「生理・・・あ・・・・直ちゃん、ごめん、それも狂って」


(直人は、そっと茜の手を握っている)


「ベッドから起きられない時もあって、それが2年くらい」

「でも・・・死にたくなかった・・・そう思って、少し食欲が増したら・・・」

「直ちゃんを見たの」


直人は、茜の手を一度キュッと握って離した。

「後は、僕の部屋で聴こうか?」


茜は、うれしそうな顔。

「うん、直ちゃんの部屋、入りたい」


ファミレスから出て、歩きはじめると、茜は直人に腕を絡めた。

「幼稚園以来だね、恋人みたい」


今度は、直人が下を向いた。

「でも、俺、最近フラれた」

「バカ男で貧乏人って」


茜は、直人をグッと引き寄せた。

「それは、直ちゃんをフッた女がバカなの」

「マジに軽い女と思うよ」

「直ちゃんは、やさしいし、よく聴いてくれる」

「医者の先生より、話しやすいもの」

「女は、真面目に、よく聴いてくれる人が好きなの」


直人は、上手に返せない。

「そういうの、よくわからなくてさ」

「何か、人格そのものを否定されて、生きている価値がないような言い方で」

「まだ辛い、耐えなければ、と思うけれど」

「・・・その後も・・・」


直人は、新宿駅で突き落とされた「事件」を思い出している。


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