恋する夏の日

しおとれもん

第1話バックパッカー

(恋する夏の日)という真理ちゃんの歌があったよな、レトロだよな俺も・・・、ふと思った。

 潮風は緩いビンタを何度もくれた。

その度に両頬に湿っぽい潮を残して行った。

 二日前父に盆休みを兼ねて神戸北野の異人館観光旅行に連れてきてもらった俺と妹の郁美は、徳島県国府の自宅テレビで観た事のある諏訪山のジャンボジャングルジムを見に行く為、諏訪山公園へ立ち寄っていた。

 俺達、二人きり。ふたり・・・きり・・・。

ド、ドドドド?ゴォー! 諏訪山公園の東の小路に小川が流れ、赤腹やオタマジャクシや川エビが泳いでいるよと、父から聞いていた小川とは違い、都会の一角にあるビオトープがざわめき、清流が濁音と共に破壊されていた。

 郁美が怖がって僕に抱きついていたので身動きも取れず棒立ちのまま怒涛が鳴り止むまでその場で立ち尽くしていた。

 小川の川瀬にはカナムグラやカンダエビヅル等の蔓植物がびっしりと生い茂っていたので激流は見えなかったが、身長177センチのバスケ部エースが独りでに怯えている。

「ドキドキするわ、お兄ちゃん抱っこしてえ。」白い項にツルツルの括れた腰がクネル・・・。

 セキレイが鳴いた。

チチチチ!西風が走る! 郁美は、郁美が・・・。

 JKとは思えない身体の甘えん坊な性格の郁美が、「僕らはみんな生きている?。」突然、歩きながら歌い出した背中の郁美の表情は、この上ないあどけなく可愛らしいものだった。

 だから、俺は郁美に釣られて合唱していた。

バックパッカ

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